教科書や試験問題における著作物の使用と著作権の制限

教育現場で使用される教科書や問題集、試験問題では、多くの著作物が使用されていますが、その使用が自由に行えるわけではありません。日本の著作権法では、著作物の使用について特別な規定が設けられていますが、これには適用条件があり、誤解や無許可の利用が著作権侵害に当たることもあります。本記事では、教科書や試験問題における著作物の使用に関する法的な枠組みについて、判例を交えながら解説します。
教科書や試験問題における著作物の使用と著作権の制限

1. 教科書における著作物の使用

まず、教科書や教育用図書における著作物の使用について考えてみましょう。著作権法第33条1項では、公表された著作物を学校教育の目的で教科書に掲載することが認められています。この規定は、著作物を教育目的で使用することの公益性を考慮したものであり、文部科学大臣の検定を受けた教科書や、文部科学省が著作の名義を有する図書に限られます。

この「教科用図書」に該当する教科書に掲載された著作物であっても、それを再利用する場合には注意が必要です。市販の問題集や参考書で著作物を使用する場合、たとえ教育目的であっても、著作権者の許可を得る必要があります。たとえば、小説や詩などの文学作品を無許可で国語のドリルに掲載することは、著作権侵害に該当します。

具体例として、教科書に掲載された作品を市販の国語ドリルに無断で掲載した場合、著作権法第33条1項の「教科用図書」の範囲を超えるため、著作権侵害となる可能性があります。この点については、判例でも確認されており、後述するように法的な判断基準が示されています。

2. 試験問題における著作物の使用

次に、試験問題における著作物の使用についてです。著作権法第36条1項では、公表された著作物が入学試験や検定試験の問題として複製される場合、その使用を認めています。これは、試験問題として利用する著作物を事前に公開することができないことから、著作権者の許可を得ることが困難であるためです。

しかし、この規定はあくまで入学試験や資格試験といった公的な試験に限定されています。市販の学習教材や問題集にはこの規定は適用されません。例えば、ある作品を市販の国語ドリルに使用する場合、それが試験問題としての使用であっても、著作権者の許諾を得る必要があります。

東京地方裁判所平成16年5月28日判時1869号79頁(国語教科書事件)では、教科書に掲載された作品を無許可で市販の問題集に掲載したケースが争われました。裁判所は、市販教材は一般販売される家庭学習用のものであり、試験問題のような特別な事情がないため、著作権法第36条1項の適用外であると判断しました。この判例により、市販教材と試験問題における著作物の使用の違いが明確化されています。

3. 著作権法の制限規定

日本の著作権法では、著作物の適正な利用を促進するためにいくつかの制限規定が設けられています。教科書への掲載や試験問題への使用は、教育目的のための特別な利用として認められています。しかし、これらの規定が適用されるためには、厳密な条件が必要です。

(1) 教科用図書への掲載

著作権法第33条1項に基づき、公表された著作物を学校教育の目的に限り、教科用図書に掲載することができます。この規定は、教育現場での効果的な学習を目的としており、著作権者への補償金を支払うことで利用が可能です。しかし、市販教材や市販ドリルにはこの規定は適用されません。

(2) 試験問題としての利用

著作権法第36条1項では、試験問題における著作物の利用が認められています。試験の公正な実施を確保するため、事前に著作物を公開することができない事情があるためです。しかし、この規定は、試験や検定といった特別な状況に限定され、家庭学習教材や市販教材に適用されるものではありません。

4. 判例に見る著作物の使用制限

ここでは、著作物の教育利用に関する重要な判例を取り上げます。判例から、教科書や試験問題における著作物使用の法的な枠組みがどのように運用されているかがわかります。

(1) 東京地判平成16年5月28日判時1869号79頁(国語教科書事件)

この事件では、小学校の国語教科書に掲載されている著作物を市販の国語ドリルに掲載したことが争われました。裁判所は、著作権法第36条1項が適用されるのは、試験の公正な実施に必要な場合に限られ、市販の教材はこれに当たらないと判断しました。さらに、教科書に掲載された著作物を無断で利用したことは、著作権者の複製権を侵害するものとされました。この判決は、市販の学習教材と公的な試験問題との間に明確な線引きを示したものです。

5. まとめ

教育や試験における著作物の使用は、特定の条件を満たせば著作権法で特別に認められていますが、その適用範囲は厳格に定められています。教科書や試験問題としての利用は教育目的のために認められる場合がありますが、市販の問題集や学習教材には著作権者の許諾が必要です。

特に、市販教材を制作する際には、著作権法の制限規定を理解し、適切に著作権者から許諾を得ることが不可欠です。無許可で著作物を使用した場合、著作権侵害が成立する可能性があるため、法的な確認と手続きを怠らないよう注意しましょう。

お問い合わせはこちらから|虎ノ門法律特許事務所

大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
著作権、肖像権、パブリシティ権、プライバシー権について、トラブル解決のお手伝いを承っております。音楽・映画・動画・書籍・プログラムなど、様々な版権・著作物に精通した弁護士が担当しておりますのでお気軽にお問合せください。

LINEでのお問合せ

LINEでのご相談も承っております。(無料相談は行っておりません) LINEでのお問い合せ

お電話でのお問合せ

電話対応時間 平日 午前9時~午後9時、土日祝 午前9時〜午後6時 虎ノ門法律特許事務所 電話

メールでのお問合せ

メールでのお問い合せ

費用

相談料

法律相談料は、1時間11,000円(税込)、のち30分ごとに5,500円(税込)です。  

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事