著作権ライセンス契約の基礎とサンプルー業界別に分かる作り方

はじめに

「ライセンス契約(利用許諾契約)」という言葉を耳にしたことがある方は多いかと思います。ソフトウェアや音楽、イラスト、写真、デザインなど、さまざまな創作物を他者に使わせたい・使いたい場合に必要になるのが、このライセンス契約です。企業だけでなく個人でも、YouTubeやSNSで写真やBGMを使う、同人誌でイラストを利用するーそんなシーンが日常に溶け込むほど、著作物の利用と権利の問題は身近になっています。

しかし、ライセンス契約という名称だけで「難しそう……」「専門家じゃないから分からない」と構えてしまう方も少なくないでしょう。そこで今回は、著作権の基礎知識から始めて、ライセンス契約とは何か、契約書を作る際のポイント、そして業界別の雛形(サンプル)まで、素人の方でも分かりやすいように解説します。記事の最後には、いくつかのサンプル契約書をご紹介しますので、ぜひ参考になさってください。

1. そもそも著作権とは

著作権は、著作物(小説、音楽、絵画、写真、プログラムなど)を創作した人に与えられる権利です。著作物を無断で複製・上映・公衆送信・翻案などすると、著作権侵害となる可能性があります。著作権者(原則として創作した人)は、その著作物をどのように利用するかをコントロールする権利を持ち、それを他人に使わせる(=“利用を許諾する”)場合には、許諾の条件や範囲を定める必要があります。

「ライセンス契約(利用許諾契約)」は、この「使ってもいいよ」という許諾を、きちんと書面の形で交わすための契約です。口頭で済ませることも不可能ではありませんが、万が一トラブルが起きた場合に、どこまで使って良かったのか、使用料はいくらか、期間はいつまでかといった点で揉めてしまうリスクがあります。そのため、できる限り契約書を作成し、文書で証拠を残しておくことが望ましいのです。

2. ライセンス契約(利用許諾契約)とは

2-1. ライセンス契約の概要

ライセンス契約とは、著作権者(ライセンサー)が、著作物を使いたい人(ライセンシー)に対して、一定の条件(利用の方法・態様、地域、期間、その他の付加条件など)で利用を許諾する契約をいいます。利用する側は、その範囲内であれば著作物を合法的に利用できるようになり、利用料(ロイヤリティ)を支払うことが多いです。

2-2. 排他的ライセンスと非排他的ライセンス

  • 独占的(排他的)ライセンス
    著作権者が「他人には同じ内容の利用許諾はしない」と約束するタイプのライセンスです。ライセンシーは、実質的に独占的に利用できるというメリットがある一方、ライセンス料も高めに設定される傾向があります。

  • 非独占的(非排他的)ライセンス
    著作権者は、同じ内容の許諾を複数の相手に与えることができます。よって、ライセンシーは独占権を得られませんが、ライセンス料は比較的安価に設定される場合が多いです。

2-3. サブライセンス(再許諾)

サブライセンスとは、ライセンシーが第三者に対して、さらに利用を許諾する行為をいいます。契約上、サブライセンスが可能かどうかで、今後の利用範囲が大きく変わるため要チェック項目です。たとえば、ソフトウェアのライセンス契約では、開発元から許諾を得た会社が別の下請け企業に対してソースコードの利用を認めるかどうか――といった観点が重要になります。

2-4. 契約違反・契約解除

契約書で定めた範囲を超えて著作物を利用すれば、著作権侵害となる可能性があります。さらに、ライセンシーが利用料を支払わない、著作権者が定めた利用態様を守らないといった契約違反が起きた場合には、契約解除や損害賠償の問題に発展することもあります。また、契約の終了(契約期間満了や中途解約など)後に利用を続ければ、やはり著作権侵害になるおそれがあります。契約上「移行期間」をどう設定するかなど、実務面で注意が必要です。

3. ライセンス契約のポイント

ライセンス契約を結ぶうえで、特に注意したいポイントを以下にまとめます。

  1. 利用の対象(著作物)
    契約の対象となる著作物を明確に特定します。ソフトウェア、音楽、写真、イラストなど、どの作品・どの部分を指すのかをできるだけ具体的に書きましょう。

  2. 利用範囲(方法・態様、地域、期間など)

