
1. はじめに
プロのカメラマンが、ヘアドレッサーのスタイリングしたモデルを撮影します。そこにはモデル、スタイリスト、カメラマン、そして撮影を依頼した出版社と、複数のクリエイティブが関わっています。では、その一枚の写真の「著作者」は誰なのか。髪を作り込んだヘアドレッサーは共同著作者として権利を主張できるのか。そして、コンテストの主催者が応募規約によって得る「掲載権」は、第三者による無断転載に対しどこまで及ぶのか。
本稿で取り上げる東京地判平成27年12月9日(平成27年(ワ)第14747号)──通称「ヘアスタイルコンテスト写真事件」は、美容業界という具体的な文脈を素材に、写真の著作物性・著作者の認定・コンテスト応募規約の権利処理といった、実務家が日常的に直面する論点に正面から回答を示した裁判例です。著作権判例百選にも掲載される基本判例であり、ファッション、広告、ブライダル、ウェブメディア等、およそ「スタイリングされた被写体」を撮影するあらゆる業界に射程が及びます。

2. 前提知識
2.1 写真の著作物性
著作権法10条1項8号は「写真の著作物」を例示するが、すべての写真が当然に著作物となるわけではありません。カメラのシャッターを押せば写真は成立するが、著作権法で保護されるのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)に限られます。
写真の創作性は、伝統的に(1) 被写体の選択・配置・組み合わせ、(2) 構図・カメラアングル、(3) シャッターチャンス・シャッタースピード、(4) 露光・光線・陰影、(5) 背景の設定、(6) 現像・レタッチ等における撮影者の工夫といった諸要素に現れるとされる(東京高判平成13年6月21日「西瓜写真事件」等)。
もっとも、被写体自体が別個の著作物(絵画、彫刻等)である場合には、被写体に存在する創作性とは別個に、撮影者による創作性が写真に現れているかが改めて問われます。いわゆる「複写」に近い忠実再現型の写真は、被写体の創作性を借用しているに過ぎず、写真自体の著作物性は否定されやすい(東京地判平成10年11月30日「版画写真事件」参照)。
2.2 共同著作物と単独著作物
著作権法2条1項12号は、共同著作物を「2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」と定義します。共同著作物の成立には、(1) 複数人が共同して創作に関与したこと、(2) 各人の寄与が分離不可能であること、(3) 創作意思の共同があることが必要とされます。
他方、ある者が「素材」や「環境」を提供したにすぎない場合──例えば、料理人が料理を作り、カメラマンがそれを撮影するような場合──には、料理人は料理という別の著作物の著作者たりえても、写真の共同著作者にはならないのが通例です。創作意思が写真の創作そのものに向けられているかが鍵となります。
2.3 応募規約と権利処理
コンテストに作品を応募する際、主催者は応募規約(応募要項)によって権利処理を行うのが一般的です。典型的な条項としては、(1) 著作権の主催者への譲渡、(2) 利用許諾(独占・非独占)、(3) 二次利用の可否、(4) 著作者人格権の不行使特約などがあります。
もっとも、応募規約によって応募者から主催者に移転するのは応募者が保有する権利に限られます。応募者が写真の著作権者でなく、単に被写体となっただけであれば、写真の著作権は応募規約では動きません。この点、ヘアドレッサーがコンテストに「ヘアスタイル作品」として応募する場合、ヘアスタイルそのものに著作物性が認められるかは別論として、ヘアドレッサーが写真の著作権を原始取得しているわけではないため、応募規約の効力は写真の著作権には直接及びません。
2.4 職務著作(著作権法15条)
法人等の発意に基づき、法人等の業務に従事する者が職務上作成した著作物で、法人等の名義の下に公表されるものの著作者は、作成時の契約・就業規則に別段の定めがない限り、法人等となる(同条1項)。フリーランスのカメラマンが出版社の依頼で撮影した写真は、原則として職務著作に当たりません。著作権を出版社に帰属させたいなら、明示の著作権譲渡契約が必要です。
3. 事案の概要
3.1 当事者
- 原告X:美容専門雑誌を発行する出版社。カメラマンAから本件写真の著作権を譲り受けたとして著作権を行使。
- カメラマンA(訴外):本件各写真を撮影した職業写真家。
- ヘアドレッサーB(訴外):被写体となったモデルのヘアスタイルをスタイリングした美容師。Japan Hairdressing Awards(JHA、ジャパン・ヘア・ドレッシング・アワーズ)にノミネートされた作品の作り手。
- 被告Y:同じく美容業界向け雑誌を発行する別の出版社。原告とは競合関係にあり、JHAの協賛・運営にも関与していましました。
3.2 事実経過
(1) カメラマンAは、独特のヘアスタイル、化粧、衣装を施し所定のポーズをとったモデルを撮影した複数の写真(以下「本件写真」)を制作しました。髪のスタイリングはヘアドレッサーBが担当しました。
(2) 原告Xは、カメラマンAから本件写真の著作権の譲渡を受け、自社発行の美容専門雑誌に本件写真を掲載して出版しました。
