「依拠(いきょ)」とは?生成AIで問題になる著作権侵害・盗作の判断基準をやさしく解説

生成AIで画像や文章、音楽を作れる時代になりました。「似ている作品が出てきたけど、これって著作権侵害なの?」という相談も増えています。
ここで多くの方が最初に気にするのは「似ているかどうか」ですが、実はもう一つ、同じくらい重要なキーワードがあります。それが 「依拠(いきょ)」 です。

ざっくり言うと、依拠とは 「既にある作品(既存著作物)を材料として使って作ったかどうか」 という点です。
同じ結果に見えても、「たまたま似ただけ」なのか、「元作品を踏まえて作った」のかで、法的評価が大きく変わり得ます。

この記事では、一般の方向けに、依拠の意味・判断の流れ・生成AIで起きやすい“間接依拠”・トラブル回避策まで、できるだけ噛み砕いて解説します。

1 依拠とは何か――「見た・知った・使った」の問題

著作権侵害(とくに複製・翻案=アレンジして別の作品を作ること)が問題になる場面では、一般に次の2本柱で検討されます。

  • 依拠があるか(元作品に触れて、それを使ったか)

  • 表現が似ているか(作品として共通する部分があるか)

このうち「依拠」は、言い換えると アクセス(接触)+利用 です。
元作品に触れた可能性が高く、その上で作品づくりに取り込んだといえるか、という発想になります。

ここで大事なのは、依拠は「心の中の問題」に見えて、実務上は 客観的な状況(周辺事情)から推認されることが多い という点です。本人が「見ていない」「偶然です」と言っても、それだけで決まるとは限りません。なお、依拠の考え方には整理の仕方があり、「元作品を知っていて、取り込む意思があったか」といった認識・意図を重視する見方(主観的な説明)と、「元作品を材料として利用したという事実」を重視する見方(客観的な説明)が対比されます。裁判実務では、当事者の内心だけで決め切れない場面も多いため、アクセスの状況や制作過程の痕跡など、客観事情の積み上げで依拠を推認することになります。

2 「偶然に似ただけ」なら侵害にならない――依拠が“入口”になる理由

依拠が重要だと言われる理由は単純です。
著作権侵害として問題になる「複製」や「翻案」は、一般に 既存作品を材料として再製した(依拠した)こと が前提になりやすいからです。

つまり、極端に言えば、
「同じに見える」=即アウト ではありません。
同じに見えることがあっても、作り方がまったく独立していれば、侵害の枠組みに乗りにくい場面があります。この点は、最高裁の整理とも整合します。最高裁(後述判例①)は、「複製」を、既存の著作物に依拠してその内容・形式を再製することだと捉え、依拠がないなら、たとえ“同一性があるように見える作品”ができても侵害とはならないという筋道で説明しています。したがって、生成AIでも「似ている」だけで結論を急がず、まず“材料にしたか(依拠)”を確認するのが安全です。

逆に言えば、依拠の手掛かりが強いと、「似ている」議論の前に、すでに警戒信号が点きます。生成AIのトラブルが複雑に見えるのは、この“入口”の事情が、従来よりも多様になったからです。

判例でつかむ「依拠」――裁判所はどこを見ているのか

ここまで「依拠=元作品を材料として使ったかどうか」と説明しましたが、これは裁判例の積み重ねで固まってきた考え方です。生成AIの場面でも、結局は次の3つの視点が軸になります。

  1. 元作品に触れる機会があったか(アクセス)

  2. 材料として使ったと言えるか(依拠)

  3. “表現として”どこまで共通するか(類似・本質的特徴)

この見方を、代表的な判例で確認します。

判例① 「偶然に似た」だけでは侵害にならない(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)

最判昭和53年9月7日・裁判所HP

最高裁は、著作物の「複製」とは、単に同じような結果になったことではなく、既存著作物に依拠して再製したことをいう、という考え方を示しています。したがって、既存著作物と同一性があるように見える作品でも、依拠がなければ複製に当たらず、著作権侵害の問題が生じないと整理されます。

生成AIで言えば、「出力が似ている」だけで直ちに結論が出るのではなく、どう作ったか(材料にしたか)がまず問われる、という位置づけです。

判例② 「翻案(アレンジ侵害)」でも、依拠+“本質的特徴”が要る(江差追分事件)

最判平成13年6月28日(江差追分事件)・裁判所HP

最高裁は、翻案(アレンジして別の作品を作ること)について、保護対象はアイデアではなく表現であることを前提に、依拠があるだけでは足りず、元作品の「表現上の本質的な特徴」を直接感じ取れるかが重要になる、という枠組みを示しています。

