著作権法における著作隣接権と権利譲渡の実務課題

はじめに

著作権法の分野では、著作物の創作者や関係者が権利を適切に管理するための制度が整備されています。その中でも「著作隣接権」は、実演家やレコード製作者が著作物の二次的な利用に対して持つ権利として、音楽・映画・放送業界において特に重要視されています。近年のテクノロジーの発展により、従来にはなかった利用形態が次々と生まれており、著作隣接権の譲渡契約においても新たな課題が浮上しています。本記事では、具体的な判例を通じて著作隣接権と権利譲渡の課題を考察します。

著作隣接権とは

著作隣接権は、著作権そのものではありませんが、著作物の利用や頒布に関わる権利を有する関係者に対して与えられる権利です。日本の著作権法では、著作隣接権は主に以下の三つの主体に対して付与されています。

  1. 実演家 - 演奏家や俳優など、著作物を表現する役割を持つ人々

  2. レコード製作者 - 音源や映像を録音・録画し、レコードやCDなどの形で販売する人々

  3. 放送事業者 - テレビやラジオの放送を行う人々

これらの権利者は、著作隣接権を通じて著作物の二次利用に対する利益を得ることが可能です。具体的には、著作隣接権には「譲渡権」「貸与権」「公衆送信権」などがあり、著作権法の規定により保護されています。

権利譲渡契約の実務的課題

著作隣接権を扱う企業やクリエイターが直面する重要な課題の一つは、権利譲渡契約の範囲や内容をどのように明確に定めるかという点です。特に、音楽や映像の分野では、技術の進展により従来にはなかった新たな利用形態が生まれています。このため、著作権や著作隣接権を譲渡する際には、現行の利用形態だけでなく将来的な利用形態も考慮することが重要です。

具体例:THE BOOM事件(東京地裁平成19年1月19日判決・判時2003号111頁)

THE BOOM事件では、譲渡契約締結後に著作隣接権に新たに認められた「送信可能化権」が譲渡対象に含まれるかが争点となりました。送信可能化権は、著作物をインターネットなどのデジタル媒体で送信する権利で、平成9年の著作権法改正で追加された新しい権利です。当初の契約では「一切の権利を譲渡する」と明記されていたものの、契約時には送信可能化権が存在していなかったため、これが対象に含まれるかが争われました。

裁判所は、契約の解釈にあたり、以下のような要素を総合的に考慮して判断しました。

  • 契約の文言:契約には「一切の権利を譲渡する」と明記されていたこと。

  • 契約当時の慣行:音楽業界では包括的に権利を譲渡することが一般的であったこと。

  • 経済的合理性:レコード会社が著作隣接権を包括的に取得することにより、自由な利用が可能となること。

これらの要素を考慮した結果、裁判所は送信可能化権も譲渡契約に含まれると判断しました。このように、新しい権利や利用方法が生まれた場合、契約時に含まれていなかった権利が譲渡対象に含まれるかどうかは契約の文言だけでなく、慣行や経済的な合理性も重要な判断基準となることが確認されました。

将来の権利創設を見越した契約の必要性

上記のTHE BOOM事件に見られるように、技術の進展に伴う新しい利用形態や権利創設を見越して、契約内容を工夫する必要があります。例えば、以下のような内容を契約書に盛り込むことが考えられます。

  1. 将来立法により認められる権利も含める旨の条項:契約条項に、立法や技術革新により新たに創設される権利も譲渡対象に含む旨を明記する。

  2. 利用方法の多様性を明記:契約時点で想定しうるあらゆる利用方法を明記し、新たな利用形態が発生した場合にも権利行使が可能であることを示す。

  3. 適正な対価の設定:新しい権利が生じた場合の対価も考慮し、権利者が適切な報酬を得られるように設定すること。

ただし、将来の権利や利用方法を広く包含する契約内容は、実演家や音楽家が得られる利益を圧迫する恐れもあります。そのため、契約においては、著作隣接権者の利益が不当に軽視されないよう、慎重な配慮が必要です。

権利者の利益を守るための対策

将来の技術革新を見越した契約内容を検討する場合でも、権利者の利益を守る対策を取ることが重要です。例えば、以下の点を考慮することで、契約が権利者にとって有利なものとなる可能性があります。

  1. 適切な印税率の設定:音楽家などの権利者が安定的な収益を得られるように、印税率の設定を透明かつ適切にすることが求められます。

  2. 契約内容の定期的な見直し:契約の対象範囲や印税率について、一定期間ごとに見直しを行う条項を盛り込み、権利者の利益に応じて調整できる仕組みを整備することが望ましいです。

  3. 公序良俗に反しない内容にする:極端に不利な契約内容は無効とされる可能性があるため、著作隣接権者が不利益を被らない内容とすることが大切です(民法90条に基づく公序良俗違反の規定)。

まとめ

著作権法における著作隣接権は、実演家やレコード製作者などにとって重要な権利であり、技術の発展とともに契約の範囲や内容が複雑化しています。THE BOOM事件のように、契約時に想定していなかった新たな権利が立法されるケースもあるため、契約の際には包括的な権利譲渡条項や将来の権利創設を視野に入れた内容を取り入れることが求められます。一方で、著作隣接権者の利益が不当に侵害されることのないよう、適切な報酬や定期的な契約の見直しを行う工夫も重要です。

これからの著作権法と著作隣接権を取り巻く環境はさらに進化していくでしょう。技術革新と法改正に対応するために、権利者と使用者双方が柔軟に対応できる契約の在り方がますます重要となることが予想されます。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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