
【この記事の3行まとめ】
- 30条の4は、思想・感情の「享受」を目的としない利用(情報解析・技術開発の試験など)を許諾なしで認める権利制限規定です
- 生成AIの学習(機械学習用データとしての利用)は「情報解析」(2号)として原則適法。営利目的の解析も含まれます
- ただし「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」(ただし書)は適用外――ここが実務の最大の争点です
はじめに――「AIに学習させるのは侵害では?」への答え
「AIに他人のイラストや文章を学習させるのは、著作権侵害ではないのか?」――生成AIの普及とともに、最も多く受けるようになったご質問です。この問いに答えるカギが、著作権法30条の4です。
この記事では、30条の4が導入された経緯(平成30年改正の「柔軟な権利制限規定」)、条文の全体像、AI学習が「原則適法」とされる理由、そして例外となる場合を解説します。
前提知識――平成30年改正と「柔軟な権利制限規定」の三層構造
30条の4は、平成30年(2018年)改正で導入されました。この改正は、IoT・ビッグデータ・AIといった技術の進展に対応するため、個別具体的な権利制限規定を細かく継ぎ足してきた従来の方式を改め、ある程度抽象的で柔軟な規定を整備したものです。
改正は、権利制限の対象となる行為を権利者に与える不利益の程度に応じて3つの層に整理しました(中山信弘『著作権法〔第4版〕』359〜360頁参照)。
- 第1層――著作物の本来的な利用ではなく、権利者の利益を通常害さない行為類型。もっとも柔軟性の高い規定が置かれた。30条の4はここ
- 第2層――著作物の本来的な利用ではないが、権利者に軽微な不利益が及び得る行為類型(電子計算機使用に付随する利用=47条の4、所在検索・解析結果提供に付随する軽微利用=47条の5など)
- 第3層――権利者の市場と衝突するが、公益的政策の実現のために利用が期待される類型(図書館・教育・障害者対応など従来型の権利制限規定)
30条の4が第1層に位置づけられているのは、「享受を目的としない利用」がそもそも著作権者の対価回収の機会を奪わないと考えられているからです。

30条の4とは――「享受しない利用」は自由
条文は次のとおりです。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
ポイントは「享受」という言葉です。小説を読んで楽しむ、音楽を聴いて感動する、イラストを鑑賞する――著作物を認識して知的・精神的な欲求を満たすことが「享受」です。著作物の経済的価値は、市場における享受の対価として実現されるものですから、享受を目的としない利用は、著作権者の対価回収の機会を奪わないと考えられます。そこで、そのような利用は必要な限度で、方法を問わず許諾なしにできることとしたのが30条の4です(中山・前掲395頁参照)。
30条の4が挙げる3つの場合
条文は「次に掲げる場合その他の…享受させることを目的としない場合」と定めており、以下の3つは例示です。これらに当たらなくても、享受目的がなければ柱書によって適法になり得ます。
1号:技術開発・実用化のための試験
録音・録画技術などの開発や実用化のための試験に著作物を使う場合です。たとえば、動画圧縮技術の性能テストのために映画のデータを使うような場面で、映画を「鑑賞」することが目的ではないため、許諾は不要です。
2号:情報解析――AI学習の根拠はここ
条文は情報解析を次のように定義しています。
情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。)の用に供する場合
大量のテキストや画像から言語・影像などの要素を抽出して解析する――機械学習(AIの学習)はまさにこれに当たります。この規定は平成30年改正前の47条の7(統計的解析に限定)を発展的に統合したもので、改正により「統計的な」という限定が外れ、解析の種類を問わなくなりました。また、目的による限定が付されていないため、営利目的の解析も含まれる点が実務上重要です(中山・前掲398〜400頁参照)。
3号:人の知覚を伴わないコンピュータ内部での利用
人が著作物の表現を知覚することなく、コンピュータの情報処理の過程で利用する場合(バックエンドでの一時的なデータ処理など)です。
なぜ「AI学習は原則適法」と言われるのか
生成AIの開発では、インターネット上の大量の文章や画像を学習データとして収集・複製します。この複製は、個々の作品を人に鑑賞させる(享受させる)ためではなく、AIモデルのパラメータを得るための情報解析として行われます。したがって、30条の4第2号により、著作権者の許諾がなくても原則として適法です。日本のこの規定は、AI開発に有利な立法として国際的にも注目されてきました。
重要なのは、この「適法」は学習段階の話だという点です。学習が適法でも、AIが出力した生成物が既存の著作物に似ていれば、生成・利用段階で著作権侵害(複製・翻案)が成立し得ます。その判断は通常の侵害判断と同じく「依拠性」と「類似性」によります。詳しくは依拠性とは?著作権侵害の2大要件を判例でわかりやすく解説をご覧ください。

例外――「ただし書」が働く場合
30条の4には重要な例外があります。
ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
典型例として挙げられるのが、情報解析用に販売されているデータベースを許諾なく学習に使う場合です。このような商品は「解析に使われること」自体で対価を回収しているため、無断利用は著作権者の利益を直接害するからです。
生成AIをめぐっては、特定のクリエイターの作風を狙って作品を集中的に学習させる場合や、海賊版サイトから学習データを収集する場合などにただし書が働くかが議論されており、文化審議会著作権分科会法制度小委員会も「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)を公表して考え方の整理を示しています。同文書は、享受目的が併存する場合(生成物として学習元作品の創作的表現を出力させることを目的とする収集など)には30条の4は適用されない、という整理も示しました。この論点は現在進行形で議論が続いているため、事業でAI学習を行う場合は最新の動向を踏まえた検討が必要です。
関連規定――検索・解析サービスの「軽微利用」(47条の5)
30条の4とセットで押さえておきたいのが、第2層に属する47条の5です。所在検索サービス(検索エンジン)や情報解析サービスの提供にあたり、その結果の提供に付随して、著作物の一部を「軽微利用」(スニペット表示・サムネイル表示など)することを認める規定です。
30条の4が適法とするのはあくまで「享受させない」利用ですから、解析の結果を表示する場面で著作物の一部を人に見せる行為はカバーしません。そこを担うのが47条の5であり、AI検索・RAG型サービスのように解析結果とともに著作物の一部を提示するサービスの適法性は、30条の4(学習・解析段階)と47条の5(出力・提供段階の軽微利用)の組合せで検討することになります。「軽微」の範囲を超える表示は権利者の許諾が必要です。
実務での注意点
- 学習の適法性と出力の適法性を区別する――「30条の4があるから何をしてもよい」は誤り。生成物の利用は通常の侵害判断(依拠性・類似性)に服する
- 享受目的が併存すると30条の4は使えない――解析と称して実際にはコンテンツを閲覧・鑑賞できる形で提供するような利用は対象外
- 「必要と認められる限度」の範囲内で――解析に必要のない範囲までの複製・保存は要件を欠く
- 契約・利用規約の確認――データの取得元サイトの利用規約で解析目的の利用が制限されている場合、著作権とは別に契約上の問題が生じ得る
- 海外展開では各国法の確認を――30条の4は日本法の規定であり、学習・提供が海外に及ぶ場合は当該国の著作権法の検討が別途必要
よくある質問(FAQ)
Q1. 著作権法30条の4とはどんな規定ですか?
A. 著作物に表現された思想・感情を「享受」することを目的としない利用について、必要な限度で著作権者の許諾を不要とする権利制限規定です。平成30年改正で導入された「柔軟な権利制限規定」の中核(第1層)にあたります。
Q2. AIに他人の作品を学習させるのは違法ではないのですか?
A. 機械学習のためのデータとしての利用は「情報解析」(30条の4第2号)にあたり、営利目的でも原則として適法です。ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合(ただし書)は除かれます。
Q3. 「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」とはどんな場合ですか?
A. 例えば情報解析用に販売されているデータベースを無断で学習に使う場合が典型例とされます。生成AIをめぐる具体的な適用範囲は、文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月)の公表など、議論の整理が進んでいる段階です。
Q4. AIが出力したイラストが既存の作品にそっくりでした。30条の4で適法になりますか?
A. なりません。30条の4が適法とするのは学習(情報解析)段階の利用です。生成・利用段階で既存著作物との類似性・依拠性が認められれば、通常どおり著作権侵害(複製権・翻案権侵害)が成立し得ます。
まとめ
- 30条の4は、享受を目的としない利用を必要な限度で許諾不要とする規定。平成30年改正の「柔軟な権利制限規定」の第1層に位置づけられる
- AI学習は情報解析(2号)として原則適法。営利目的の解析も含まれる
- ただしただし書(著作権者の利益を不当に害する場合)と生成・利用段階の侵害は別問題。「学習は適法・出力は通常の侵害判断」という区別が実務の出発点
AI関連事業のデータ収集・学習の適法性設計や、生成物をめぐる権利侵害への対応は、著作権に詳しい弁護士にご相談ください。
出典・参考判例/参考文献
- 著作権法30条の4、47条の4、47条の5(条文はe-Gov法令検索の現行法で照合)
- 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)・文化庁ウェブサイト
- 中山信弘『著作権法〔第4版〕』(有斐閣、2024年)354〜360頁(柔軟な権利制限規定の三層構造)、394〜401頁(30条の4)
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