    • 方法・態様:印刷、出版、展示、上映、配布、販売、翻案(改変)など

    • 地域:日本国内のみ、全世界など

    • 期間:1年間、5年間など
      これらを明記しないと、「こんな使い方はOK?」「海外に輸出していいの?」といったトラブルに発展するおそれがあります。

  3. ライセンス料(ロイヤリティ)
    有料の場合、支払い条件を定めます。売上の何%なのか、期間ごとにいくらなのか、支払いタイミングはいつかなどを明文化しておきます。

  4. 著作者人格権の扱い
    著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権など)は譲渡できません。契約書の中で、「氏名を表示するか」「改変を認めるか」など、具体的に取り決めておく必要があります。

  5. サブライセンスの可否
    先述のとおり、ライセンシーが第三者に再度ライセンスを与えることができるかを必ず明記します。ここで曖昧にしてしまうと、予期せぬ利用が広がり、著作権者にとって大きなリスクとなります。

  6. 契約違反があった場合の措置
    契約解除や違約金など、万が一のトラブルに備えた規定を設けます。紛争解決条項(裁判所の管轄、仲裁の方法など)も明示しておくと安心です。

  7. 契約書に署名・押印
    電子契約の普及に伴い、必ずしも紙で押印という形にこだわる必要はありません。ただし、後日トラブルが生じないように、電子証明などで適切に契約を証拠化しておくことが大切です。

4. ライセンス契約の雛形(サンプル)

以下に、業界や用途ごとのサンプル契約書をいくつかご紹介します。あくまで雛形ですので、実際に利用される際は必ず専門家による修正・チェックを受けてください。

4-1. ソフトウェアライセンス契約書(サンプル)

第1条(目的)
本契約は、○○株式会社(以下「著作権者」という)が開発したソフトウェア(以下「本ソフトウェア」という)を、△△株式会社(以下「使用者」という)が利用するにあたり、その条件を定めることを目的とする。

第2条(著作物の特定)
本契約の対象となる本ソフトウェアの名称、バージョン、機能概要は、別紙に定めるとおりとする。

第3条(利用範囲)
1. 使用者は、本ソフトウェアを日本国内において、以下の目的に限り利用することができる。
(1) 自社内業務の管理および効率化
(2) ○○の機能を活用したシステム運用
2. 使用者は、本ソフトウェアを改変または複製する場合、あらかじめ著作権者の書面による承諾を得なければならない。

第4条(ライセンス料)
1. 使用者は、本ソフトウェアのライセンス料として、年額○○円を著作権者に支払うものとする。
2. 支払日は毎年○月○日とし、振込手数料は使用者の負担とする。

第5条(契約期間)
本契約の有効期間は、契約締結日より1年間とし、期間満了の1ヶ月前までに書面による解約の意思表示がないときは、さらに1年間自動更新される。

第6条(契約違反および解除)
1. 使用者がライセンス料を支払わない場合、著作権者は催告のうえ本契約を解除できる。
2. 本契約終了後は、使用者は本ソフトウェアの利用を直ちに停止しなければならない。

(以下略)

4-2. 写真ライセンス契約書(サンプル)

第1条(目的)
本契約は、○○(以下「著作権者」という)が撮影した写真(以下「本写真」という)を、△△(以下「使用者」という)が広告やWebサイトで利用するにあたり、その条件を定める。

第2条(著作物の特定)
本契約の対象となる本写真の詳細は、別紙に添付したサムネイル及びファイル名により特定する。

第3条(利用範囲)
1. 使用者は、本写真を以下の方法・態様・地域でのみ利用できる。
(1) 方法:広告バナー、Webサイトのトップページ掲載
(2) 地域:日本国内および英語版サイトでの世界配信
(3) 期間:契約締結日より1年間
2. 前項の範囲を超える利用を行う場合、別途著作権者の書面による許諾を得るものとする。

第4条(利用料)
1. 利用料は本写真1点あたり○○円とし、使用者は契約締結時にこれを一括で支払う。
2. 著作権者は、すでに支払われた利用料について、いかなる理由があっても返還しない。

第5条(著作者人格権)
1. 使用者は、本写真のトリミングや色調補正などの軽微な修正を除き、原型を大きく変更するような改変を行ってはならない。
2. 本写真を掲載する場合、著作権者の氏名表示を省略するかどうかは、事前に合意のうえで決定する。

