ゴーストライター契約と著作権法

ゴーストライター契約とは

ゴーストライター契約とは、著作者としての名前が公表される人物(著作名義人)と、実際に著作物を創作する人物(ゴーストライター)との間で結ばれる契約です。この契約に基づいて、ゴーストライターが創作した著作物が、著作名義人の名で公表されることになります。このような契約は、一般的に合法とされている一方で、社会的な評価や道徳的な観点から批判を受けることもあります。

 ゴーストライター契約の合法性

著作権法の観点から見ると、ゴーストライター契約は、著作名義人が実際に著作物を創作していないにもかかわらず、その名前で著作物を公表するという点で、問題視されることがあります。しかし、当事者間で合意がある場合、その合意は通常、法律的に有効とされます。このため、ゴーストライター契約そのものは、原則として合法であると解釈されています。

著作権法第121条では、「著作者名詐称の罪」が規定されていますが、これは他人の実名や周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物を頒布した者を罰するものです。しかし、この規定は、合意がある場合には適用されないとする判例(大審院判決など)が存在します。このため、ゴーストライター契約が成立している場合、121条に違反しないと考えられることが多いです。

ゴーストライター契約の社会的評価

ゴーストライター契約は、法律上は有効であっても、社会的な評価や道徳的な観点から問題視されることがあります。特に、著作名義人が自らの手で創作していない著作物を、あたかも自分の手によって創作したかのように公表することは、社会の信頼を損なう可能性があります。著作名義人が高い社会的評価を受けている場合、ゴーストライター契約の存在が明るみに出ると、その評価が一気に崩れることも少なくありません。

著作者人格権とゴーストライター契約

ゴーストライター契約において、著作権(著作財産権)はしばしば著作名義人に移転されますが、著作者人格権はゴーストライターに留保される場合が多いです。著作者人格権は譲渡できないため、ゴーストライターが著作者人格権を行使する権利を持ち続けます。しかし、これが実際に行使される場面は限られています。例えば、著作物が改変される場合に、ゴーストライターが著作者人格権を行使することを選択すると、ゴーストライター行為が公になるリスクがあります。

ゴーストライター契約における対価と著作権の帰属

ゴーストライター契約における対価の支払い方法は様々です。多くの場合、ゴーストライターは一括で報酬を受け取ることが多いですが、出版物の場合は印税方式が採用されることもあります。また、著作権の帰属に関しても、著作名義人に移転されるケースが一般的ですが、ゴーストライターが著作権を保持し続ける場合もあります。この場合、ゴーストライターは二次的な利用(例えば、文庫化や再出版)の際に再度報酬を得る可能性があります。

ゴーストライター契約のリスクと法的問題

ゴーストライター契約には、いくつかのリスクと法的問題が伴います。例えば、契約の秘密保持義務がある場合でも、ゴーストライターが契約内容を公開するリスクがあります。また、ゴーストライターが著作者人格権を行使する際に、その行為が公表されるリスクも存在します。さらに、ゴーストライター契約が違法とされる可能性がある場合、契約当事者双方が法律的なリスクを負うことになります。

佐村河内事件に見るゴーストライター契約の社会的影響

「佐村河内事件」は、ゴーストライター契約が社会的にどのような影響を及ぼすかを示す典型例です。この事件では、佐村河内守氏が全聾の作曲家として「現代のベートーベン」として高い評価を受けていましたが、実際には新垣隆氏が楽曲を作曲していたことが明らかになりました。この事実が公表された後、佐村河内氏の評価は急落し、社会的な批判が集中しました。この事件は、ゴーストライター契約が社会的な信頼をどのように揺るがすかを示しています。

ゴーストライター契約の今後

ゴーストライター契約は、今後も続いていく可能性がありますが、その社会的評価や法的な扱いについては、さらなる議論が必要です。特に、ゴーストライター契約が公序良俗に反する場合や、社会的な信頼を損なう場合には、注意が必要です。また、著作者人格権の行使に関する問題や、著作権の帰属に関する争いが発生する可能性もあるため、契約の際には契約書を作成するなど十分な注意が必要です。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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