付属DVD映像を無断でYouTube公開?出版社でも「氏名表示権」で賠償された判例(知財高裁R6.3.28)

1 はじめに:動画を「納品」した後に起きる、いちばん多い事故

YouTubeやSNSでの動画公開は、いまや出版・教育・医療の世界でも当たり前になりました。ところが、実務でよくあるのは「DVDに入れて売る」ところまでは想定していたのに、後から「宣伝にもなるからYouTubeにも載せよう」と話が広がり、権利処理が置き去りになるケースです。
本件もまさにその類型で、書籍付属DVDに収録されたアニメ映像を、出版社がYouTubeで公開したところ、制作者が「無断公開だ」として損害賠償を求めた事案です。

結論だけ見ると少し意外です。控訴審(知財高裁 令和6年3月28日判決・令和5年(ネ)10093号)は、出版社の公開行為について「制作者の著作権(財産権)の侵害は認めない」としつつも、「作者名を表示しない公開」は氏名表示権(著作者人格権)の侵害として賠償を命じました(慰謝料80万円+弁護士費用8万円=計88万円)。
つまり、発注側が幅広く使える局面がある一方で、表示を軽視すると“別の入口”から責任が生じ得る、という判決です。

2 事案の概要:付属DVDの映像を長期間、ほぼ全編公開

本件は、医師が執筆した「てんかん発作」に関する書籍に、付属DVDとして「発作の様子をアニメーションで再現した映像(複数症例)」が収録されたところ、出版社がその映像をYouTubeで公開したものです。映像制作は、アニメ制作を業とする制作者が受託して制作・納品しました。
出版社は、DVDのメニュー画面等を除いた「連続再生される映像部分」を複製し、平成29年8月3日から令和2年12月22日までの間、YouTube上で誰もが閲覧可能な状態で掲載しました。公開期間は長期に及び、掲載箇所に制作者の氏名または屋号の表示はありませんでした。

制作者は、(1)ネットで公開して誰でも見られる状態にする権利(公衆送信権)の侵害、(2)作者名を表示するかどうかを決める権利(氏名表示権)の侵害を主張して、損害賠償を求めました。

3 まず押さえる枠組み:「著作権(お金の権利)」と「作者名(人格の権利)」は別物

この事件を理解するコツは、著作権を二つに分けて考えることです。

(1) 著作権(財産権)
コピーする、配信する、販売する、といった行為をコントロールする“お金の権利”です。これは契約で譲渡されたり、法律上の仕組みで発注側に集中したりすることがあります。

(2) 著作者人格権
作者としての名誉や同一性、そして「名前を出す・出さない」を守る“人格の権利”です。代表例が氏名表示権で、原則として譲渡できず、作者に残り続けるのが基本です。
本件は、まさに(1)と(2)が違う方向に動いた事案でした。

さらに本件では、映像が「映画の著作物」に当たると整理されたことが大きなポイントです。映画というと劇場用を想像しがちですが、教育・医療目的でも、視聴覚的効果を生む形で表現され、DVD等に固定されていれば「映画の著作物」になり得ます。原審(東京地裁 令和5年8月30日判決)も控訴審(知財高裁 令和6年3月28日判決)も、この点は肯定しています。
そして映画の著作物には、一定の場合に著作権(財産権)を「映画製作者」に集中させる仕組み(著作権法29条1項)があり、ここが“作った人=常に権利者”にならない理由になります。

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4 原審(東京地裁 令和5年8月30日・令和3年(ワ)12304号)の判断:医師が著作者で、映画製作者も医師

原審(東京地方裁判所 令和5年8月30日判決・令和3年(ワ)12304号・裁判所HP)は、まず映像全体に創作性(著作物性)があると判断しました。医学説明の部分だけを見ると表現の幅が狭い面があっても、人物や背景、画角、日常場面から発作へ至る見せ方、症例の選択・配列などに表現上の選択がある以上、著作物だ、という整理です。

そのうえで原審は、制作者が制作工程を担い創作的に寄与していることに加え、医師も、症例選択・順序、参考動画提示、人物設定や画角の指示、全体コンセプトの提示、完成判断などに関与したとして、医師も著作者に当たる(共同著作物)としました。
さらに原審は、資金調達の枠組みや医師側の営業活動、経済的リスクの負担状況等を重視し、映画製作者は医師であると認定しました。

結論としては、著作権法29条1項により著作権(財産権)は映画製作者(医師)に帰属するとして、出版社のYouTube公開について制作者の著作権侵害(公衆送信権侵害)は否定しました。
ただし、作者名を表示しない公開については、正当化できる慣行が立証されていないとして氏名表示権侵害を認め、損害として55万円(慰謝料50万円+弁護士費用5万円)を命じました。

5 控訴審(知財高裁 令和6年3月28日・令和5年(ネ)10093号)の判断:前提が入れ替わる

控訴審(知的財産高等裁判所 令和6年3月28日判決・令和5年(ネ)10093号・裁判所HP)は、映画の著作物該当性を前提にしつつ、原審の「著作者」と「映画製作者」の認定を大きく組み替えました。

まず著作者について、控訴審は、医師の関与を「医学的正確性の確認、助言、アイデア提供」と整理し、具体的な表現(絵コンテ、レイアウト、背景、作画、編集等)を創作したとはいえないとして、著作者は制作者のみと判断しました。ここは、アイデアではなく表現が保護対象だという著作権の基本を、真正面から当てはめた形です。

次に映画製作者について、控訴審は、「製作意思」「製作に関する法律上の権利義務の帰属」「収入・支出の主体」という観点を示し、制作委託契約の当事者として支払義務等を負うのは出版社であること、医師が不足分を負担する合意も認められないこと等から、映画製作者は出版社だとしました。
その結果、著作権法29条1項により著作権(財産権)は出版社に帰属し、出版社のYouTube公開について制作者の著作権侵害(公衆送信権侵害)は否定されました(結論自体は原審と同じでも、理由の骨格は逆転しています)。