(以下略)

4-3. イラスト・デザインライセンス契約書(サンプル)

第1条(目的)
本契約は、○○(以下「著作権者」という)が制作したイラストまたはデザインデータ(以下「本デザイン」という)を、△△(以下「クライアント」という)が商品パッケージに利用するにあたり、その条件を定める。

第2条(利用範囲)
1. クライアントは、本デザインを以下の範囲で利用できる。
(1) 商品パッケージへの印刷
(2) 日本国内における販売促進目的でのチラシ・広告掲載
2. 上記以外の利用(海外展開やデジタル媒体での配信など)を行う場合、著作権者に事前に協議のうえ、追加のライセンス料や条件を定める。

第3条(ライセンス料および支払方法)
1. クライアントは、本デザインの利用料として、初回契約金○○円を支払う。
2. 売上ロイヤリティが発生する場合は、別紙に定める計算方法に基づき、四半期ごとに支払うものとする。

第4条(著作者人格権)
クライアントは、本デザインの印刷工程でやむを得ず色味やサイズに変更を生じさせる場合を除き、無断で大幅な改変を行ってはならない。

第5条(契約期間および更新)
本契約の有効期間は1年間とし、期間満了の1ヶ月前までに書面で解約通知がない場合には自動的に更新される。

(以下略)

4-4. 音楽ライセンス契約書(サンプル)

第1条(目的)
本契約は、○○(以下「著作権者」という)が作曲・作詞した音楽作品(以下「本楽曲」という)を、△△(以下「利用者」という)が動画作品のサウンドトラックとして利用するにあたり、その条件を定める。

第2条(利用範囲)
1. 利用者は、本楽曲を自社制作の動画作品(YouTube配信等含む)に組み込む目的で利用できる。
2. 前項の動画作品を第三者へ販売または二次配信する場合は、別途許諾を得なければならない。

第3条(ライセンス料)
1. 利用者は、ライセンス料として、1作品あたり○○円を著作権者に支払う。
2. 動画の再生回数に応じた追加ロイヤリティが発生する場合は、別紙の取り決めに従う。

第4条(著作者人格権の尊重)
利用者は、本楽曲の歌詞や構成を大幅に変更せず、著作者の意図に反しない範囲でのみ編集を行うことができる。著作者の氏名表示については、動画のクレジット表記において行う。

(以下略)


5. まとめ

著作物を他者に利用させる、あるいは他者の著作物を利用するーそうした場面は、ビジネスだけでなく個人の活動でもますます増えています。ライセンス契約(利用許諾契約)は、著作権者と利用者の双方の権利と利益を守るために欠かせない仕組みです。

  • 著作物の特定

  • 利用範囲(方法・態様、地域、期間)の明確化

  • ライセンス料(ロイヤリティ)の設定

  • 著作者人格権の尊重

  • サブライセンスの可否

  • 契約違反・解除条項

これらを中心に取り決めを行い、必要であれば専門家の力を借りながら契約書を作成しておくと、後々の紛争を防ぎ、スムーズに創作物を活用することができます。

本記事で紹介した雛形(サンプル)は、あくまで一般的な例示です。現実のビジネススキームや利用形態は多種多様であり、著作物の種類によっても注意すべきポイントは変わってきます。たとえば、ソフトウェアはバージョンアップや再配布の問題、写真やイラストはトリミング・改変やSNSでの拡散、音楽は二次利用や商用利用の範囲拡大などー事前に想定されるリスクを洗い出しながら、契約書をカスタマイズしていくことが重要です。

また、著作権法上、著作者人格権は譲渡できず、契約によって軽々しく制限することも問題になり得るため、利用方法が著作者の「同一性保持権」などを侵害しないかどうか、配慮が求められます。さらに、公序良俗違反や消費者契約法上の無効条項とならないように、内容には十分に注意を払いましょう。

「難しいから避けたい」と敬遠しがちなライセンス契約ですが、適切に締結することで、利用者は安心して著作物を活用でき、著作権者も自分の権利と収益を守ることができます。お互いがWin-Winになるためのルール作りと考えると、少し気が楽になるかもしれません。ぜひ今後のクリエイティブ活動やビジネスにお役立てください。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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