Twitterスクショ裁判の全貌~なぜ判決は覆ったのか?

はじめに

Twitter(現X)をはじめとするSNSで、他人の投稿のスクリーンショット(以下、スクショ)を自身の投稿に添付して共有する――この、あまりにも日常的な行為の法的な是非が、真っ向から問われた裁判があります。

一審の東京地方裁判所(令和3年12月10日判決・裁判所ウェブサイト)は「著作権侵害にあたる(違法)」という厳しい判断を下し、世に衝撃を与えました。しかし、その控訴審である知的財産高等裁判所(令和5年4月13日判決・裁判所ウェブサイト)は、一審判決を全面的に覆し、「適法な引用にあたる可能性があり、著作権侵害とは断定できない」という、まったく逆の結論を導き出したのです。

なぜ、これほどまでに判断が分かれたのでしょうか? そこには、単に「スクショが良いか悪いか」という単純な問題だけでなく、SNSの利用規約と法律の関係、変化する「引用」のルール、そして「表現の自由」と「著作権保護」の均衡という、現代社会が抱える根源的なテーマが横たわっています。

本記事では、この一連の裁判で提出された判決文、そしてこれまで抽象的にしか語られてこなかった「実際の投稿内容」をすべて統合し、この重要判例の核心に迫る、決定版の解説をお届けします。

第1 事件の概要

この裁判を深く理解するためには、まず「誰が」「何を」投稿し、その結果「何が」争点となったのかを具体的に知る必要があります。

1 当事者と対立の構図

  • 原告(X氏) 自身のTwitterアカウントで、時事問題や他のユーザーに対し、しばしば辛辣で攻撃的な表現を用いて意見を投稿していました。

  • 匿名の投稿者ら(本件投稿者1、2) 原告X氏の投稿に対し、その投稿のスクショを自身のツイートに添付する形で、反論や批評を行いました。

  • 訴訟の形式 原告X氏は、スクショ投稿が自身の著作権(複製権、公衆送信権)を侵害するとして、投稿者らが利用していたプロバイダに対し、投稿者の個人情報開示を求める「発信者情報開示請求訴訟」を提起しました。

2 具体的な投稿内容

これまで抽象的にしか語られなかった、実際の投稿内容を見てみましょう。これが、裁判所の判断の土台となった生きた事実です。

(1)原告X氏の投稿
X氏の投稿には、以下のような強い言葉遣いが特徴的に見られました。

「『あたかも』じゃなくて、木村花さんを自殺に追いやったクソどもと『全く同じ』だって言ってるんだよ。結局、匿名の陰に隠れて違法行為を繰り返している卑怯どものクソ野郎じゃねーか。お前も含めてな。」

「去年の今頃、「@E」とかいう高校3年生の維新信者に絡まれて勝手にブロックされて「何したいんだ、このガキ?」って事が さっき、あのガキのツイートが目に入ったんだけど受験に失敗して浪人するわ都構想は否決されるわで散々な1年だった様だ 『ざまあ』以外の感想が浮かばない(笑)」

(2)匿名の投稿者らの投稿
これに対し、匿名の投稿者らは、X氏の投稿のスクショを添付し、次のように反論・批評しました。

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本件投稿者1の投稿
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本件投稿者2の投稿
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本件投稿者2の投稿

3 本件の主要な争点

この対立構造のなかで、裁判では大きく3つの点が争われました。

(1)ツイートの著作物性
そもそも、X氏の140文字程度の短いツイートは、著作権で保護される「著作物」といえるのか?

(2)引用の適法性
仮に著作物だとして、投稿者らのスクショ投稿は、著作権法第32条1項で認められている適法な「引用」にあたるのか?

(3)権利侵害の明白性
本件は発信者情報開示請求であり、認められるためには「権利侵害があったことが明白」でなければならないが、その要件を満たすのか?

第2 一審(東京地方裁判所)の判断(令和3年12月10日)

まず、世間に衝撃を与えた一審・東京地裁の判断から詳しく見ていきましょう。

1 ツイートの著作物性

裁判所はまず、X氏の各ツイートについて、「思想又は感情を創作的に表現したもの」として著作物性を肯定しました。

判決文は、各ツイートが「140文字以内という文字数制限の中」で書かれていることを前提としつつ、事実についての感想を口語的な言葉で端的に表現する構成の工夫、短い文の連続や高圧的な表現による罵倒、「アナタ」「アウト」「バカ」「自業自得」といった簡潔な表現をリズム良く使用した嘲笑などに「作者であるXの工夫」や「個性が現れている」と認定しました。 これは、短い文章であっても安易に著作物性を否定しないという、近年の裁判例の傾向を示すものと言えます。

