著作権法41条 深掘りQ&A:報道利用の境界線と「知る権利」

Q1. 著作権法41条の「一番大事な目的」って、結局何なのでしょうか?

A1. 著作権法41条は、「写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合」に、その事件に関連する著作物を「報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる」と定めています。 この条文の根幹にあるのは、憲法上の「知る権利」を保障する機能です。国民が社会の出来事について知り、理解し、意見を形成するためには、報道機関による情報提供が不可欠です。その報道の過程で、事件の内容を正確かつ効果的に伝えるために著作物の利用が必要になる場面があります。41条は、このような場合に著作権者の権利を一定程度制限することで、円滑な報道活動を支え、結果として国民の「知る権利」に奉仕することを目的としています。

この趣旨については、時事の事件を報道する際には、その内容を知らせるため事件に関連する著作物を示す必要が生じる場合があり、また報道のための著作物利用は通常、著作権者が対価を得ようと予定している市場と競合せず、著作権者に大きな経済的不利益を与えないことなどが指摘されています。そして、民主主義の根幹に関わる「知る権利」に配慮し、報道の自由を保護したものと位置づけられています。

Q2. 「時事の事件」の定義について、もう少し詳しく教えてください。「速報性」は絶対条件ですか?

A2. 「時事の事件」という言葉が具体的に何を指し、報道にどれほどの「新鮮さ」が求められるのか。この点は、著作権法41条を解釈する上で、様々な角度から活発な議論が交わされており、一様な見解には至っていません。

一つの考え方として、「速報性こそが核心」と捉える立場があります。この見方によれば、著作権法が制定された当初は、「その出来事が報道される日においてニュースとしての価値を持つか」という点が重視されていたとされます。つまり、過去の歴史的記録ではなく、あくまで「今日のニュース」としての性格が求められたわけです(加戸守行『著作権法逐条講義(七訂新版)』360頁参照)。この解釈を採るならば、報道の対象は現在進行形か、ごく最近に発生した出来事に絞られることになります。また、なぜ41条が著作権者の許諾なしの利用を認めるのか、その理由の一つとして「報道の緊急性ゆえに事前に許諾を得る時間的余裕がない」ことを挙げるなら、やはり事件の発生からの時間的近接性が重要になるとの意見もあります(茶圓成樹「判批〔山口組五代目継承式事件〕」メディア判例百選(第2版)191頁参照)。

その一方で、「ニュース価値は時間経過だけで薄れない」とする、より柔軟な見方も有力です。こちらの立場では、報道の瞬間に速報性が絶対的な条件とは考えません。大切なのは、報道される時点で「多くの人々にとって知る価値のあるニュースかどうか」という点です。「過去の出来事であっても、現在において改めてその意味が問い直されるべき事柄」や、「その日にニュースとして取り上げる意義のある、社会的な関心を呼ぶ出来事」であれば、41条の対象になりうるとされます(梅田康宏「判批 [バーンズコレクション事件]」著作権判例百選(第5版)156~157頁参照、渋谷達紀『著作権法』331頁参照)。この視点に立てば、月刊誌や年鑑での深掘り記事、事件から数年・数十年といった節目での検証報道、さらには長期的に注目される「時の人」の動向や社会的な「トレンド情報」なども、「時事の事件」の範囲に入ってくると考えられるでしょう(池村聡「〈講演録〉報道における著作物利用」コピライト681号7頁、三村量一「〈講演録〉マスメディアによる著作物の利用と著作権法」コピライト594号6~7頁参照)。

最終的に、国民が持つ「知る権利」を実質的に保障するという観点に立てば、たとえ過去の出来事に関する報道であっても、著作権者の許諾が得られない場合にまで報道の途が閉ざされてしまうのは望ましくありません。そのため、国民が情報を得る機会を確保するという41条の役割を重視するならば、必ずしも「速報性」という一点のみに固執せず、より広い視野で適用の可否を判断すべきだという考え方も成り立ちます。

Q3. 報道に利用できる著作物は「事件を構成する著作物」と「事件の過程で見聞きされる著作物」とありますが、具体的にどのような範囲を指すのですか?

