ピンク・レディー事件(最高裁平成24年2月2日判決)

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本件の上告人(原告、控訴人)らは昭和51年から昭和56年まで,女性デュオ「ピンク・レディー」(以下,単に「ピンク・レディー」という。)を結成し、子供から大人にいたるまで幅広い支持を得ており、その曲の振り付けをまねることが全国的に流行しました。
被上告人(被告、被控訴人)は、書籍、雑誌等の出版、発行等を業とする会社であり、週刊誌「女性自身」を発行しています。
平成18年秋頃に、ダイエットに興味を持つ女性を中心として、ピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法が流行しました。被上告人は平成19年2月13日、同月27日号の週刊「女性自身」を発行し、その16頁ないし18頁に「ピンク・レディー de ダイエット」と題する記事(以下「本件記事」という。)を掲載しました。
本件記事は、タレント(以下「本件解説者」という。)がピンク・レディーの5曲の振り付けを利用したダイエット法を解説することなどを内容とするもので、本件記事には、上告人らを被写体とする14枚の白黒写真(以下「本件各写真」という。)が、掲載されています。
本件各写真は、かつて上告人らの承諾を得て被上告人側のカメラマンにより撮影されたものですが、上告人らは本件各写真が本件雑誌に掲載されることについて承諾しておらず、本件各写真は、上告人らに無断で本件雑誌に掲載されたため、上告人が提訴したというものです。
最高裁は、「肖像等を無断で使用する行為は,1.肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,2.商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,3.肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」との判断基準をしめしました。
本事件においては、最高裁は「(1)上記記事の内容は,上記週刊誌発行の前年秋頃流行していた,上記歌手の曲の振り付けを利用したダイエット法を解説するとともに,子供の頃に上記歌手の曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。(2)上記写真は,約200頁の上記週刊誌全体の3頁の中で使用されたにすぎず,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8cm,横3.6cmないし縦8cm,横10cm程度のものであった。」ということで、この(1)、(2)など判示の事実関係の下においては,専ら上記歌手の肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,当該顧客吸引力を排他的に利用する権利(いわゆるパブリシティ権)を侵害するものとして不法行為法上違法であるということはできないとされました。

ピンク・レディ事件-最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁

人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき、最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁、肖像につき、最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決・民集59巻9号2428頁各参照)。そして、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し肖像等を商品等の広告として使用するなど専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合にパブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となると解するのが相当である。

これを本件についてみると、前記事実関係によれば、上告人らは、昭和50年代に子供から大人に至るまで幅広く支持を受け、その当時、その曲の振り付けをまねることが全国的に流行したというのであるから、本件各写真の上告人らの肖像は、顧客吸引力を有するものといえる。

しかしながら、前記事実関係によれば、本件記事の内容は、ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく、前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき、その効果を見出しに掲げ、イラストと文字によって、これを解説するとともに、子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして、本件記事に使用された本件各写真は、約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上、いずれも白黒写真であって、その大きさも、縦2.8cm、横3.6cmないし縦8cm、横10cm程度のものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件各写真は、上記振り付けを利用したダイエット法を解説し、これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって、読者の記憶を喚起するなど、本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。

したがって、被上告人が本件各写真を上告人らに無断で本件雑誌に掲載する行為は、専ら上告人らの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず、不法行為法上違法であるということはできない。

パブリシティ権に関する説明は、以下の記事をご覧ください。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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