音楽の著作物における編曲と著作権の考察

音楽は日常生活の中で広く親しまれており、さまざまな場面で再生され、編曲され、利用されています。しかし、音楽に関する著作権の問題は非常に複雑で、特に編曲に関してはその範囲や権利の扱いが難しい問題となることが多いです。本ブログでは、音楽の著作物における「編曲」とその著作権上の取り扱いについて、判例を交えながら詳しく解説します。


1. 音楽の著作物とは?

著作権法において、音楽の著作物は著作権で保護される対象として明示されています。音楽の著作物には、楽曲(メロディー、和声、リズム、形式などの要素)と歌詞が含まれます。例えば、ある詩が後に楽曲の歌詞として利用された場合、その詩は言語の著作物としても、音楽の著作物としても保護されることがあります。

著作権法第21条に基づき、音楽の著作権者はその楽曲を複製する権利を持ちます。この「複製」には、楽曲が有形的に再製されるだけでなく、多少の変更や修正が加えられた場合も含まれます。したがって、他のメディアに転用されたり、異なる形式で再生されたりした場合でも、オリジナルの著作物の内容および形式が保持されている限り、その利用は著作権の制約を受けます。

2. 編曲とは何か?

編曲とは、既存の楽曲に新たな創作性を加えて再構成することを指します。具体的には、ピアノ曲を管弦楽用に編曲したり、クラシック楽曲をジャズ風にアレンジしたりする場合がこれに当たります。編曲は、原曲の旋律やリズム、楽器の編成を変更して新たな表現を加えるものですが、著作権法上、編曲も「二次的著作物」の一部として扱われます。

編曲には、創作性が求められます。単に楽譜を別の楽器用に書き直すだけでは編曲には該当しません。例えば、ハーモニカ用に楽譜を数譜化したり、調を変えるだけの作業は編曲とはみなされません。編曲と認められるには、原曲の表現上の本質的な特徴に対して、新たな創作的な要素が加えられている必要があります。

3. 編曲と著作権侵害

編曲が著作権侵害に該当するかどうかを判断する際には、まず原曲のどの部分が「表現上の本質的な特徴」を構成しているかを分析することが重要です。音楽の楽曲は、メロディー、リズム、和声、形式などの複数の要素で成り立っていますが、どの要素が主要な特徴かは楽曲ごとに異なります。そのため、編曲がこれらの要素にどの程度の変更を加えたか、またそれが著作権侵害に該当するかを慎重に評価する必要があります。

例えば、東京地判平成12年2月18日判時1709号92頁(どこまでも行こう事件)では、楽曲の複製権侵害が争点となりました。この事件では、両曲のメロディーにおける同一性を第一に考慮した上で、リズムや和声などの要素も詳細に比較されました。その結果、両楽曲のメロディーやその他の要素において明確な違いが認められたため、複製権侵害は否定されました。

しかし、控訴審では編曲権侵害が争点となり、東京高判平成14年9月6日判時1794号3頁において、原曲のメロディーの一部が実質的に同一であり、旋律全体の構成にも類似性が認められると判断しました。この判決では、メロディーの他にも和声やリズムが分析され、それらを総合的に検討した結果、編曲権侵害が認められました。

このように、編曲における著作権侵害を判断する際には、楽曲のどの要素が著作権保護の対象となるか、その特徴を変えずにどの程度の変更が行われたかを精査する必要があります。また、多少の変更や修正が加えられていても、原曲の表現上の本質的な特徴が維持されていれば複製とみなされる可能性が高く、創作性が加わる場合には編曲や翻案に該当します。

4. 判例から考える編曲権の侵害

最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)は、「複製」とは、既存の著作物を依拠し、その内容および形式を認識できる程度に再現する行為を指すとされました。これは、単に元の楽曲をそのままコピーするだけでなく、一部の修正や変更が加えられていても、依然として元の著作物の本質的な特徴を感得できる場合には、複製とみなされるとされました。

さらに、最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁(江差追分事件)によると、翻案とは、既存の著作物に基づいて、その本質的な特徴を保持しながら、新たな創作性を加えることを意味します。著作権法27条に基づき、著作者には著作物を翻案する権利があり、翻案権の侵害が認められるかどうかは、利用された部分が元の著作物の「表現上の本質的な特徴」を保持しているかどうかによります。

このようなことから、著作権侵害を回避するためには、原曲の主要な特徴を大幅に変更し、新たな創作性を加えることが必要です。単にテンポや和声を変えるだけでは、原曲の表現上の本質的な特徴が保持されてしまうため、編曲権や翻案権の侵害に該当する可能性があります。そのため、編曲を行う際には、元の著作物がどの部分で特徴づけられているかをよく理解し、その上で創作的な要素を追加する必要があります。

5. 音楽の著作物における創作性の重要性

音楽の著作物において、創作性は非常に重要な要素です。旋律や和声、リズムなど、楽曲の構成要素がどの程度独自のものかによって、その楽曲が著作権で保護されるかどうかが決まります。創作性が認められない場合、たとえその楽曲が公開されていたとしても、著作権は発生しません。

逆に、創作性が認められる場合、他者がその楽曲を利用する際には、著作権者から許可を得る必要があります。これは、編曲の場合でも同様です。編曲者が原曲を利用する際には、必ず著作権者の許可を得ることが求められます。無断で編曲を行い、商業的に利用した場合、著作権侵害として訴訟の対象となる可能性が高いです。

6. 結論

音楽の著作物における編曲は、創作性を加えることによって新たな著作物を生み出す一方で、原曲の表現上の本質的な特徴を保持することが求められます。判例を通じてわかるように、著作権侵害が成立するかどうかは、具体的な楽曲ごとの要素分析によって判断されます。

著作権法は、音楽の創作活動を保護しつつ、他者の創造的な活動も尊重するバランスをとっています。編曲者は、そのバランスを理解し、適切に著作権を尊重しながら新たな作品を生み出していくことが重要です。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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