2 適法な引用の否定

ここからが、本件の核心部分です。一審は、投稿者らのスクショ投稿が適法な引用の要件を満たさないと断じました。そのロジックは、主に2つの柱で構成されています。

(1)「公正な慣行」違反
一審判決が最も重視したのが、Twitter社の利用規約でした。

判決は、Twitterの規約が、他人のコンテンツを複製・配信等する場合には「ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない」と定めている点を指摘しました。そして、Twitter社がその手順として「引用ツイート」という方法を設けていることから、それ以外の方法であるスクショを添付する行為は規約違反にあたると認定しました。

その上で、「上記規約に違反するものと認めるのが相当であり、本件各投稿においてX各投稿を引用して利用することが、公正な慣行に合致するものと認めることはできない」と結論付けたのです。これは、「プラットフォームのルール違反は、著作権法上のルール違反に直結する」という、非常に厳しい考え方です。

(2)「主従関係」不充足
さらに一審は、伝統的な引用の要件である「主従関係」にも言及しました。投稿者らの投稿と、それに添付されたスクショ画像を比較し、「スクリーンショット画像が量的にも質的にも、明らかに主たる部分を構成する」と認定しました。自身の投稿が「主」、引用部分が「従」であるべきという要件を満たしていないため、「引用の目的上正当な範囲内であると認めることもできない」と判断しました。

3 専門家による一審判決への批判的視点

この一審判決、特に規約を根拠に「公正な慣行」を否定した部分については、複数の専門家からその妥当性を問う声が上がりました。弁護士の小林利明氏による判例解説は、その問題点を的確に指摘しています。

(1)利用実態の軽視
本来「公正な慣行」とは、世の中で実際に行われている態様や社会通念に照らして判断されるべきです。 しかし一審判決は、スクショ投稿が広く行われているという「利用者の引用態様実態や社会感覚としての妥当性等について特に検討を加えることもなく」、規約のみを根拠に判断しています。

(2)論理の飛躍
「規約違反」という契約上の問題が、「公正な慣行」という著作権法上の要件の判断に直結するのか。両者の間には本来、別個の検討が必要である、との指摘があります。

(3)プラットフォーマーによる法の支配
もしこのロジックがまかり通るなら、「SNS等のサービス運営者がその利用規約等をもって著作権法の定める適法引用要件を事実上修正できることにもなりかねない」という重大な懸念が生じます。これは、私企業が法律の解釈を左右できてしまう危険性をはらんでいます。

(4)表現の自由への制約
そもそも、なぜユーザーは公式の引用ツイート機能ではなく、あえてスクショを使うのでしょうか。その理由の一つに、元ツイートが削除されると引用ツイートからも内容が消え、何についての投稿か分からなくなってしまうという問題があります。批評など、議論の対象を固定したい場合には、スクショの方が適している場面があるのです。規約を理由にこれを一律で違法とするならば、「表現の自由に対する制約は大きい」と警鐘が鳴らされています。

これらの批判的視点は、まさに控訴審が判断を覆す際の重要な論点となっていきました。

第3 控訴審(知的財産高等裁判所)の判断(令和5年4月13日)

一審判決から約1年4ヶ月後、知的財産高等裁判所は、一審のロジックを根本から覆す逆転判決を下します。

1 「公正な慣行」の再定義

まず、最大の争点であった「公正な慣行」について、知財高裁は一審とは全く異なるアプローチをとりました。

(1)規約の相対化
「そもそも本件規約は本来的にはツイッター社とユーザーとの間の約定であって、その内容が直ちに著作権法上の引用に当たるか否かの判断において検討されるべき公正な慣行の内容となるものではない」と断言。規約と著作権法のルールを明確に切り離しました。

(2)スクショのメリットの承認
一審への批判点でもあった、スクショの有用性を裁判所が公式に認めました。判決は「元のツイートが変更されたり削除されたりすると、当該批評の趣旨を正しく把握したりその妥当性等を検討したりすることができなくなるおそれがあるのに対し、元のツイートのスクリーンショットを添付してツイートする場合には、そのようなおそれを避けることができる」と述べ、批評におけるスクショの合理性と必要性を認定したのです。この判断は、他の類似裁判例にも見られる、近年の司法の大きな潮流を示すものです。

(3)利用実態の重視
そして、「現にそのように他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートするという行為は、ツイッター上で多数行われているものと認められる」と、現実の利用実態を判断の基礎に置きました。

これらの理由から、知財高裁は「スクリーンショットの添付という引用の方法も、著作権法32条1項にいう公正な慣行に当たり得る」と結論付けました。

2 「正当な範囲」の再評価

次に「主従関係」が問われた「正当な範囲内」の要件についても、知財高裁は異なる視点から評価しました。

(1)「批評」という目的の重視
知財高裁は、単に投稿の量的な比較をするのではなく、その「目的」に着目しました。そして、匿名の投稿者らの一連の行為は、X氏の「高圧的な表現で罵倒する」投稿や「他のツイッターのユーザーを嘲笑する」投稿などを受けて、「これらに対する批評の目的で行われたもの」と、その文脈を読み解いて認定しました。

