漫画村事件:リバースプロキシ型サイトと巨額賠償

以下の記事では、令和6年4月18日に東京地方裁判所で言い渡された、いわゆる「漫画村」関連サイトをめぐる著作権侵害事件(令和4年(ワ)第18776号・裁判所ウェブサイト)の判決内容とポイントを、「リバースプロキシ型サイト」の仕組み説明を交えながら解説します。本件は、大規模な海賊版サイトの管理・運営者に対して、出版社側が著作権(出版権・独占的利用権)侵害による莫大な損害賠償を求め、裁判所がほぼ全面的に認容した事例です。判決は今後の海賊版サイト対策に大きく影響すると考えられるため、詳しく見ていきましょう。

1.事件の概要

1-1.原告・被告と侵害が指摘された行為

当事者

本件の原告は、いずれも国内の大手出版社であるKADOKAWA、集英社、小学館の3社でした。いずれの出版社も、各漫画作品の著作権者から出版権または独占的利用権を設定されており、コミック単行本や電子書籍といった形で刊行・配信してきた立場にあります。

被告は、通称「漫画村」と呼ばれた複数の海賊版サイト(「○○.com」「○○.net」「○○.org」といったドメイン名が付されたサイト)を開設・運営していたとされる人物です。本件では、上記3種類のサイトをまとめて「本件サイト」と呼びます。

問題となった行為

本件サイト上には、大手出版社の人気作品を含む漫画作品が無償で大量に掲載されていました。閲覧者はサイトを訪問するだけで、ほとんど制限なく自由に読める状態となっていたため、出版社側は、

  • 自動公衆送信(送信可能化を含む)

  • 出版権や独占的利用権を侵害する「無断掲載」 が著作権法上の侵害行為に該当すると主張しました。
    一方、被告は「自分が直接アップロードしたわけではない」「第三者のアップロードを単に案内していただけ」といった主張を展開しましたが、最終的には裁判所が被告の管理・運営責任を認め、著作権の侵害が成立したと判断しました。

2.「リバースプロキシ型サイト」とは

本件でとりわけ注目されたのが、サイト側でデータを保管・送信しているか否かという点です。従来、著作権侵害を指摘されたサイト運営者の典型的な抗弁として「自分は単にリンクを集めているだけ(リーチサイト)」というものがありました。しかし、本件サイトは、単なるリンク集ではなく、「リバースプロキシ」という仕組みを利用して漫画を閲覧可能にしていたことが判明しています。

2-1.リバースプロキシとは?

  • プロキシ(Proxy)
    通常、インターネット上で利用者(閲覧者)のアクセスがウェブサーバに直接届くような構造を「クライアント・サーバ型」といいます。ところが、プロキシを間に挟むと、利用者→プロキシ→(最終的なサーバ)の流れで通信が行われます。

  • リバースプロキシ(Reverse Proxy)
    上記のプロキシが、特にサーバ側に設置されるケースが「リバースプロキシ」と呼ばれます。利用者はプロキシを介して実体のオリジンサーバへアクセスし、プロキシがオリジンサーバからデータを取得して利用者へ返す形です。
    特徴として、①サーバの所在地やIPアドレスを隠す(匿名化)ことができ、②データをキャッシュして送信するため、高速化や負荷分散のメリットがあるといわれています。

2-2.本件サイトにおけるリバースプロキシの利用

本件サイトでは、第三者サーバ(海外などに存在し、漫画の画像データを保管)から、リバースプロキシを通じて閲覧者に画像データを送る仕組みが採用されていました。

  • 閲覧者が本件サイトのURLにアクセスすると、本件サイトのサーバがリバースプロキシの機能を果たし、漫画データを取得

  • そのまま閲覧者が読むブラウザにストリーミング形式で表示
    このように、一見するとリンクサイトのようでありながら、実際には本件サイトのサーバがデータを配信(送信可能化)していると認定される結果となりました。

3.争点と裁判所の判断

3-1.被告の著作権侵害(公衆送信)の成立

本件でも被告は「データをサーバにアップロードしたのは自分でない」「自分は技術担当に過ぎない」などと主張しました。しかし、裁判所は以下の事実を重視して被告の違法性を認定しています。

  1. LINEグループなどでのやり取り
    被告が他の関係者と「漫画村」の更新作業やメンテナンス、サーバ障害への対応、さらに「人気漫画の単行本をアップしてほしい」と具体的指示をしていた様子が証拠から明らかになった。

  2. 自著やSNSでの投稿
    被告自身が「漫画村」のプログラム開発に深く関与していたことを述べている文言が確認された。

  3. リバースプロキシによる送信可能化
    上述の通り、実質的には本件サイト(被告が管理するサーバ)がユーザーに直接データを送信する形をとっていると評価される。リバースプロキシは受信したデータをキャッシュするので、ここで既に「送信可能化(著作権法2条1項9号の5)」が行われていた。

