著作権に関連する裁判の判例である「ラストメッセージ in 最終号事件」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。
この事件は雑誌の休廃刊の挨拶文について著作物性が有るか争われた事件です。
被告Yは昭和61年から平成5年までの間に休刊又は廃刊となった複数の雑誌の最終号の表紙、挨拶文を機械的に複製した上で休廃刊の年ごとにまとめ「ラストメッセージ in 最終号」という書籍を出版しました。
原告Xらは、Yの書籍に記事等が収録された雑誌の出版元で、Xらは、Yの行為はXらが有する記事の複製権を侵害するとして本件書籍の発行及び頒布の差止め並びに損害賠償を請求しました。
東京地裁は、7つの挨拶文については著作物性を否定しましたが、残りの挨拶文については著作物性を肯定しました。
本件記事の著作物性については、休廃刊となった雑誌の最終号において、休廃刊に際し出版元等の会社やその編集部、編集長等から読者宛に書かれた、いわば挨拶文の性格をもつものであるので、以下の五つの内容をありふれた表現で記述しているにすぎないものは、創作性を欠くものとして著作物であると認めることはできないと判事しました。
1.少なくとも当該雑誌は今号限りで休刊又は廃刊となる旨の告知、
2.読者等に対する感謝の念あるいはお詫びの表明、休刊又は廃刊となるのは残念である旨の感情の表明が本件記事の内容となることは常識上当然であり、
3.また、当該雑誌のこれまでの編集方針の骨子、
4.休廃刊後の再発行や新雑誌発行等の予定の説明をすること、
5.同社の関連雑誌を引き続き愛読してほしい旨要望すること
具体的に本件の事例を見ていくと、
1.「本誌はこの号でおしまいです。長い間のご愛読に感謝します。」
→著作物性を否定
2.「おしらせ いつも『なかよしデラックス』をご愛読いただきましてありがとうございます。『なかデラ』の愛称で15年間にわたって,みなさまのご声援をいただいてまいりましたが,この号をもちまして,ひとまず休刊させていただくこととなりました。今後は増刊『るんるん』をよりいっそう充実した雑誌に育てていきたいと考えております。『なかよし』本誌とともにご愛読くださいますようお願い申しあげます。 なかよし編集部」
→著作物性を否定
3.「あたたかいご声援をありがとう 昨今の日本経済の下でギアマガジンは,新しい編集コンセプトで再出発を余儀なくされました。皆様のアンケートでも新しいコンセプトの商品情報誌をというご意見をたくさんいただいております。ギアマガジンが再び店頭に並ぶことをご期待いただき,今号が最終号になります。長い間のご愛読,ありがとうございました。」
→著作物性を肯定
1.については定型文のようなありきたりな内容なので著作物性が認められないのは当然のように思います。2.についても1.よりは長文ですが、やはり一般的な挨拶文に終始しているので著作物性が認められないのはしかたがないことのように思えます。3.につきましては、ありきたりの挨拶文ではないところが評価されたのかと思いますが、このような短文に著作物性を認めたことについては議論が残るところのように思います。