A3. 報道のためにどのような著作物まで利用してよいのか、その範囲を見極めるのは簡単なことではありません。この点に関する考え方は、大きく二つの方向に分かれます。

まず、利用できる著作物をかなり限定的に捉える立場があります。この考え方は、法律が作られた当初の意図を重視するもので、例えば「事件の主題そのものである著作物」ー美術館から盗まれた絵画がその典型例ですーや、「事件が展開する中で、報道映像や音声に不可避的に含まれてしまう著作物」—スポーツ中継で自然と聞こえてくる応援歌やBGMなどがこれにあたるでしょう—といったものに絞られます(加戸守行『著作権法逐条講義(七訂新版)』360~361頁参照)。つまり、報道対象の事件と分かちがたく結びついているか、報道の過程で技術的に分離が困難な著作物が念頭に置かれているわけです。

これに対して、より柔軟に、報道内容との関連性を広く認めるべきだという立場も存在します。こちらの考え方では、厳密には事件を構成するわけでも、事件の最中に直接見聞きされたわけでもない著作物であっても、報道内容を視聴者に分かりやすく伝えたり、事件の背景を理解させたりするのに役立つのであれば、利用の余地を認める方向です。例えば、ある著名な俳優が亡くなったというニュースを報じる際に、その俳優の代表作である映画の一場面を短い時間紹介するようなケースが考えられます。このような利用は、著作権者に大きな不利益を与えることは稀であり、事件と「相当な関連性」が認められるならば許容されるべきではないか、というわけです(中山信弘『著作権法(第3版)』441頁、三村量一「〈講演録〉マスメディアによる著作物の利用と著作権法」コピライト594号7頁参照)。この立場は、報道の持つ情報伝達機能をより重視した解釈と言えるでしょう。

Q4. 著作権法32条の「引用」とは、具体的にどう違うのですか? 41条を選ぶメリットは何でしょうか?

A4. 著作権法32条も「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」であれば、公表された著作物を引用して利用することを認めており、報道目的での利用も可能です。しかし、41条との決定的な違いは、32条が原則として「公表された著作物」を対象とするのに対し、41条にはそのような限定がない点です。

この違いから、41条の独自の意義については、国民の知る権利を保障することの重要性に鑑み、引用が成立しない未公表著作物を利用する場面においても、著作物の利用を認めることがあり得ることを規定したものと捉えられています。つまり、32条では対応できない「未公表の著作物」の利用を、国民の「知る権利」の観点から特に認める点に41条の積極的な意義があると言えます。 ただし、未公表著作物の利用に関しては、後述する「公表権」との関係が問題となります。

Q5. 「報道の目的上正当な範囲内」という要件は、どのような要素で判断されるのでしょうか?

A5. 著作権法41条が定める「報道の目的上正当な範囲内」という文言は、報道の自由と著作権保護のバランスを取るための、いわば核心部分です。この「正当な範囲」を判断するための絶対的なものさしは存在せず、個々のケースが持つ具体的な背景や状況を丁寧に見ていく必要があります。

では、どのような点が考慮されるのでしょうか。一つの視点として、「その報道を行う上で、本当にその著作物を使う必要があったのか、そして、その使い方が著作物本来の市場価値と衝突しないか」という点が挙げられます。報道に費やされた時間や、複製された著作物の質なども、この判断に関わってくるでしょう(加戸守行『著作権法逐条講義(七訂新版)』361頁参照)。

さらに別の角度からは、「著作物の利用方法そのものに関する多角的な検証」が求められます。これには、情報を伝える手段(テレビか新聞か、など)、利用される著作物の質や量、表示されるサイズ、利用の頻度や期間、デジタルかアナログか、ダウンロードができないように措置されているかといった技術的な側面までが含まれます。これらの要素を総合的に吟味し、「著作権を持つ人の正当な利益を不当に損なう結果となっていないか」という観点から、「正当な範囲」かどうかが検討されることになります(上野達弘「時事の事件の報道一著作権法41条をめぐる現代的課題」601頁参照)。

