著作権の権利制限の「引用(32条)」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。
引用に関する著作権法の規定
著作権法32条は、引用について規定していますので、条文を確認してみましょう。
第2項は、国の機関等が作成し、一般に周知させることを目的として作成し、公表した著作物に関しては、説明の材料として新聞、雑誌その他の刊行物に転載することができることを規定したものです。
具体的には、防衛白書、警察白書などの著作物を刊行物に転載することができる根拠条文となります。
ただし、転載を禁止する旨の表示がある場合は、許諾が必要ではありますが、転載を禁止する旨の表示がなされることは少ないと思われます。
実務上問題となり、利用が多いのは第1項で規定されている引用の要件だと思いますので、以下、引用の要件について検討したいと思います。
パロディ・モンタージュ事件最高裁判決
引用に関する判例として取り上げられる代表的な判例が「パロディ・モンタージュ事件最高裁判決」(最判昭和55年3月28日・判タ415号100頁)です。
「パロディ・モンタージュ事件最高裁判決」は、引用の要件として、①明瞭区別性、②主従関係性の要件を明らかにしたとしたものとして紹介されています。
ただし、「パロディ・モンタージュ事件最高裁判決」は旧法下での判断であり、現行著作権法32条1項について判断したものではないこと、著作者人格権の成否が争われた事案において、傍論として、著作権侵害の成否が判断された事例であることには注意を要します。
美術品鑑定証書事件
上記のとおり、「パロディ・モンタージュ事件最高裁判決」に対しては、旧法下での判断であること、①明瞭区別性、②主従関係性の要件は著作権法32条1項の文言から直ちに導かれる要件ではないこと、①明瞭区別性、②主従関係性の要件だけでは判断が困難な事例もあり得ることなどから批判が強くありました。
そのような批判もあってか、知財高判平成22年10月13日・判タ1340号257頁(美術品鑑定証書事件)は、以下のように説示し、引用の抗弁が認められるためには、様々な事情を総合考慮するという立場を採りました。
引用の要件
32条1項を細かく見てみると、①引用する著作物が公表された著作物であること、②引用して利用すること、③公正な慣行に合致するものであること、④報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものであることに分けられます。
引用する著作物が公表された著作物であること
他人の著作物を引用する場合には、公表された著作物を引用する必要があり、未公表の著作物を引用することはできないことが要件になっています。この点は、特に問題はないと思います。
引用して利用すること
条文上、引用して利用することとは、具体的にどのようなことを意味しているかは明らかにされていませんが、パロディ・モンタージュ事件最高裁判決の要件が参考になると思います。
すなわち、「引用」というからには、引用する側の著作物と引用される著作物が、混然一体となっているのではなく、両者が明瞭に区別されていること(①明瞭区別性)、引用する側の著作物が主、引用される著作物が従となる関係があること(②主従関係性)が認められれば、「引用して利用すること」の要件を充足すると思います。
公正な慣行に合致するものであること
「公正な慣行に合致するもの」という表現も、どのような方法が公正な慣行に合致するのか否か明らかでない要件です。もっとも、引用の4つの要件のうち、他の要件が充足しているにもかかわらず、「公正な慣行に合致するもの」とはいえないとして、引用の抗弁が認められないような事例は少ないのではないかと思います。
もっとも、著作権法48条の出所明示義務(引用にあたって、著作物の出所を明示しなくてはならないとする義務)に違反するような場合は、公正な慣行に合致するものでないとして、引用の抗弁が否定されるケースもあります。なお、出所明示義務違反に対しては、50万円以下の罰金という罰則が設けられています(122条)。
報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものであること
「引用の目的上正当な範囲内」という要件ですが、裁判例では、「社会通念に照らして合理的な範囲内」という表現が用いられることもある要件です。この要件の中で、どのような事情を考慮するのかというと、引用が正当化される必要があることから、「引用の必要性」があるか否かが考慮されることになります。一般に引用について争いとなる事案は、何らかの形で引用の必要性はあるような事案であることが多いと思います。しかし、「報道、批評、研究」の対象でない著作物を引用する場合(例えば、殺人事件の報道をするために、犯人の中学校の卒業アルバムの写真を引用する場合、ある書籍について批判するために、該当の本文ではなく書籍の表紙を引用する場合等)もあり、当然に引用の必要性が認められる事案ばかりともいえません。
また、「正当な範囲内」という規定からも、必要最小限の利用が求められるといえますので、引用の必要性が認められるとしても、必要以上に過剰に引用する場合には、「引用の目的上正当な範囲内」であることが否定されることも考えられます。
まとめ
以上のとおり、引用が認められるか否かの判断は、総合考慮的な判断になるため、事前に適法引用か否かの結論を出すのが難しい状況です。ただ、言えることは、過去の裁判例を参考にすることで、引用の要件を充足しているかについて、ある程度の傾向はつかめると思いますので、それを踏まえた判断をしていくことが重要だと思います。