- 仙台高等裁判所 平成12年(う)第63号 著作権法違反被告事件
(原審 山形地方裁判所 平成11年(わ)第167号 平成12年3月31日判決 宣告)
- 仙台高等裁判所 平成13年(う)第177号 著作権法違反被告事件
(原審 山形地方裁判所 平成111年(わ)第184号 平成13年9月26日判決 宣告)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/651/004651_hanrei.pdf
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/650/004650_hanrei.pdf
事案の概要
今回取り上げる2つの事件はいずれも、一世風靡した「ファービー」という人形に関する事件です。「ファービー」は、米国の玩具メーカーであるT社が製造販売していたものですが、本件は被告人が「ファービー」を模倣して「ポーピィ」を製造販売した行為が著作権法違反に該当するかどうかが判断された事件です。
原審では、事件①では著作物性が肯定され、事件②では著作物性が否定されているのに対し、控訴審では事件①、②の両方とも著作物性が否定されています。
なお、T社は「ファービー」のデザイン形態について米国において著作権登録をしていて、米国法上の著作権を有しています。
争点
T社の「ファービー」は著作物性を有するか
裁判所の判断
上記のとおり、T社は「ファービー」のデザイン形態について米国において著作権登録をしていて、米国法上の著作権を有していますが、日本と米国はともにベルヌ条約加盟国であり、ベルヌ条約といえば相互主義ですが、米国で著作権が認められていれば、日本でも著作権が認められるのかという問題があります。
この点について裁判所は以下のように判断しています。
「『ファービー』のデザイン形態については,アメリカ合衆国の玩具の製造販売会社であるタイガー・エレクトロニクス・リミテッド社が,アメリカ合衆国連邦機関である著作権庁に著作権登録をし,アメリカ合衆国法上の著作権を有するのであるが,こうしたデザイン形態は,物の形態あるいは外観の美的創作であって,著作権法の領域においては,実用品に供されあるいは産業上利用されることを目的として制作される応用美術といわれるものに属する。ところで,わが国の著作権法6条3号は,『条約によりわが国が保護の義務を負う著作物』を著作権法により保護する旨定めており,わが国及びアメリカ合衆国は,『文化的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約』に加盟しており,両国間の著作権の保護に関しては同条約によることとなるが,同条約は,本国で保護される著作権が他の同盟国内で保護される範囲等を各同盟国の国内法に委ね(同条約5条1項,2項),特にいわゆる応用美術については,その保護の範囲及び保護条件を定める権能を各同盟国の国内法に委ねており(同条約2条1項,7項),『ファービー』のデザイン形態は応用美術に当たるので,結局,タイガー・エレクトロニクス・リミテッド社がアメリカ合衆国において著作権を有する『ファービー』のデザイン形態について,わが国の著作権法上著作物として保護の対象となるか否かは,わが国の著作権法の解釈にかかることとなる」
とし、米国で保護されていれば保護しなくてはいけないということはなく、日本の著作権法で解釈するべきと判断しました。
そのうえで、裁判所は、実用品である「ファービー」が応用美術の著作物として著作物性が認められるには以下の要件に該当する必要があると述べています。
「わが国の著作権法は,著作権等による保護の対象となる著作物について,同法2条1項1号において,『思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの』とし,同条2項は,『〈美術の著作物〉には,美術工芸品を含むものとする。』と定めており,絵画,彫刻等の専ら美術鑑賞の対象とされることを目的とした純粋美術のみならず,美術の感覚や技法を手工的な一品制作に応用した美術工芸品が,美術の著作物とされていることは明らかである。~(省略)~応用美術については,昭和44年当時の著作権法の制定経過や同法が応用美術のうち美術工芸品のみを掲げていることなどを考慮すると,現行著作権法上は原則として著作権法の対象とならず,意匠法等工業所有権制度による保護に委ねられていると解すべきである。ただ,そうした応用美術のうちでも,純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象とされると認められるものは,美術の著作物として著作権法上保護の対象となると解釈することはできる。そこで,美術の著作物といえるためには,応用美術が,純粋美術と等しく美術鑑賞の対象となりうる程度の審美性を備えていることが必要である。これを本件で問題となっている実用品のデザイン形態についていえば,そのデザイン形態で生産される実用品の形態,外観が,美術鑑賞の対象となりうるだけの審美性を備えている場合には,美術の著作物に該当するといえる。」
とし、応用美術が著作物として保護されるには、純粋美術と等しく美術鑑賞の対象となりうる程度の審美性を備えていることが必要と判断しました。
そのうえで、「ファービー」が我が国の著作権法上の著作物性を有するかどうかについては以下のように判断しています。
「『ファービー』のデザイン形態は,当初から工業的に大量生産される電子玩具のデザインとして創作されたものであるが、顔面の額に光センサーと赤外線センサーのための扇形の窓が設置され,額から眼球周辺及び口周辺にかけては一体成型のための平板な作りとなっており,目,口は球状のものが三角形上に3つ配置され,眼球及び口が動くため,その周囲が丸くくりぬかれて隙間があり,左右の眼球を連結する軸を隠すように,両目の間に半円形に隆起した部分があり,美感上重要な顔面部分に玩具としての実用性及び機能性保持のための形状,外観が見られ,また,刺激に反応して目,口,耳が動くことを感得させるため,それらが大きくされていることが認められる。このように,『ファービー』に見られる形態には,電子玩具としての実用性及び機能性保持のための要請が濃く表れているのであって,これは美感をそぐものであり,『ファービー』の形態は,全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず,純粋美術と同視できるものではない。」
として著作物性を否定しました。