要するに、報道される内容と、そこで使われる著作物との間の「関連性の強さ」、実際に著作物が「どのように使われたか(どれだけの量や質で、どのくらいの時間など)」、著作物自体の「種類や特性」、そして何よりも「その利用が著作権者の経済的な利益をはじめとする正当な権利を不当に侵害していないか」といった複数の要素が、総合的に秤にかけられるわけです。単に「報道のため」という名目があれば何でも許されるわけではなく、著作物利用の必要性と、権利者への配慮とを、個別の事案に即して慎重に見極めることが求められるのです。

Q6. 未公表の著作物、例えば個人の日記や手紙などを報道で利用する場合、著作者の「公表権」との関係はどうなるのですか?

A6. 著作者人格権の一つである「公表権」(著作権法18条)は、未公表の著作物を公表するか否か、公表するならいつ、どのような方法で公表するかを決定する権利です。そして、著作権法50条は「著作権の制限規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない」と定めています。 このため、41条が形式的に未公表著作物を含みうるとしても、公表権侵害の問題は別途生じうるというのが原則的な考え方です。 しかし、死刑囚の文通相手に対する未公表の手紙の内容や文面の写真が週刊誌に掲載された獄中書簡事件名古屋高判平成22年3月19日判時2081号20頁)の判決では、「[41条の]要件を充たす場合には著作者人格権を違法に侵害する場合にも当たらない(41条の趣旨が準用されるか、違法性阻却事由になる。)と解される」として、著作権および著作者人格権の侵害が否定されました。 ただし、この判決に対しては、著作権の制限規定を著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならないと定める50条との関係が不明であるとの批判があり、公表権侵害を否定すべき事例においては、権利濫用や公表の同意の推定、黙示の同意等で対処せざるを得ないとする学説も存在します。 最近の裁判例として、「ハレンチ君主 いんびな休日」事件知財高判令和5年2月7日 令和4年(ネ)第10090号・10097号)では、50条を理由として41条の適用を否定し、公表権侵害を認めたケースもあります。

Q7. 実際の裁判例で、41条の適用が争われたケースについて、もう少し詳しく教えてください。

A7. 41条の解釈が問題となった重要な裁判例がいくつかあります。

  • いちげんさん事件東京地判平成13年11月8日 平成12(ワ)第2023号): 週刊誌に映画「いちげんさん」の主演女優のヌードシーンを含むラブシーンの写真が掲載された事案です。裁判所は、「本件映画においてAがヌードになっているということが時事の事件の報道に該当しないことは明らかである」と述べ、41条の適用を否定しました。 この「時事の事件」の該当性判断には疑問が呈されており、事実に基づいてそのような主題の報道がされている以上、時事の事件の報道に該当すること自体を否定するべきではなかったという意見があります。結論として41条の適用を否定したこと自体は、有名女優のヌードをみることができるということが映画の集客力に大きな影響を与え得ると考えられるところ、映画館での上映よりも一般にアクセスしやすいと考えられる週刊誌に掲載されることにより、映画の売上に影響を与える可能性があることから支持しうるものの、その判断は「報道の目的上正当な範囲内」の要件で行うべきだったとの批判もあります。

  • 山口組五代目継承式事件(TBS事件)大阪地判平成5年3月23日 判時1464号139頁): テレビの報道番組「筑紫哲也ニュース23」において、山口組系の暴力団が一斉摘発されたという報道(約7分間)の際に、「山口組五代目継承式」の模様を撮影したビデオが4分十数秒間にわたり放送された事案です。裁判所は、「本件ビデオを作成し、その複製物を系列の団体に配付したこと」自体が時事の事件に該当するとし、当該ビデオは「事件を構成する著作物」であるとして41条の適用を認めました。 しかし、元々の報道内容は一斉摘発であり、裁判所は本件ビデオを「事件を構成する著作物」とするために、恣意的に「ビデオの作成・配布」そのものを「時事の事件」としたとの批判的な見解があります。また、仮に事件との関連性を認めたとしても、報道時間(約7分)の大部分を占めるビデオ放送(4分十数秒)が「報道の目的上正当な範囲内」とは言えないのではないかという疑問も呈されています。

