人が映り込んだ写真

著作権の権利制限の「人が映り込んだ写真」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。

「写り込み」・「写し込み」問題との違い

スマートフォンなどで写真を撮影している際に、他人が写り込んでしまうこともあります。写り込んでしまったものが著作物の場合には、著作権法30条の2の規定(付随対象著作物の利用)によって、一定の条件の下では著作権侵害にはならないとされています。

肖像権侵害

他人が写真に写ってしまった場合に問題となるのは、肖像権の侵害となるかという点です。
肖像権について規定した法律上の規定はありませんが、最高裁平成17年11月10日判決(裁判所ウェブサイトは、肖像権という表現を用いていませんが、肖像権を認めていると理解できる判決を下しました。

(1)人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁参照)。もっとも,人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
 また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。
 これを本件についてみると,前記のとおり,被上告人は,本件写真の撮影当時,社会の耳目を集めた本件刑事事件の被疑者として拘束中の者であり,本件写真は,本件刑事事件の手続での被上告人の動静を報道する目的で撮影されたものである。しかしながら,本件写真週刊誌のカメラマンは,刑訴規則215条所定の裁判所の許可を受けることなく,小型カメラを法廷に持ち込み,被上告人の動静を隠し撮りしたというのであり,その撮影の態様は相当なものとはいえない。また,被上告人は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の容ぼう等を撮影されたものであり,このような被上告人の様子をあえて撮影することの必要性も認め難い。本件写真が撮影された法廷は傍聴人に公開された場所であったとはいえ,被上告人は,被疑者として出頭し在廷していたのであり,写真撮影が予想される状況の下に任意に公衆の前に姿を現したものではない。以上の事情を総合考慮すると,本件写真の撮影行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,被上告人の人格的利益を侵害するものであり,不法行為法上違法であるとの評価を免れない。そして,このように違法に撮影された本件写真を,本件第1記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表する行為も,被上告人の人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。
(2)人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,これをみだりに公表されない人格的利益を有すると解するのが相当である。しかしながら,人の容ぼう等を撮影した写真は,カメラのレンズがとらえた被撮影者の容ぼう等を化学的方法等により再現したものであり,それが公表された場合は,被撮影者の容ぼう等をありのままに示したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。これに対し,人の容ぼう等を描写したイラスト画は,その描写に作者の主観や技術が反映するものであり,それが公表された場合も,作者の主観や技術を反映したものであることを前提とした受け取り方をされるものである。したがって,人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。
 これを本件についてみると,前記のとおり,本件イラスト画のうち下段のイラスト画2点は,法廷において,被上告人が訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態が描かれたものである。現在の我が国において,一般に,法廷内における被告人の動静を報道するためにその容ぼう等をイラスト画により描写し,これを新聞,雑誌等に掲載することは社会的に是認された行為であると解するのが相当であり,上記のような表現内容のイラスト画を公表する行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて被上告人の人格的利益を侵害するものとはいえないというべきである。したがって,上記イラスト画2点を本件第2記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表した行為については,不法行為法上違法であると評価することはできない。しかしながら,本件イラスト画のうち上段のものは,前記のとおり,被上告人が手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり,そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は,被上告人を侮辱し,被上告人の名誉感情を侵害するものというべきであり,同イラスト画を,本件第2記事に組み込み,本件写真週刊誌に掲載して公表した行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,被上告人の人格的利益を侵害するものであり,不法行為法上違法と評価すべきである。

上記のように、最高裁は、本人の承諾なく写真が撮影されただけでは肖像権侵害が成立するとは説示しておらず、「人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。」と様々な事情を考慮して、総合的に肖像権侵害が成立するか否かを判断するという枠組みを採用しています。

したがいまして、肖像権侵害が成立するかを一律に判断するのは困難であるとは言えますが、たまたま他人の顔が写り込んだような場合には、写り込んでしまった者に与える損害の程度は大きくはなく、撮影目的も意図的な撮影であるともいえないと思われますので、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるとまではいえず、肖像権侵害は成立しないと考えられます。

 

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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