ノグチ・ルーム事件ー建築の著作物

平成15年()第22031号 著作権仮処分命令申立事件

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/053/011053_hanrei.pdf

申立の概要

債務者である「学校法人慶應義塾」は、三田キャンパスにおいて、慶應義塾大学大学院法務研究科 (以下「法科大学院」という。)を開設するために、新校舎を建設するに当たり、 同キャンパス内に存する建築家谷口吉郎(故人)と彫刻家イサム・ノグチ(故人) が共同設計したという第二研究室棟(以下,本決定においては,第二研究室棟の建 物全体を指して「本件建物」という。)を解体し、本件建物の一部、イサム・ノグチ製作に係る本件建物に隣接する庭園及び庭園に設置された彫刻2点を、新校舎3階部分に移設する工事を実施しようとしていました。

債権者ザ・イサム・ノグチ・ファウンデイション・インク(以下「債権者イサム・ノグチ財団」という。)は、イサム・ノグチの死後、同人の著作物に関する一切の権利を承継したとして、債務者の行為はイサム・ノグチの著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであると主張し、また,同財団を除くその余の債権者11名(以下「債権者教員ら」という。)は,いずれも慶應大学の教員であるが、世界的文化財の同一性を享受することを内容とする文化的享受権を有するなどとし、債務者の行為は同権利を侵害するものであるなどと主張して、いずれも債務者に対し、本件建物等の解体、移設工事の差止めを求めて本件申立がなされました。

本件申立は、最終的には債権者らが被保全権利を有することが疎明されていないとして却下処分となっています。

争点

著作者人格権(同一性保持権)の侵害の有無

 裁判所の判断

 イサム・ノグチの著作物について

著作者人格権(同一性保持権)の侵害がみとめられるには、まず本件建物が著作物性を有していなければなりませんが、その点については以下のように判断がなされています。

 建築家谷口吉郎とイサム・ノグチは、ノグチ・ルームを含む本件建物、庭園及び彫刻の製作について、これを両者による共同作業と位置付けていて、事実関係によれば、ノグチ・ルームは、本件建物を特徴付ける部分であって、庭園と調和的な関係に立つことを目指してその構造を決定されている上、本件建物は元来その一部がノグチ・ルームとなることを予定して基本的な設計等がされたものであって、柱の数、様式等の建物の基本的な構造部分も、ノグチ・ルーム内のデザイン内容とされているものであり、ノグチ・ルームを含めた本件建物全体が一体としての著作物であり、また、庭園は本件建物と一体となるものとして設計され、本件建物と有機的に一体となっているものと評価することができるので、ノグチ・ルームを含む本件建物全体,庭園及び彫刻は一体となっていて、一個の建築の著作物を構成していると認められると判断されました。

そのうえで、ノグチ氏の彫刻については、庭園全体の構成のみならず本件建物におけるノグチ・ルームの構造が庭園に設置される彫刻の位置、形状を考慮した上で、設計されているものであるから、谷口及びイサム・ノグチが設置した場所に位置している限りにおいては、 庭園の構成要素の一部として上記の一個の建築の著作物を構成するものであるが、同時に、独立して鑑賞する対象ともなり得るものとして、それ自体が独立した美術の著作物でもあると認めることができると判断されました。

 本件工事による著作物改変の有無について

本件工事が、著作物の改変にあたるかは、建築の著作物については「本件工事は,ノグチ・ルーム及び『無』と題する彫刻を含めた庭園の現状をできる限り維持した形でこれを移設しようとするものであるが,本件建物全体についてその形状が改変されるのはもちろんのこと,本件建物を 特徴付ける部分であるノグチ・ルームについて製作者の意図する特徴を一部損なう結果を生じ,庭園についても周囲の土地の形状等をも考慮に入れた上での製作者の意図が失われるものであるから,ノグチ・ルームを含めた本件建物全体と『無』と題する彫刻を含めた庭園とが一体となった建築の著作物が,本件工事により改変され,著作物としての同一性を損なわれる結果となるといわざるを得ない」として改変にあたるとしました。

その一方で、「独立した美術の著作物としての彫刻においては,製作者の意図は当該彫刻の形状・構造等によって表現されているものであるから,展示される場所のいかんによって,製作者の意図が見る者に十分に伝わらないということはない」と判断されました。

 建築の著作物に対する本件工事が著作権法20条2項各号に規定するやむを得ない改変にあたるか

「著作権法20条2項2号は,建築物については,鑑賞の目的というよりも,むしろこれを住居,宿泊場所,営業所,学舎,官公署等として現実に使用することを目的として製作されるものであることから,その所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から,著作物自体の社会的性質に由来する制約として,一定の範囲で著作者の権利を制限し,改変を許容することとしたものである。これに照らせば,同号の予定しているのは,経済的・実用的観点から必要な範囲の増改築であって,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変や必要な範囲を超えた改変が,同号の規定により許容されるものではないというべきである。(省略)本件工事は,法科大学院開設という公共目的のために,予定学生数等から算出した必要な敷地面積の新校舎を大学敷地内という限られたスペースのなかに建設するためのものであり,しかも,できる限り製作者たるイサム・ノグチ及び谷口の意図を保存するため,法科大学院 開設予定時期が間近に迫るなか,保存ワーキンググループの意見を採り入れるなどして最終案を決定したものであって,その内容は,ノグチ・ルームを含む本件建物と庭園をいったん解体した上で移設するものではあるが,可能な限り現状に近い形で復元するものである。これらの点に照らせば,本件工事は,著作権法20条2項2号にいう建築物の増改築等に該当するものであるから,イサム・ノグチの著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものではない。」と判断されました。

 著作権法60条但書の適用について

「著作権法60条但書は,著作物の改変に該当する行為であっても,その行為の性質及び程度,社会的事情の変動その他によりその行為が著作者の意を害しないと認められる場合には,許容されることを規定している。そして,著作者の意を害しないという点は,上記の各点に照らして客観的に認められることを要するものであるところ,本件においては,上記のとおり,本件工事は,公共目的のために必要に応じた大きさの建物を建築するためのものであって,しかも,その方法においても,著作物の現状を可能な限り復元するものであるから,著作者の意を害しないものとして,同条但書の適用を受けるものというべきである」と判断されました。

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弁護士 大熊 裕司
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