結論として、被告がサイト全体を管理・運営し、不特定多数の利用者に漫画作品を自動公衆送信する主体であったと認められました。

3-2.被告の故意

無断で大量のコンテンツを掲載し、「無料で漫画を読める」状態を積極的に整備していた点から、当然に被告は著作権侵害の可能性を認識していたはずだと判断されました。加えて、違法アップロードの危険や今後の摘発を意識したメッセージなどもあり、故意を否定する余地は少ないとみられます。

3-3.損害額の算定

(1) 著作権法114条3項(出版権侵害の推定規定)の適用

出版社が有する出版権独占的利用権を侵害する場合、著作権法114条3項により「権利者が受けるべき金銭相当額」が損害として推定されます。本件で裁判所は、実際に販売されていたコミックや電子書籍の1巻あたりの販売価額に着目。さらにアクセス解析会社のデータなどから推計される閲覧数を乗じて損害額を計算しました。

(2) 販売価額の10%を控除し、それに閲覧数を掛ける

出版社側は「販売価格そのまま×閲覧数」を主張していましたが、裁判所は「一部控除する」としつつも、10%という比較的小幅な控除率にとどめています。結果的に以下のような高額の損害賠償が認定されました。

  • KADOKAWA:約4億0,575万円

  • 集英社:約4億2,923万円

  • 小学館:約9億0,165万円

弁護士費用の一部も含めると、総額は非常に大きいものとなり、今後の海賊版サイトへの抑止力として注目される金額です。

3-4.消滅時効の問題

本来、不法行為に基づく損害賠償請求権は、民法724条により「被害者が損害および加害者を知った時」から3年間行使しないと時効消滅するおそれがあります。
被告は「出版社が相当早い段階で加害者を知っていたはずだ」と主張しましたが、裁判所は、実際に被告が当該サイトの運営者であることを出版社が確定的に把握できたのは、警察が被疑者として特定した平成31年4月(集英社の場合)または令和元年7月(KADOKAWA・小学館の場合)と判断しました。よって、出版社側が令和4年に訴えを提起した時点では、まだ時効は完成していないと認定しています。

4.判決の意義と今後の展望

4-1.リバースプロキシ型サイトへの明確な司法判断

リーチサイトとの比較でも、リバースプロキシ型サイトは運営者がコンテンツを取得・配信する主体になる分、責任追及が明確です。本判決は、単純に「アップロード」していなくとも、サイトの仕組みづくりで利用者に画像データを直接送信していれば「送信可能化」と認められるという基準を示し、技術的手口を変えての逃れも難しいことを改めて確認しました。

4-2.海外サーバ・匿名化でも捜査可能に

本件サイトは海外のサーバを利用し、運営者の住所氏名などを隠すために会社を経由してドメイン登録するなど、巧妙な匿名化を行っていました。それでも刑事捜査や著作権者側の執念ともいえる調査により被告が特定され、大きな損害賠償が認められました。これによって、「大規模海賊版サイトの運営者は必ずしも匿名を貫けない」という強いメッセージが発せられています。

4-3.巨額賠償による実効的な抑止効果

出版社3社合計で十数億円もの賠償額が認定された事実は、海賊版サイトを運営すれば甚大な責任を負うリスクがあるという点を具体的に示しました。著作権者や出版社が違法なアップロードを追及する意義を後押しするだけでなく、海賊版サイト運営への強い抑止効果が見込まれるでしょう。

5.まとめ

本件判決の主なポイントを整理すると、以下のとおりです。

  1. 被告の管理・運営責任が認められた

    • LINEグループでの会話や技術的作業指示などから、被告が積極的にサイト更新・運営を行っていた事実を確定。

  2. リバースプロキシ型での「送信可能化」も著作権侵害

    • リバースプロキシによるキャッシュ送信は、公衆へ自ら送信していると評価される。

  3. 損害額は「販売価格の10%控除×閲覧数」

    • アクセス総数等のデータを参照し、1巻あたり平均7410回の閲覧を推計。巨額な賠償額が算出された。

  4. 消滅時効の完成は認めず

    • 捜査機関の協力で被告を特定できた時期を基準にし、出版社が令和4年に提訴した段階で時効成立はしないと判断。

本件はインターネットを利用した悪質な海賊版サイトに対して、裁判所が断固たる態度を示した事件であり、「リバースプロキシ型サイト」という比較的新しい技術スキームが論じられた点でも大変注目度の高い判決といえます。技術進歩に伴い海賊版手法も多様化していますが、著作権法の枠組みや捜査手続をしっかり使うことで、国内外を跨いだ侵害行為でも特定・摘発が可能であることが改めて示された形です。

出版社をはじめ正規コンテンツの権利者にとっては、違法サイトへのさらなる対策強化と、実効的な権利行使の後押しとなる重要判例となりました。今後も類似の海賊版サイトに対して同様の追及が進むことで、クリエイター・出版社の正当な利益が守られ、健全な出版活動・コンテンツ流通が促進されることを期待したいところです。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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