教育現場における著作物利用と著作権のルール—授業で著作物を使う際の注意点

授業の中で、教員が書籍や音楽、映像、インターネットの資料など、さまざまな著作物を利用することはよくあります。しかし、それらの著作物は基本的に著作権法によって保護されており、無断での利用は違法となる可能性があります。ただし、教育機関での著作物利用には一定の特例が設けられています。この記事では、教員が授業でどのように著作物を利用できるのか、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。

著作権法第35条とは?

教育現場における著作物の利用については、著作権法第35条が重要な役割を果たしています。この条文は、授業で必要な場合、特定の条件下で著作物を無許諾で使用できることを認めています。これは、教育機関での著作物の利用が、著作権者の利益を大きく損なうものでない場合に限られます。

1. 学校や教育機関に限定

著作権法第35条は、学校や教育機関が対象です。これには、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、専門学校などが含まれます。社会教育機関である図書館や博物館、公民館で行われる教育活動も、この範囲に含まれる場合があります。

たとえば、公民館で行われる大人向けの生涯学習講座でも、教育的な内容であればこの特例の適用が認められる場合があります。参加者が少人数で、授業の一環として資料を配布する場合、その資料が著作物であっても、無許諾で利用可能な場合があります。

2. 教員と学生のみ利用可能

著作物を無許諾で利用できるのは、教育現場で授業を行う教員および授業を受ける学生に限られます。たとえば、事務職員が教員の指示に基づいて資料をコピーする場合は、教員の補助的役割として認められることがあります。

3. 授業の過程でのみ利用可能

授業の過程とは、教員が授業の準備や実施を行うために必要とする範囲での著作物利用を指します。つまり、授業での解説や教材の作成に必要な範囲であれば、第35条が適用されます。授業以外での利用、例えば学園祭やイベント、クラブ活動などでは無許諾利用は認められません。

授業での具体的な著作物利用例

ここからは、著作権法第35条の適用例について具体的なシチュエーションを挙げて説明します。これにより、実際の授業でどのように著作物を利用できるのかを明確に理解することができます。

1. 書籍の一部をコピーして配布する

教員が授業で用いる資料として、書籍の一部をコピーして学生に配布することはよくあります。たとえば、文学の授業で特定の詩や短編小説を分析する際、その作品の該当部分をコピーして配布することが考えられます。この場合、著作権法第35条に基づき、教員は無許諾で利用することが可能です。

具体的には、授業で小説の一節を教材として使用する際、その一節をコピーして学生に配布することは、授業の過程に必要な行為として認められます。ただし、書籍全体をコピーして配布する場合や、授業の目的以外で利用する場合には許諾が必要です。

2. 新聞記事を授業で利用する

社会科や現代史の授業では、新聞記事を資料として使用することがあります。特に時事問題を扱う授業では、最新のニュースを教材として取り上げることが効果的です。

具体例として、政治経済の授業で現代の社会問題について議論するために、新聞記事をコピーして配布するケースが考えられます。この場合も、授業の一環として特定の記事を利用する限り、無許諾での利用が認められます。しかし、全新聞を丸ごとコピーしたり、記事を営利目的で再利用することはできません。

3. 音楽の授業で楽曲を利用する

音楽の授業では、楽曲や音声資料を利用することが多いです。音楽作品は著作権法で強く保護されていますが、授業中に使用する場合には第35条が適用されるため、無許諾での使用が許されます。

たとえば、音楽の歴史を学ぶ授業で、音楽の一部を授業で再生し、楽曲の特徴や時代背景を説明することは、この条文の下で許されます。ただし、授業の録画や録音を行い、その後インターネット上に公開する場合には著作権者の許諾が必要になります。

4. 映画や映像作品の一部を使用する

映像資料も教育現場では頻繁に使用されます。映画のワンシーンやドキュメンタリーの一部を教材として利用することは、学生に視覚的に理解を深めてもらうための有効な手段です。

具体例として、歴史の授業で戦争をテーマにした映画の一部を見せることで、当時の社会的背景や人々の生活についての理解を促すことができます。このような利用は、授業の過程に必要な範囲であれば無許諾で行うことが可能です。しかし、映画全編を上映する場合や、商業目的で利用する場合には著作権者の許可が必要です。

