著作権の権利制限の「美術の著作物等の原作品の所有者による展示(第45条)」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。
著作権法47条の趣旨
著作権法47条は、「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により、第25条に規定する権利を害することなく、これらの著作物を公に展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」旨を規定しています。
例えば原作品の所有者等から許諾を受けて美術の展覧会等を開催するのにあたり、解説や紹介用の冊子等を作成しますが、そこには作品を掲載するのが通例ですし、展示権を侵害することなく展示している者に対してこのような権利を認めたところで著作権者に不利益が生じることは考えにくいと思われます。よってこのような権利が認められているのです。
本条の規定により複製が認められているのは、展示権を侵害することなく原作品を展示している者であり、複製物の展示に伴う複製は認められていません。また複製が認められているのは、「解説又は紹介することを目的とする小冊子」となっているので、観賞を主目的とするような画集にするなどは認められません。
実際の訴訟の場において、47条の利用の範囲を超えるかどうかについては複製のサイズや、掲載の態様等を総合的に勘案して判断がなされます。
本条は、展示権(第25条)を侵害することなく美術の著作物又は写真の著作物の原作品を展示する者(以下、「原作品展示者」とします。)が、観覧者に対して展示著作物の紹介や解説等ができるように配慮した規定です。本条の適用対象となるのは、「美術の著作物又は写真の著作物」に限られ、著名な作家の手書きの小説の原稿などは対象外となります。また、条文上「原作品」となっているので、「複製物」を展示している場合は本条の適用対象外となります。
47条1項は、原作品展示者が展示作品の紹介や解説ができるよう小冊子に必要と認められる限度において著作物を複製することを認めた規定です。美術館に行くと、入場時などに作品の写真が掲載されたチラシや小冊子を受け取ることがあると思いますが、これはこの47条1項によって可能となっています。「必要と認められる限度において」とあるので、鑑賞目的にたりうるような高解像度で複製したり、販売目的で絵葉書として複製したりするような場合は本条の適用は認められません。
47条2項と3項は、平成30年の著作権法改正で追加された規定です。
47条2項は、近年デジタル技術が発達したことにより、展示著作物の紹介や解説の動画を館内で上映したり、インターネットで自動公衆送信したりするにようになったので、そのことを考慮して追加された規定になります。みなさんも展覧会の会場で解説動画などをご覧になる機会があると思いますが、この2項はそのような事情を考慮したものです。
47条3項は、原作品展示者等が展示著作物の所在に関する情報を必要限度において複製、又は公衆送信することを認めた規定です。皆さんも美術展を見に行く際にどんな作品が展示されているのかなどを美術館のホームページなどで調べることもあるかと思いますが、この3項はそのような事情を考慮したものです。
東京地判平成元年10月6日・判タ710号234頁
本件の原告Xは、画家Aの妻でAの唯一の相続人でAの全財産を相続しています。被告YはAの絵画の原作品の所有者から原作品を公に展示することについて同意を得た者です。
Yは昭和61年10月31日から同62年4月5日までの間に、東京、大阪、京都、広島及び福岡においてAの原作品の展覧会を開催し、観覧者のために作品の解説又は紹介をすることを目的として書籍を発行し、Xから著作権侵害で訴えられました。
本件訴訟においてYは著作権法47条の抗弁をしました。
東京地裁は、「本件書籍は、規格240㎜×240㎜、紙質はアート紙、装丁はフランス装、表裏表紙は厚手の上質アート紙を用いた金色の装丁、総頁数は143頁であり、また、本件著作物の複製形態は、最大のものが右規格に納まる程度に縮小されたもの、最小のものが55㎜×80㎜、大部分が1頁の半分以上の大きさ、原寸に近いものが8点、複製枚数113枚、複製頁数89頁であり、本件書籍は、実質的にみて鑑賞用として市場で取引されている画集と異なるところはないから、著作権法47条の『小冊子』に該当するものとは認めらない」として抗弁は成立しないとしました。