  • ASKA事件(ミヤネ屋事件)東京地判平成30年12月11日 判時2426号57頁): 歌手のASKA氏が覚せい剤使用の疑いで逮捕される方針であるとのテレビ報道(「情報ライブミヤネ屋」)の際、ASKA氏本人が芸能リポーターにメールで送信した未公表の楽曲の録音データの一部(約1分間)が再生された事案です。裁判所は、「警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であること」は時事の事件に該当するとしつつ、本件楽曲は「このような時事の事件の主題ではなく、直接の関連性もないとして、「時事の事件を構成する著作物」に当たらない」と判断し、41条の適用を否定しました。 この判断について、仮に、未公表の楽曲が利用された番組内容がASKA氏の音楽活動を丹念に検証・紹介等するようなものであったとすると、そのような番組内容に必ずしも速報性はないと考えられるものの、番組内容からみてその楽曲の利用が必須であり、楽曲の再生時間等が「報道の目的上正当な範囲内」といえるような態様での利用と認定されるのであれば、41条の適用が肯定される余地があったのではないかとの見解もあります。

これらの判例は、41条の各要件の解釈がいかに複雑で、事案ごとの判断が重要であるかを示しています。

Q8. 近年、個人のブログやSNSでの情報発信が増えていますが、これらも41条の「報道」として認められる可能性はあるのでしょうか?

A8. これは現代的かつ重要な論点です。41条制定時には想定されていなかった情報発信形態の出現により、従来の「報道機関」の枠組みを超えた適用が問題となります。 この点について学説は分かれています。

  • 肯定的な見解:一般人による報道も41条の対象に含めることを肯定する説があります(伊藤真「〈講演録〉著作権の制限規定」コピライト684号17~18頁など参照)。

  • 慎重な見解:条文上は限定がないものの、報道の主体は新聞社やテレビ局などの報道機関が想定されており、個人にまで主体を拡大するならば「時事の報道」要件を厳格に解釈すべきとする説もあります(高林龍『標準著作権法(第5版)』194頁など参照)。また、「一定の影響力・発信力を持った者」が「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること」を「報道」とし、報道機関と同程度ではないものの、それなりに強い影響力・発信力を持った者に限るとする見解も示されています(池村聡「〈講演録〉報道における著作物利用」コピライト681号8~9頁参照)。

近時の裁判例の動向として、報道機関であるかどうかといった主体の問題に言及することなく、利用態様や内容に着目し、「社会的な意義のある時事の事件を客観的かつ正確に伝えようとするものであるか」等をもって、ブログやウェブサイトでの著作物利用における41条の該当性を判断しようとするものが登場していることが注目されます。 例えば、別件訴訟の判決内容を紹介するウェブサイトへの写真掲載が問題となったウェブサイト写真投稿(発信者情報開示)事件東京地判令和5年3月30日 令和4(ワ)第2237号)では、「社会的な意義のある時事の事件を客観的かつ正確に伝えるものである」などとして41条の適用が認められました。 このことから、今後は情報発信の主体が伝統的な報道機関か否かという形式だけでなく、その内容や態様が客観的な事実を社会に伝えるという「報道」としての実質を備えているかどうかが、より重視される傾向にあると考えられます。

以上、著作権法41条について、より詳細なQ&A形式で解説しました。この条文は、変化する社会や情報伝達手段の中で、常に解釈が問われ続ける重要な規定と言えるでしょう。

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弁護士 大熊 裕司
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