知財高裁令和4年6月29日判決(裁判所ウェブサイト)
令和4年6月29日に知財高裁で下された判決は、漫画家が自らの著作物を違法に公開した海賊版サイト「漫画村」に関連する広告を提供した広告代理店に対して損害賠償を請求した事件に関するものです。この事件は、著作権侵害に関与する行為がどのように評価されるのかという点で、非常に重要な判例となっています。
事件の概要
被控訴人(一審原告)である漫画家は、自身の漫画作品が無断で「漫画村」というウェブサイトにアップロードされたことにより、著作権を侵害されたと主張しました。漫画村は、利用者が無料で漫画を閲覧できる違法な海賊版サイトであり、多数の漫画作品が無断で公開されていました。
一方、控訴人(一審被告)である広告代理店は、この違法サイトに対して広告を提供していたことから、被控訴人は控訴人らの行為が著作権侵害を幇助するものであると主張し、損害賠償を求めました。第一審では、広告代理店の行為が公衆送信権の侵害を幇助したと認定され、被控訴人の請求が認容されました。
判決の要点
知財高裁は、第一審の判断を支持し、広告代理店の控訴を棄却しました。判決の要点は次の通りです。
- 広告代理店の行為が幇助に当たると認定
- 控訴人らが「漫画村」に広告を提供し、その広告収入がサイト運営の資金源となっていたことから、控訴人らの行為が公衆送信権の侵害行為を助長し、補助したと認められました。
- 特に、「漫画村」のような違法サイトは、その運営維持に多額の経費が必要であり、広告収入がその主要な資金源であったため、広告代理店の行為はサイト運営に不可欠なものであったと判断されました。
- 故意または過失の認定
- 知財高裁は、控訴人らが少なくとも平成29年5月までには、「漫画村」が違法な海賊版サイトであることを認識していたと認定しました。特に、サイトの外観や運営形態から、その違法性が明白であったことが指摘されました。
- また、海賊版サイト問題が当時既に社会的な注目を集めており、広告代理店としての業務を行う上で、これを認識していなかったことは過失であると判断されました。
- 因果関係と損害賠償
- 知財高裁は、広告代理店が提供した広告収入が「漫画村」の運営を支えるものであり、その結果として被控訴人の作品が無断で公開され、売上が減少したことに相当因果関係があると認定しました。
- そのため、広告代理店には損害賠償責任があると判断されました。
判決の影響と考察
この判決は、インターネット上の著作権侵害に対する関与行為に対する責任を明確にしたものです。特に、広告代理店が提供する広告が、違法サイトの運営を支える重要な資金源となっている場合、その行為が幇助行為と見なされ、法的責任が問われることが示されました。
この判決は、インターネット広告業界において、広告提供先の適法性を確認する責任がより一層求められることを示しています。広告代理店は、提供先が違法なサイトでないかを事前に確認する手続きや、違法サイトへの広告提供を避けるための対策を強化する必要があります。また、違法コンテンツの掲載が疑われる場合には、迅速に対応することが求められるでしょう。
さらに、この判決は、著作権侵害に対する法的規制が強化される中で、インターネット上での違法行為に対する社会的な認識を高める役割を果たしています。著作権侵害に対しては、サイト運営者だけでなく、関与する第三者にも責任が及ぶ可能性があることを示した点で、重要な先例となるでしょう。
最後に
本件は、インターネット広告業界における法的責任の範囲を明確にし、著作権保護の観点からも重要な判例です。今後、広告代理店や関連する企業は、広告提供先の適法性を確認し、著作権侵害に加担しないよう慎重な対応が求められます。著作権者の権利を侵害する行為に対しては、法的責任が厳しく問われることを再確認させる判決でした。