著作隣接権の「レコード製作者の権利」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。
レコードとは
著作権法2条1項5号では、「レコード」とは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。」と定義されています。
LPレコードやSPレコードなどのアナログ型のレコードのほか、CDや携帯型USBメモリなども含みます。
「(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)」という除外規定がありますので、例えば、音と映像が一緒に記録されているDVDビデオ等は除かれています。
レコード製作者とは
著作権法2条1項6号では、「レコード製作者」とは、「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。」と定義されています。歌手がレコーディングして、最初に原盤を作った者がレコード製作者となります。「ユニバーサルミュージック」、「ソニーミュージック」、「日本コロムビア」などの大手のレコード会社の名前は聞いたことがあると思います。こうしたレコード会社は、単にレコードを製作して販売するだけではなく、新人歌手を育成し、スターに育て上げるために、さまざまなプロモーション活動も行っています。
業界において、「原盤」とか「原盤権」という用語が使用されていますが、著作権法上の用語というわけではありません。用語としては曖昧に使用されていることが多いですが、著作権法上の「レコード」、「レコード製作者」、「著作隣接権」の意味について理解できていれば、契約書を作成したり、チェックしたりすることもできると思います。
原盤の製作には、設備や機械の準備等、多額の費用がかかることから、レコード製作者の投資保護の観点から、著作隣接権が認められています。
ただし、技術の進歩により、原盤の製作に必要な設備は簡略され、多額の費用がかかるという実態はないとの指摘もあります。最近では、大手レコード会社以外にも、小規模なインディーズレーベルも多数あります。
しかし、現行法上は、多額の費用を要しなかったとしても、最初に原盤を製作した者がレコード製作者となり、様々な権利が付与されています。もちろん、契約によって、著作権法と異なる取り決めをすることは契約自由の原則から許されています。
レコード製作者に認められている著作隣接権
1.複製権
レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有しています(著作権法96条)。「複製」とは、音源を「有形的に再製」することですので(2条1項15号)、レコードの増製(リプレス)、CDの再生音をビデオやDVDに録音することも複製に該当します。
なお、レコード製作者は、実演家と異なり、ワン・チャンス主義の適用はありませんので、レコードが映画の著作物に収録されることについて、レコード製作者が同意していたとしても、新たに映画の著作物を複製する場合には、レコード製作者の許諾が必要となります。ワン・チャンス主義については、以下の「実演家の権利」をご覧ください。
2.送信可能化権
レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有し、レコード製作者には送信可能化権が認められています(著作権法96条の2第1項)。
なお、実演家にはワン・チャンス主義が採用されているため、録画物や映画の著作物に実演が録音された場合は、送信可能化権は認められていませんが、レコード製作者にはワン・チャンス主義は採用されていませんので、レコードが録音された映画の著作物がインターネット配信された場合は、差止請求をすることができることになります。
3.商業用レコードの放送等に対する二次使用料請求権
著作権法上、レコード製作者には放送権、有線放送権は認められていませんが、「放送事業者等は、商業用レコードを用いた放送又は有線放送を行つた場合・・・には、そのレコード・・・に係るレコード製作者に二次使用料を支払わなければならない。」(97条1項)と規定し、商業用レコードを用いた放送又は有線放送を行つた場合には、レコード製作者に二次使用料請求権を認めています。
4.譲渡権
レコード製作者は、そのレコードをその複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有し、レコード製作者には譲渡権が認められています(著作権法97条の2第1項)。
ただし、レコード取引安全のため、権利消尽規定が置かれています(著作権法97条の2第2項)。したがって、一旦市場で流通した後の中古レコードに対しては、譲渡権を行使することはできません。
5.貸与権
レコード製作者は、そのレコードをそれが複製されている商業用レコードの貸与により公衆に提供する権利を専有し、レコード製作者には貸与権が認められています(著作権法97条の3第1項)。
ただし、貸与権の行使期間は、商業用レコード発売から最長1年間に限られ(著作権法97条の3第2項)、権利行使期間経過後は、報酬請求権のみが認められることになります(著作権法97条の3第3項)。
YouTube等の動画投稿サービスでの音楽利用
JASRACのホームページでは、YouTubeなどJASRACが利用許諾契約を締結している動画投稿サービスについては、JASRAC管理楽曲を含む動画を著作権処理をすることなくアップロードすることができる旨説明されています。
しかし、幾つかの例外も記載されており、単純な話ではないようです。詳細は別の機会に譲りますが、JASRACが著作権者から包括的に委託を受けているわけではないことから、YouTubeで音楽を使用するにあたっては、複雑な問題があるわけです。
<JASRACの許諾が必要になるケース>
1 広告や宣伝を目的とする動画をアップロードする場合
2 外国曲を含む動画を、「個人以外」の「法人」や「学校」、「団体・グループ」がアップロードする場合
3 会場等に観客を招いてコンサートやダンス発表会等のイベント・コンテスト等を開催する場合
<JASRAC以外の権利者へ許諾が必要になるケース>
4 市販のCDなどの音源を利用する場合
5 編曲したり、訳詞を作って利用する場合
YouTubeなどの動画配信をしている人にとっては、上記4、5が問題となりそうです。4(市販のCDなどの音源を利用する場合)については、以下のように、市販のCDやダウンロードした音源を利用する場合には、著作隣接権者であるレコード製作者や実演家の許諾が必要であると書かれています。
JASRACは著作権者(作詞家、作曲家)の権利を管理しているだけですので、JASRACとの間で著作権の処理はできても、著作隣接権者であるレコード製作者や実演家の著作隣接権については、別途許諾を得る必要があるのです。
市販のCDやダウンロードした音源を利用する場合、著作権とは別に、著作隣接権(音源製作者やアーティストの権利)の許諾を得る必要があります。音源製作者(レコード会社等)へ直接お問い合わせください。
また、5(編曲したり、訳詞を作って利用する場合)も、編曲権についてはJASRACの管理外のため、編曲権を有している楽曲の権利者(作詞者、作曲者、音楽出版社等)の許諾を得る必要があるわけです。
ご利用になる楽曲を編曲する(訳詞を付ける、替え歌にする)場合、編曲(訳詞、替え歌)に関する許諾を得る必要があります。JASRACは編曲(訳詞、替え歌)に関する権利を管理しておりませんので、あらかじめご利用になる楽曲の権利者(作詞者、作曲者、音楽出版社等)にご連絡ください。