5. オンライン授業での著作物の使用

近年、オンライン授業が普及しており、著作物のデジタル利用が増加しています。授業で利用する教材をインターネットを通じて学生に配信する行為は、公衆送信とみなされ、通常であれば著作権者の許諾が必要です。しかし、オンライン授業でも第35条が適用される場合があり、無許諾での利用が可能となります。

具体的な例として、大学のオンライン講義でPDF形式の教材を配布したり、授業中にYouTubeの動画を視聴することが挙げられます。これらは、授業の範囲内であれば無許諾で行うことができますが、補償金の支払いが必要となる場合もあります。また、授業後に資料を自由にダウンロードできるようにしたり、授業を収録して公開する場合には、著作権者からの許諾を得る必要があります。

6. デジタル教科書の利用

デジタル教科書が普及する中、これらの教材を授業で使用する際にも著作権が問題となります。デジタル教科書は、通常の書籍とは異なり、著作権者によって厳しく管理されていることが多いため、使用に際して特別な配慮が必要です。

たとえば、小学校で使用するデジタル教科書の一部を、授業中に電子黒板に表示して生徒と一緒に学習することは、授業の過程に必要な範囲であれば認められます。しかし、教科書の内容をコピーして電子ファイルとして配布したり、他の授業で再利用する場合には、許諾を得る必要がある場合もあります。

課題としての動画制作における著作物利用

最近では、学生に対する課題として「動画制作」や「プレゼンテーション制作」を行わせることが増えています。これに関連して、学生がインターネット上の画像や動画、音楽を組み込んだプレゼンテーションや動画作品を作る際に著作権が問題となることがあります。

たとえば、美術の授業で「自己紹介動画」を制作する課題が与えられた際に、学生が有名な楽曲をバックグラウンドミュージックとして使用する場合があります。このようなケースでも、授業の一環として行われている限り、適切な範囲であれば著作権法第35条の適用が認められる可能性があります。しかし、完成した動画をYouTubeやSNSなどで公開する場合には、許諾が必要です。

同様に、社会科の授業で「歴史に関する動画」を作成させる課題が与えられ、学生がインターネット上の画像や映像を使用することもあります。このような場合でも、授業内での発表や評価を目的としている限りは無許諾での利用が認められることが多いです。しかし、授業外で利用する場合は著作権者の権利を侵害する可能性があるため、学生にもこのルールをしっかり理解させることが大切です。

学園祭やクラブ活動での利用制限

特に注意すべき点として、授業以外の活動での著作物利用が挙げられます。たとえば、学園祭や文化祭での発表や、クラブ活動において音楽や映像を使用する場合、これは「授業の過程」には該当しません。学園祭の劇で商業映画の一部を再現する、あるいはクラブ活動で流行の音楽を利用する場合、通常は著作権者の許諾を得なければなりません。

具体的には、演劇部が文化祭で有名なミュージカルを上演し、その中で音楽を利用するケースが考えられます。これを無許諾で行うことは著作権法第35条の対象外となり、著作権者の許可が必要です。また、軽音楽部がライブ演奏でカバー曲を演奏する場合も同様です。このような場合、JASRACなどの著作権管理団体を通じて許可を取る必要があります。

著作物の教育利用に関する補償金制度

特にオンライン授業や遠隔授業の場面では、授業の過程で行われる著作物の無許諾利用が、著作権者に不利益をもたらすことがあります。これに対応するため、補償金制度が設けられています。この制度により、教員や教育機関は授業で著作物を無許諾で利用できる一方で、著作権者に対して一定の補償金が支払われる仕組みとなっています。

たとえば、大学のオンライン講義で教科書や教材をPDFで配布する場合、これが公衆送信に該当するため、補償金の支払いが必要です。補償金の額は、著作物の利用形態や規模に応じて異なりますが、教員が直接手続きを行うのではなく、教育機関が包括的な契約を通じて対応するケースが一般的です。これにより、教員が個別に許諾を得る手間を省くことができ、授業をスムーズに進めることが可能です。

まとめ

教育現場における著作物利用は、著作権法第35条によって一定の条件下で無許諾利用が認められていますが、その適用範囲や制限については理解が必要です。授業での利用が許可される一方で、授業外での利用や大量複製、デジタル配信には制約が伴います。

教員は、授業で著作物を適切に利用するために、日々最新の法規制やガイドラインを確認し、著作権者の利益を尊重しながら、効果的な教育活動を行うことが求められます。また、学生にも著作権の重要性を教えることで、デジタル時代における正しい著作物の利用方法を身につけさせることができます。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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