生成AIでも同様に、「雰囲気が近い」程度なのか、それとも元作品の“らしさの核心”(特徴の束)が残っているのかで、評価が分かれ得ます。

判例③ 依拠は「強い類似」から推認されることがある(どこまでも行こう/記念樹事件)

東京高判平成14年9月6日(いわゆる記念樹事件)・裁判所HP

依拠は本人が認めないことも多いため、実務ではアクセス可能性+類似の強さから推認することがあります。記念樹事件の判決は、既存曲に依拠し、表現上の本質的特徴の同一性を維持しているかという枠組みを示しつつ、顕著な類似性を重要な事情の一つとして、アクセス可能性等と総合評価し、依拠を推認する考え方を示しています。

生成AIでも、出力が「偶然では説明しにくい一致」を示す場合、プロンプトや生成ログ、参照の有無が依拠の推認材料になります。

判例④ 同じ題材でも侵害とは限らない――写真でも「表現」の違いを見る(廃墟写真事件)

知財高裁平成23年5月10日(廃墟写真事件)・裁判所HP

ここで一つ、生成AIにも通じる“誤解しやすいポイント”を補強します。
写真の世界では、同じ被写体(同じ廃墟)を撮ること自体は珍しくありません。この事件でも、原告写真と同じ廃墟を被写体とした被告写真が争われましたが、控訴審は、翻案(依拠+本質的特徴)の枠組みを前提にしつつ、被告写真から原告写真の表現上の本質的特徴を直接感得できないとして、侵害を否定する方向で判断しています。

この裁判例が伝えたいのは、
「同じ題材(テーマ・被写体)=侵害」ではない
という点です。生成AIでも、「題材が似た」「よくある構図になった」だけで直ちに侵害とは言い切れず、結局は (1)材料にしたか(依拠)  (2)表現の核心が残っているか が問われます。

まとめ:判例が示す「依拠」チェックのコツ

判例を通して見ると、裁判所が見ているのは、結局つぎの順序です。

  1. 元作品に触れる機会があったか(アクセス)

  2. 材料として使ったと言えるか(依拠)

  3. 表現の核心(本質的特徴)が残っているか(類似)

だからこそ、生成AIの利用では、出力そのものだけでなく、プロンプト・参照(RAG)・追加学習(LoRA)・編集工程を「作り方の記録」として残すことが、説明上も予防上も有効になります。

3 依拠はどうやって判断される?――「直接証拠」より「積み上げ」

依拠は、本人が素直に認めるケースは多くありません。そこで現実には、次のような 間接事実(周辺事情) を積み上げて推認していくことになります。

  • 元作品が有名で、接触可能性が高い

  • 制作者の活動領域や経歴から、元作品に触れた可能性が高い

  • 作品の一致・類似が“偶然”では説明しづらい(特徴的な表現が重なる)

  • 制作過程の記録(メモ、下書き、編集履歴、会話ログ等)に参照の痕跡がある

要するに、「一発で決まる証拠」よりも、いくつもの事情が同じ方向を向いているか が重要です。
そして生成AIでは、この「制作過程の痕跡」が、プロンプトやログとして残りやすいのが特徴です。

4 生成AIで特に揉める「間接依拠」――本人は見ていなくても起こる

生成AIの厄介さは、利用者が「元作品を見ていない」と言うケースでも、争いが起こり得る点です。理由は、生成AIが何らかのデータを学習・参照して出力を作る仕組みであり、本人が直接見ていなくても 仕組みとして既存作品が介在し得る からです。この「仕組みとして介在し得る」を整理するために、依拠の経路は大きく二つに分けて考えることができます。
 AIモデル側の影響:学習によって形成された特徴(モデル側の性質)に由来して、出力に影響が出るケース
 ユーザー側の指示・入力:ユーザーがプロンプト等で与えた情報に由来して、出力に影響が出るケース
生成AIの依拠は、どちらのルートが強いのか(または両方が絡むのか)を押さえると、議論の整理が一気にしやすくなります。

たとえば次のような構図です。

  • 学習データの中に既存作品が含まれていた

  • 追加学習(特定の作風に寄せる学習)をしていた

  • 外部の資料を検索して参照しながら出力する仕組みを使っていた

  • その結果、出力に既存作品の“表現”が濃く反映された

この場合、利用者の感覚としては「勝手に似ただけ」に見えがちです。
しかし紛争の場では、「どの程度“材料として使った”と言えるか」「偶然といえるか」が、具体的事情によって判断されます。ここが、生成AI時代の依拠問題の中心です。

