アイデアと表現の区別

著作物

著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法2条1項1号)と規定されています。
すなわち、アイデアがいかに独創的であったとしても、その表現が「創作的」といえない限り、著作物とはいえません。もっとも、この「創作性」は、学術的、芸術的に高度なものが要求されているわけではなく、個性が現われていれば足りるとされています。

「思想又は感情」についても、高度な思想や感情に基づくものが要求されているのではなく、人間の精神活動に基づくものであれば足りるとされています。逆にいうと、「思想又は感情」が要求されることにより、人間以外が作成した著作は著作物に該当しないという解釈が導かれます。例えば、自然に生息している猿が撮影した写真については、著作物性が否定されると解釈されています。
AIが制作した成果物についても、人間の手を離れて完全にAI自身が作り出した成果物については、その保護のあり方についてはまだ確定されていない状況です。

アイデア・表現二分論

アイデア・表現二分論とは、著作権法上、思想、感情それ自体やアイデアは保護されず、創作的な表現のみが保護の対象となることを意味擦る原則です。したがって、いかに優れた高度な思想やアイデアであったとしても、それ自体は著作権法上の保護の対象とはならず、何らかの形で表現された段階で、当該表現が保護の対象になるに過ぎません。例えば、自分の先端的な学説が第三者に利用されたとしても、学説それ自体は保護の対象とはならず、それが表現された場合に、当該表現自体が保護の対象になるに過ぎません。
思想やアイデアについては、特定人にその独占を認めず、社会一般に自由な利用を許す方が、文化の発展に資するので、著作権法の目的にも適うと考えられるからです。

もっとも、アイデアと表現の区別は微妙なケースもあり、裁判所によって判断が異なることもあるといえます。アイデアに過ぎないとされてしまえば、著作物性が否定され、結果として著作権としての保護が否定されてしまいますので、権利を主張する者(原告)としては、自分の表現物はアイデアではなく創作的な表現であると主張することになります。
なお、著作権侵害の請求を受けた被告は、原告の表現はアイデアに過ぎないのでそもそも著作物ではないという反論をしたり、仮にアイデアではなく表現であったとしても、「ありふれた」表現であり、創作性が認められないという反論をすることになります。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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