(2)目的と手段の相当性
その上で、その批評の目的を達するために、対象となるツイートのスクショを添付するという方法は、「引用の趣旨に照らし、引用された原告各投稿の範囲は、それぞれ相当な範囲内にある」と評価しました。

3 進化する「引用」のルール

この一審と控訴審の判断の分岐は、著作権法における「引用」の解釈が、時代とともに進化していることを象徴しています。

かつては、有名な「パロディ・モンタージュ事件」最高裁判決(昭和55年3月28日・裁判所ウェブサイト)で示された「明瞭区別性」と「主従関係」という2つの要件が、引用のルールとして厳格に適用されてきました。 一審判決の思考も、この伝統的な枠組みに強く影響されています。

しかし、近年の学説や裁判例では、より条文の文言に忠実に、「公正な慣行」と「正当な範囲内」という2つの要件を軸に、目的、態様、必要性などを総合的に考慮して判断するアプローチが主流となりつつあります。

今回の知財高裁の判断は、まさにこの現代的な解釈の潮流に乗ったものと言えます。形式的な量(主従関係)だけでなく、批評という「目的」の正当性や、スクショという「方法」の合理性にまで踏み込んで質的に評価した点に、その進化が見て取れます。

第4 総括

さて、この逆転判決を、私たちはどう受け止めるべきなのでしょうか。最後に、この裁判が持つ本当の意味と、SNSを利用する全ての人が学ぶべき教訓を整理します。

1 本判決の核心

まず、絶対に誤解してはならない最重要ポイントがあります。それは、この裁判が「発信者情報開示請求」という特殊な法的手続きであった、という点です。

この手続きでは、権利を侵害されたと主張する側(原告)が、「権利侵害があったことが明白である」ことまで証明しなくてはなりません。これは非常に高いハードルです。

したがって、知財高裁の出した結論を正確に表現すると、次のようになります。

  • 「スクショ投稿は絶対に合法(白)だ」と判断したわけでは、ありません。

  • そうではなく、「本件の具体的な事情(=原告の攻撃的な投稿に対する批評という文脈)を鑑みると、適法な引用にあたる可能性があり、著作権侵害(黒)であると明白には断定できない」と判断したのです。

つまり、「黒」であることが明白ではないから、情報開示の要件を満たさない、というロジックです。この「白か黒か」ではなく、「黒とまでは言えない」という絶妙なニュアンスを理解することが、この判決を正しく読み解く鍵となります。

2 SNS時代の著作権との向き合い方

この一連の裁判は、現代社会に生きる私たちに多くのことを教えてくれます。

(1)文脈の重要性
今回の控訴審の判断は、あくまで「元ツイートの攻撃性」と、それに対する「批評」という、極めて特殊な文脈があったからこそ導かれました。単に面白いから、話題にしたいから、といった理由で他人のツイートのスクショを投稿する行為が、同じように適法と判断される保証はどこにもありません。この判決を安易に一般化し、「スクショはOKになった」と考えるのは極めて危険です。

(2)司法の現代的視点
一方で、今回の判決は、司法が「規約は絶対」という硬直した考え方に陥らず、SNSの利用実態や、ネット上での健全な批評活動の重要性を考慮した、現実に即した判断を下したという点で大きな意義があります。法律は固定的なものではなく、社会の変化とともにその解釈も進化していくことを示す好例と言えるでしょう。

(3)リスク回避策としての公式機能
控訴審でスクショが許容される可能性が示されたとはいえ、日常的な利用において、著作権侵害のリスクを最も確実に避ける方法は、依然としてプラットフォームが公式に提供する「引用ツイート」などの機能を使うことです。これは、安全策としての基本原則として変わりありません。

(4)利用者個々の姿勢
結局のところ、問われるのは私たち一人ひとりの姿勢です。他人の創作物に対する敬意を忘れず、なぜそれを引用する必要があるのかを自問する。そして、自身の表現の自由と、他者の権利保護という、時に衝突する価値観のバランスを常に意識する。

この裁判は、手軽な情報発信が当たり前になった時代だからこそ、私たちが失ってはならない大切な心構えを、改めて教えてくれているのではないでしょうか。

【出典・参考文献】

  • 東京地方裁判所 令和3年12月10日判決(令和3年(ワ)第15819号)(裁判所ウェブサイト

  • 知的財産高等裁判所 令和5年4月13日判決(令和4年(ネ)第10060号)(裁判所ウェブサイト

  • 小林利明「ツイッターにおけるスクリーンショット画像の添付と適法引用の成否」ジュリスト1572号8-9頁(2022年)

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