5 依拠を整理するための5類型――まず「どのパターンか」を押さえる

生成AIの相談では、いきなり結論に飛ばず、まず「どのタイプか」を分けると理解が早くなります。典型的には次の5類型です。

  1. 元作品をプロンプトに直接入力(画像や文章を貼る、長文を入れる等)

  2. 元作品を知っていて、作品名・作者名を入れて寄せた

  3. 元作品を知っていて、名前は出さず“似せる指示”で寄せた

  4. 元作品を知っていたが、似せる意図はなく、結果が似た

  5. 元作品を知らない(と主張)まま生成し、結果が似た

一般的に、①②③は依拠が肯定されやすく、④⑤は争点になりやすい傾向があります。
特に④⑤は「偶然の一致」なのか「間接依拠」なのかの境界線に位置し、主張立証が難しくなりがちです。

6 ここが分かりにくいポイント――「作り方の記録」を4つに分ける

生成AIの依拠をめぐる説明で、「結局、何を見ればいいの?」となりやすい部分があります。
結論から言うと、紛争になりやすいのは「結果」だけでなく、途中で何を材料にしたか です。なぜ「作り方の記録」が大事かというと、生成AIでは、モデル内部(学習で形成された特徴や重み)がそのまま外から見えるわけではなく、現実には“プロンプトに対してどんな出力が出たか”という反応から推認する場面が多いからです。生成AIにおける依拠の検討では、モデル内部を直接確かめるのが難しい以上、入力(指示)と出力(結果)の関係を手掛かりにする発想が重要になってきます。そこで、次の4点(プロンプト/参照/追加学習/工程)を残しておくと、説明が通りやすくなります。

① 何を入れたか(プロンプト)=AIへの「指示書」

プロンプトとは、AIに出す指示文のことです。料理で言えば「レシピの指示」に近いものです。

たとえば、
「白背景でシンプルに」「短く、やわらかい口調で」「ビジネス向けに」
といった方向性を決めるのがプロンプトです。

ここで注意したいのは、プロンプトに 作品名・作者名・キャラクター名・有名な決め台詞 などの「特定の作品を連想させる言葉」を入れると、
「その作品を狙って寄せた(=元作品に依拠した)可能性が高い」
と見られやすくなる点です。
つまり、プロンプトは単なる指示ではなく、「何を狙って作ったか」を示す手掛かりにもなります。

② 何を参照したか(RAGなど)=作りながら「資料を見たか」

RAG(ラグ) は、簡単に言うと、AIが文章を作るときに 外部の資料を検索して参照し、その内容を踏まえて出力する仕組み です。
人間で言えば、文章を書きながら「資料(PDF・社内マニュアル・Web記事など)」を開いて参照するのと似ています。

この方式は便利ですが、参照した資料の中に第三者の著作物(記事・本・台本・画像など)が含まれていると、
「参照=材料として使った」
と評価されやすくなります。
自分が直接コピペしたつもりがなくても、AIが参照していれば、実質的に“材料にした”と見られ得るためです。

③ 何を学習させたか(LoRAなど)=AIに「クセを覚えさせたか」

LoRA(ローラ) は、生成AIに追加で学習させて、特定の雰囲気や作風に寄せやすくする“追加訓練” のような仕組みです。
例えるなら、料理人に「この店の味」を集中的に覚えさせる研修に近いです。

LoRAを使うと、狙った雰囲気の出力が出やすくなる一方、学習に使った素材が第三者の著作物(許諾のない画像や文章)だと、
「その素材に依拠している(=元作品を材料としている)」
という疑いが強まりやすくなります。
また、追加学習によって“寄せる力”を上げている場合は、偶然の一致ではなく 意図的に近づけた と見られやすい点にも注意が必要です。

④ どう編集したか(工程)=出力後に「人がどう仕上げたか」

生成AIの出力は、そのまま完成品として使われるとは限らず、多くの場合、人が編集して仕上げます
この「仕上げの経過(工程)」も、依拠の判断材料になります。

たとえば、

  • 似ている部分が出たので、構図や表情を変えた

  • 特定作品を連想させる要素(小物・台詞・背景)を削った

  • 表現が被りそうな言い回しを全面的に書き換えた
    といった作業です。

この工程が分かると、

  • 似すぎを避けるために修正した(注意して作った)
    のか、あるいは逆に、

  • 似せる方向に寄せた
    のかが見えます。
    つまり工程は、トラブル時に「偶然か、依拠か」を説明するための“足跡”になります。

まとめ:難しく考えず「作り方の記録」として押さえる

以上の4点は、言い換えると 「AI作品の作り方の記録」 です。

  • プロンプト:AIへの指示書

  • RAG:参照した資料

  • LoRA:追加で覚えさせたクセ(追加学習)