一方で、氏名表示権侵害は控訴審でも肯定され、公開期間が長期に及び、再生回数も多数に達していた事情等から、損害額は88万円に増額されました。

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6 この事件の“肝”:結論よりも「誰が何者か」の整理が実務に効く

本件は、「著作権侵害は否定/氏名表示権侵害は肯定」という結論だけ見ればシンプルです。ところが、原審と控訴審の差は、次の二点に集約されます。

(1) 医師は著作者なのか
原審は共同著作者としましたが、控訴審は著作者ではないとしました。実務的には、監修者や発注者がどこまで踏み込むと「表現の創作」になるのか(単なる確認・助言を超えるのか)が問われます。

(2) 映画製作者は誰なのか
原審は実質的リスク等を重視して医師、控訴審は契約上の義務主体を重視して出版社としました。つまり、資金の“出どころ感覚”だけで判断すると危険で、契約当事者(支払義務・責任主体)が誰かが決定的になります。

ここから読み取れるメッセージは明確です。
「企画した」「監修した」「お金を集めた」だけでは足りず、裁判所は、①表現を作ったのは誰か、②法律上の責任主体は誰か、という二つの物差しで冷静に整理します。

7 実務の教訓:YouTube公開で揉めないためのチェックリスト(そのまま運用に使えます)

本件で出版社が賠償責任を負ったのは、著作権(財産権)ではなく氏名表示権(人格権)でした。ここから、発注側・制作側どちらにも役立つチェックリストをまとめます。

(1) 二次利用の範囲を先に決める
YouTubeに全編公開するのか、抜粋にするのか、期間制限を付けるのか。SNS広告、講演配布、社内研修などの利用も含めて、最初に列挙します。後出しで拡張するとトラブルの火種になります。

(2) 公開フロー(承認)を決める
タイトル、サムネ、概要欄、公開タイミングを誰が決めるか。公開前に制作者へ確認するのか。ここが曖昧だと、公開後の修正交渉が長引きます。

(3) クレジット(作者名表示)のルールを決める
概要欄に「制作:〇〇」と書くのか、動画内テロップを入れるのか、どの名称(氏名/屋号)で統一するのか。表示しない合意をするなら、その理由と対価まで含めて明文化した方が安全です。

(4) 編集・改変の可否を決める
尺調整、字幕差替え、切り抜き、再編集の可否と、事前承諾の要否を決めます。「少し切るだけ」「字幕だけ」と思っても、のちに同一性保持(内容を勝手に変えられない利益)などの争点になり得ます。

(5) 権利帰属の設計を確認する
映画の著作物として29条1項による集中を前提にするのか、制作側に権利を残しライセンスで運用するのか。後者なら、利用範囲・対価・期間・地域を具体化します。

(6) 紛争時の緊急対応を決める
クレームが来たら即時非公開にするのか、誰が判断するのか、費用は誰が負担するのか。炎上や誤情報拡散が絡むとスピードが命になります。

本件のように「業界では表示しないこともある」「書籍を見れば分かる」といった運用は、裁判では通らない可能性があります。表示は“軽い作業”に見えて、実は最も揉めやすいポイントです。

よくあるQ&A:現場でそのまま使える3つの確認

Q1 「制作費を払ったのだから、自由に公開できる」のでは?
A “自由に使える”かどうかは、契約と、映画の著作物としての整理(誰が映画製作者か)で変わります。本件の控訴審では、出版社が映画製作者とされ、著作権(財産権)の侵害は否定されました。しかし、それでも氏名表示権の問題は残りました。つまり「公開できるか」と「作者名をどう扱うか」は別の論点です。

Q2 作者名は、概要欄に書けば十分ですか?
A ケースによりますが、少なくとも「どこに、どの名称で」表示するかを事前に合意しておくことが重要です。運用上は、(a)概要欄に明示、(b)動画内の最後にクレジット表示、(c)両方、のいずれかを選ぶことが多いです。無表示にするなら、その合意(表示しないこと)自体を明確にしておかないと、後で争点化します。

Q3 「監修者」がいると、監修者が著作者になるのですか?
A 監修者が常に著作者になるわけではありません。控訴審は、医学的正確性の確認や助言は「表現の創作」とは別だとして、医師を著作者としませんでした。監修の範囲を「内容確認・誤り修正」にとどめるのか、具体的な画面構成や演出(表現)まで指示するのかで、評価が変わり得ます。

すぐ使える表示例・条項例(骨子)

・YouTube概要欄の表示例:「制作(アニメーション):〇〇(氏名/屋号)」
・動画内表示例:「Animation by 〇〇」等(表示位置:末尾5秒、フォント等は協議)
・契約条項(骨子)例:「発注者は、本件映像を公衆送信(YouTube等)する場合、制作者名(氏名又は屋号)を、概要欄及び/又は映像内に表示する。表示方法は別紙のとおりとする。」

こうした“短い合意”があるだけで、公開後に慌てて調整するコストが大きく下がります。

8 まとめ:今日の実務へのメッセージ

映画の著作物では、著作権(財産権)が映画製作者に集中し得るため、発注側が利用しやすい設計になりやすい一方で、作者名の表示のような著作者人格権は別問題として残り得ます。

YouTube公開が当たり前になった今、映像制作では、納品物そのものだけでなく、「公開」「表示」「編集」という運用ルールを、最初に書面で固めておくことが最も確実な予防策です。
たった一行のクレジット条項が、のちの紛争コストを大きく減らすことがあります。

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弁護士 大熊 裕司
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