書・フォントに関する著作権

著作物の「書・フォントに関する著作権」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。

書体やフォントの著作権について

 書体やフォントなどの文字のデザインについては、一般的に著作物性が認められにくいとされています。
これは、過去にゴナU事件・最高裁平成1297日第一小法廷判決・裁判所ウェブサイトという印刷書体に関する最高裁判例があるからです。
「ゴナU事件」で、最高裁は、印刷用書体の著作物性について完全に否定することはしていませんが、印刷用書体が著作物として認められるには以下の2つの要件を満たす必要があるとしました。

 1従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、

2かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていること

 まず第1の要件として「独創性」をもとめています。これは、「印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものである」ので、既存の書体との「わずかな差異」を有していれば著作物として認められるとすると、「無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。」からであるとしています。

2の要件として印刷書体字体が美術鑑賞の対象となり得るような「美的特性」をもとめています。これは一般論として実用的な機能美と美術品としての美は、美の性質が異なるものである点が考慮されたものと思われます。

印刷用書体というのは、本来的な機能として「文字の有する情報伝達機能を発揮する必要がある」ため、著作物性が認められるのは一般的に困難と言えるでしょう。

以下、ゴナU事件の判決を引用します。

一 著作権法二条一項一号は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定めるところ、印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。この点につき、印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり(著作権法一九条ないし二一条、二七条)、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することになる。また、印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。

 ただし、フォントをパソコンなどで使用するために用いられるフォントのプログラムについては、プログラムの著作権侵害が認められる可能性があります。
平成15年(ワ)第2552号事件では、原告のフォントのプログラムの海賊版を顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしていた被告に対して差止請求及び損害賠償請求が認められています。

このようにフォントのプログラムについては、プログラムの著作物として保護されることが一般的ですので、勝手に複製したりプログラムを改変して使用したりすると複製権侵害や翻案権侵害となる可能性があるので注意が必要です。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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