  • 工程:出力後の仕上げ(編集)

この記録があるだけで、無用な疑いを招きにくくなり、万一問題になっても落ち着いて説明しやすくなります。

7 依拠と「作風」は別物――アイデアと表現の線引きを意識する

ここで誤解が多い点を一つだけ整理します。
著作権が保護するのは、一般に アイデアそのものではなく表現 です。

たとえば「青春の学園恋愛」というテーマ(アイデア)が似ていても、それだけでは侵害とは言い切れません。
一方、特定作品に固有の要素――たとえば人物の特徴の組合せ、独特の台詞回し、固有の小物配置、構図のセット――が揃ってくると、「表現の取り込み」が疑われやすくなります。

「作風っぽい」だけで直ちに結論が出るわけではありませんが、少なくとも、固有要素まで寄っているかは意識しておくのが安全です。

8 具体例で見る:どこから依拠が強く疑われるのか

ここからは理解のための架空例です(実例の断定ではありません)。

例1 画像を貼って「この絵を別ポーズで」

元画像をプロンプトに貼り付け、「同じ衣装・同じ背景で別ポーズ」と指示した場合、元画像がそのまま材料になります。
このタイプは依拠が肯定されやすく、偶然の一致で説明するのは難しくなります。

例2 作者名・作品名を入れて「この作風でこのキャラ」

作者名・作品名・キャラ名などの入力は、「その作品に寄せる意図」を推認されやすい要素です。
出力に固有の造形や決め台詞が出れば、依拠と評価される方向に事情が集まりやすくなります。

例3 名前は出さずに“特徴の組合せ”で寄せる

「線が細い」「影は少なめ」「目は大きく」「制服」「教室」など、一般化した要素だけなら直ちに結論は出ません。
ただし、これが特定作品の固有表現のセットに近づくと、偶然の説明が難しくなります。
いわば「雰囲気」から「固有表現の束」に踏み込む瞬間が危険域です。

例4 何も意識せず生成したら似た

この場合は④⑤に近く、争点は「偶然なのか」「参照や追加学習が介在していないか」「類似の強さはどの程度か」に移ります。
特に“特徴的な一致”が多いほど、偶然説明は難しくなる傾向にあります。

9 トラブルを避けるための実務的チェックリスト(利用者向け)

ここからは予防策です。難しいことを全部やる必要はありません。まずは“入口”を塞ぐ発想が有効です。

(1)プロンプト設計で「固有名詞」を避ける

  • 作品名・作者名・キャラ名・ブランド名を入れない

  • 有名な決め台詞や名場面をそのまま指定しない

  • 「似せる」より「要件(目的)を一般化して言語化」する
    例:温かい雰囲気、余白多め、落ち着いたトーン、説明的ではなく会話調、など

(2)出力が「似すぎた」と感じたら公開しない

  • そのまま投稿せず、プロンプトを変えて再生成する

  • 構図・背景・小物・人物の特徴を大きく変える

  • 特定作品を連想させる要素が残るなら削る/描き直す

(3)ログを残す(自衛にもなる)

「何をしたか」を後から説明できると、無用な疑いを避けやすくなります。
特に商用利用や拡散が前提の投稿では、次のメモだけでも残す価値があります。

10 最低限の「保存メモ」テンプレ

  1. 最終版プロンプト(可能なら代表的な試行版も)

  2. 参照した資料の一覧(ファイル名/URL/日付)

  3. 追加学習を使った場合:素材の出典と許諾の有無

  4. 編集内容:どこをどう直したか(箇条書きで十分)

この4点があれば、後から「偶然です」と言うよりも、はるかに説得的に説明できます。
逆に、何も残っていないと、誤解や疑いを解くのが難しくなります。

11 まとめ――依拠は「結果」ではなく「作り方」で差がつく

生成AIの時代は、作品が似てしまうこと自体をゼロにはできません。
だからこそ、重要なのは「似た/似ない」の水掛け論を避けるために、どう作ったかを説明できる状態にしておくことです。

  • 何を入れたか(プロンプト)

  • 何を参照したか(RAGなど)

  • 何を学習させたか(LoRAなど)

  • どう編集したか(工程)

この4点を「作り方の記録」として押さえるだけで、依拠をめぐるトラブルはかなり減らせます。
生成AIは便利ですが、便利な分だけ“材料の混ざり方”が見えにくくなります。見えにくいところこそ、記録と運用で補う。これが一番の現実解です。

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