“BAO BAO”バッグ事件

1.はじめに

本記事では、「不正競争行為差止等請求事件」(東京地方裁判所判決/平成29年(ワ)第31572号/令和元年6月18日)について、判決日や出典等の基本情報を整理したうえで、どのような事案が争われ、裁判所がどのような基準と判断を示したのかを詳しく解説します。本件は、ファッションアイテムのうち特にバッグの外観デザインをめぐり、不正競争防止法や著作権法の観点から争われたものです。一般に、バッグや服飾などのファッション分野では、実用性のみならずデザインの独自性も非常に重要であり、その模倣や類似が問題となるケースが少なくありません。本件判決は、当該バッグデザインの権利保護や侵害の有無をどのように判断したかが大きな焦点でした。

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2.判決情報と出典

  • 事件名:不正競争行為差止等請求事件

  • 事件番号:東京地方裁判所判決/平成29年(ワ)第31572号

  • 判決日:令和元年6月18日

  • 出典・掲載誌

    • 裁判所ウェブサイト

    • ジュリスト1539号8頁

    • ジュリスト1544号264頁

    • ジュリスト1556号111頁

3.事案の概要

(1)当事者と主張の骨子

本件で原告となったのは、著名なファッションブランドを展開する企業(株式会社イッセイミヤケほか)で、いわゆる「BAO BAO」と呼ばれる独創的なバッグシリーズを製造販売していました。対する被告企業は、類似した外観のバッグを製造あるいは輸入・販売していたとされ、本件では以下のような主張が争点となりました。

  1. 不正競争防止法上の「商品等表示」(同法2条1項1号・2号)

    • 原告は、自社バッグの独特な三角ピースを組み合わせる外観が「商品等表示」として周知ないし著名であると主張。被告による類似デザインが混同を生じさせるか否か。

  2. 著作権侵害(複製権・翻案権侵害)

    • 原告らは、そのバッグ形態を著作物(美術の著作物)として保護すべきと主張し、被告の製品がそれを複製・翻案していると主張。

  3. 損害賠償額や差止請求の可否

    • 不正競争防止法に基づく損害賠償額推定(同法5条)や、著作権法112条に基づく差止、廃棄請求の成否なども争われました。

(2)バッグの特徴(争点)

原告側のバッグは、柔軟な生地(主にメッシュや布地)の上に三角ピースを並べたデザインであり、表面がタイル状に構成されているのが大きなポイントでした。荷物の形状に合わせて形が変わり、また三角形のピースをタイルのように連続・規則的に配置している点が視覚的な特徴であり、そこがブランドのアイコンとされていました。一方、被告のバッグは類似構成の三角パネルを組み合わせていて、外観が酷似していると原告が主張したことで、両者の類似性および混同の可能性などが検討されることになりました。

4.裁判所の判断

(1)不正競争防止法に基づく請求

本件で裁判所は、まず「原告バッグの外観」が不正競争防止法2条1項1号・2号でいう「周知表示」あるいは「著名表示」か、さらに両者が混同を生じさせるほど類似しているかを審理しました。判決文からは、以下のような趣旨で判断が示されています(引用は一部要旨)。

「(原告バッグの特徴的外観)三角形のピースが規則的に配置される形態は、原告の周知な商品等表示に該当し、需要者間で原告の商品との認識を獲得していると認められる。」

被告のバッグについては、一見すると三角ピースの集合体であり、遠目には原告バッグと混同のおそれがあると判断されました。そして、

「(被告バッグ)は、原告商品と出所の混同を生じさせるおそれがある。」

として、被告に対して差止・損害賠償を命じる結論に至っています。実際には、三角ピースの形状や並べ方に若干の差異があるとの主張に対しても、裁判所は全体的外観から混同が生じるとみました。

(2)著作権侵害に関する判断

一方で原告は、「BAO BAO」バッグのデザインが著作権法上の「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)として保護されるとも主張し、被告バッグはそれを複製・翻案しているとして著作権侵害を主張しました。いわゆる「応用美術」の著作物性が争点となります。

しかし、裁判所は最終的に「本件バッグの形態は著作物に該当しない」として、著作権侵害は成立しないと判断しました。すなわち、実用目的のバッグの形態(応用美術)であっても、純粋美術と同視し得る美的創作性が一定の基準を超えていれば著作物性を認め得る余地はあるとしつつも、当該バッグについては「実用部分と切り離して美的鑑賞の対象となり得る独立性が認められない」などとして、著作権として保護されるほどの表現ではないとの結論です。

判決では、次のように示されます(判決文要旨):

「バッグとしての機能と不可分に結びついた構成部分であって、これを純粋美術と同視し得る美的創作性を認めることはできない。」

このため、「著作権侵害は否定」されました。
一方、不正競争防止法では原告が勝訴したため、本件全体として原告が差止・損害賠償を認められた結果となりますが、著作権法上の保護は認められなかったという点が大きなポイントとなります。

(3)損害賠償額

判決は、被告が製造・販売したバッグの数量などの証拠をもとに、不正競争防止法5条や著作権法114条に基づいて損害額を算出し、被告に対し約7100万円余りの支払いを命じています。さらに、差止請求や侵害品の廃棄なども認められたかたちになります。

「(中略)被告は、原告イッセイミヤケに対し7106万8000円およびこれに対する平成29年10月4日以降年5分の割合による金員を支払え。」

5.まとめと今後の影響

本件判決は、ファッション界隈で広く知られている「BAO BAO」バッグの特徴的デザインが、比較的強い法的保護を受けられることを明確に示したものといえます。これにより、ファッション分野における模倣・類似品をどの程度まで差し止められるかや、応用美術に属するデザインの著作権保護の可否が改めて浮き彫りとなりました。

特に三角ピースの配置やバッグ全体のフォルムについて、「実用性と独立した美術性を備えているか」が一つの判断基準として扱われた点は、デザインや応用美術関連の侵害訴訟において参照される可能性があります。さらに、不正競争防止法の「周知表示」や「著名表示」要件の充足性により、被告の商品が混同を生じさせるかどうかも重要な論点でした。

今後、ファッションや雑貨など「実用品」ではあるが、高度な独創デザインを備える製品にとって、いかに自己のデザインを周知・著名とし、また著作権等で保護を得るかが、企業の戦略や権利行使において大きな意味を持つことでしょう。本件判決は、その意味でもデザイン保護の実務に多大な示唆を与える重要判例といえます。

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