Googleマップに画像を投稿した行為が著作権法41条にいう時事の事件の報道のための利用に該当しないとされた事例

東京地裁令和5年2月28日判決(判例タイムズ1514号233頁)

判決内容の要点

2023年2月28日、東京地方裁判所において、インターネット上の地図サービス「Googleマップ」に投稿された画像が、著作権法第41条の「時事の事件の報道のための利用」に該当しないとされた判決が下されました。本件は、原告が自身のInstagramアカウントに投稿した動画を無断でGoogleマップに投稿されたことを理由に、Google LLCに対して発信者情報の開示を求めたものです。この判決では、動画の著作物性や、時事の事件としての報道性、さらに黙示の承諾の有無について争われました。

事案の概要

原告は、歯科医院を経営する夫を持つ女性であり、夫が路上で走っている様子をスマートフォンで撮影し、その動画を自身のInstagramのストーリーズに投稿しました。投稿は、鍵付きアカウントで非公開設定となっており、限られたフォロワーのみが閲覧可能でした。しかし、この動画の一場面が切り取られ、Googleマップ上に原告の夫の医院の写真として投稿されました。原告はこれが自身の著作権を侵害していると主張し、Googleに対して投稿者の情報開示を求めました。

争点と裁判所の判断

  1. 著作物性の有無(争点1-1)
    原告は、動画が個人的な思想や感情を創作的に表現したものであり、著作物として保護されるべきであると主張しました。裁判所は、動画が原告の個性を発揮して撮影・編集されたものであると認定し、著作物性を認めました。一方、被告であるGoogle側は、動画は短く、特別な工夫がないと主張しましたが、裁判所はこれを退けました。
  2. 黙示の承諾の有無(争点1-2)
    被告は、Instagramの投稿には転載禁止の表示がなく、原告が黙示的に利用を許諾していたと主張しました。しかし、裁判所は、鍵付きアカウントでの限定公開であったことや、投稿がストーリーズ形式で24時間後には消滅するものであったことから、黙示の承諾を認めませんでした。
  3. 「時事の事件」の定義と解釈
    「時事の事件」とは、一般に社会的に重要な出来事や事象を指します。その報道には、公共の利益に資する情報提供が期待されるため、著作物の利用が一部認められる場合があります。しかし、本件における動画の内容は、個人的な日常の一場面であり、広く社会的な関心を集める「時事の事件」としては認められませんでした。裁判所は、動画が社会的に重大な出来事を報道するためのものではなく、単なる個人的な生活の記録であったと判断しました。

    「報道」の目的と意図

    報道の目的とは、公共の利益に資する情報を提供することであり、ニュース性や公共性が重要な要素となります。裁判所は、Googleマップへの投稿が「報道」を目的としたものであるかを厳格に判断しました。裁判所は、Googleマップの投稿が単なる地図サービスの一機能としての写真の投稿であり、報道としての意図や目的が認められないと結論付けました。報道として認められるためには、その情報提供が公共の利益に直結し、特定の事件や事象を伝える意図が明確でなければならないとしています。
    利用の範囲と必要性
    著作権法第41条において、時事の事件の報道に必要な範囲内での著作物の利用が認められるには、その利用が「必要」かつ「適切」でなければなりません。本件では、原告の動画がGoogleマップに投稿された理由として、公共性やニュース性がないため、その利用が「報道のために必要」とは言えないとされました。
  4. 正当な理由の有無(争点2)
    原告は、損害賠償を求めるために発信者情報の開示を必要としていると主張しました。裁判所は、著作権侵害が明らかであることから、正当な理由が認められると判断しました。

判決の意義と影響

この判決は、SNSやインターネット上でのコンテンツ利用に関する著作権の取り扱いについて、重要な示唆を与えます。特に、著作権法第41条の「時事の事件の報道」の解釈について、厳格な基準を示しました。これは、個人が投稿するインターネット上のコンテンツが報道目的で利用される場合でも、単に「時事の事件」に関連すると主張するだけでは不十分であり、明確なニュース性や報道目的が認められなければ、著作権の侵害として認められる可能性が高いことを示しています。

また、SNSの利用に関しても、利用者が自身のコンテンツを限定公開している場合、そのコンテンツが第三者によって無断で利用されることが許されないという点も重要です。これは、SNSでのプライバシー設定が利用者の権利保護に直結することを示すものであり、個人情報の保護に対する認識を高める契機となるでしょう。

まとめ

今回の判決は、インターネット上での著作権保護の重要性を再確認させるものであり、特にSNS利用者にとっては、自身のコンテンツがどのように取り扱われるべきかを考えるうえでの参考となります。コンテンツの利用に関しては、利用者自身がどの範囲で公開するかを明確にし、第三者がそのコンテンツを利用する際のルールを理解しておくことが重要です。本件の判決は、今後のインターネット上でのコンテンツ利用に関する判例として、広く参照されることが期待されます。

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弁護士 大熊 裕司
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