(3) 本件写真に写されたヘアスタイルは、Japan Hairdressing Awardsのコンテストにおけるノミネート作品でもありました。
(4) 被告Yは、原告Xおよびカメラマンの許諾を得ることなく、自社発行の雑誌上で「JHA速報!最終ノミネート作品完全掲載」といった趣旨の特集を組み、本件写真を含むノミネート作品写真を多数掲載しました。
(5) 原告Xは、被告Yに対し、本件写真の著作権(複製権・公衆送信権等)侵害を理由として、損害賠償等を請求しました。
3.3 被告の主な反論
被告側は、おおむね次のように争った。
- 著作物性の否定:本件写真はヘアスタイル作品を記録した複写的写真に過ぎず、写真そのものに独自の創作性はありません。
- 共同著作物性の主張:仮に著作物性があるとしても、独特のヘアスタイル・化粧・衣装・ポーズはヘアドレッサーBらの創作によるものであり、本件写真はカメラマンAとB等の共同著作物であって、カメラマンA単独の著作物ではありません。したがってX単独では著作権を適法に譲り受けられていません。
- コンテスト応募による権利処理:ヘアドレッサーBらがコンテストに応募した時点で、応募規約により主催者・共催者に対する掲載許諾がなされており、被告Yもその一環として写真を掲載したにすぎません。
4. 争点
本件の主要な争点は次の三点に整理できます。
争点① 本件写真に写真の著作物としての創作性が認められるか(著作物性)。
争点② 認められるとして、その著作者はカメラマンA単独か、それともヘアドレッサーB等を含む共同著作物か(著作者の認定)。
争点③ 仮にカメラマンA単独の著作物であるとして、コンテスト応募規約その他の事情により、被告Yによる掲載が適法化される余地はあるか(利用権原の有無)。
5. 裁判所の判断
5.1 写真の著作物性(争点①)──肯定
裁判所は、本件写真の著作物性を肯定しました。判旨の核心は、本件写真は単なる「作品の記録」ではなく、カメラマンによる創作的表現が現れた独立の写真の著作物であるという認定です。
具体的には、裁判所は次のような要素を総合し、創作性の存在を認めた。
- 被写体(モデル、ヘアスタイル、化粧、衣装、アクセサリー、背景小物等)の組み合わせと配置
- 構図およびカメラアングル(正面・斜め・俯瞰等の選択、フレーミング)
- ライティング(光源の位置、光量、陰影の付け方、色温度)
- 背景の設定および選択(無地背景・ホリゾント・スタジオセット等)
- 被写体の表情・目線・ポーズを引き出すシャッターチャンスの捕捉
- 現像・プリントにおける仕上げ
裁判所は、これらが総合されて、単なる「被写体の忠実な再現」を超える、カメラマン独自の美的表現が成立していると判断しました。
5.2 著作者の認定(争点②)──カメラマン単独
本件で最も注目されたのがこの論点です。裁判所は、本件写真はカメラマンA単独の著作物であり、ヘアドレッサーBらは共同著作者に当たらないと判断しました。
その論理は概ね以下のようなものです。
- 著作権法上の「著作者」とは、著作物を創作した者、すなわち当該著作物の創作的表現に具体的に寄与した者をいいます。
- ヘアドレッサーBらのスタイリング、化粧、衣装、モデルのポーズ等は、本件写真の被写体を構成する要素であるが、それらは写真という「作品」の創作的表現そのものを生み出した行為ではありません。
- 本件写真における創作性は、前述の構図・光線・アングル等、撮影行為そのものに内在する選択と工夫に現れており、これらはカメラマンAが担当しました。
- ヘアドレッサー等が被写体の美的完成度に寄与したことと、写真という著作物の創作に関与したこととは、著作権法上、別個の問題です。
裁判所は、ヘアスタイル・化粧・衣装それ自体について、別途何らかの著作物として成立する余地があるかについてはあえて否定せず、仮にそれらが別個の著作物たりうるとしても、それは写真の著作物とは別個独立のものであって、写真の共同著作者性を基礎づけるものではないと整理しました。この判断枠組みは極めて明快です。
その帰結として、カメラマンAから単独で著作権譲渡を受けた原告Xは、写真の著作権を適法に取得していたと認定されました。
5.3 コンテスト応募規約の効力(争点③)──否定
裁判所は、ヘアドレッサーBらがJHAに作品を応募したという事情は、被告Yによる本件写真の掲載を適法化しないと判断しました。
その理由は以下の構造となります。
- 仮にJHAの応募規約によって、応募者(ヘアドレッサー)から主催者等に何らかの権利が付与されていたとしても、応募者が主催者に付与できるのは、応募者が有する権利の範囲に限られます。
- 本件写真の著作権はカメラマンA(そして譲渡を受けた原告X)に帰属しており、ヘアドレッサーBは本件写真の著作権者ではありません。
- したがって、応募規約を根拠に写真の掲載が許諾されたということはできません。
また被告Yが主催団体の共催者的立場にあったとしても、写真の著作権者から直接の許諾を得ない以上、複製・公衆送信等の利用は侵害となる、と整理されました。
5.4 結論
以上より、裁判所は被告Yの侵害を認め、原告Xの損害賠償請求を認容した(具体的金額については本稿では省略するが、著作権法114条3項(使用料相当額)等に基づく算定がなされている)。
6. 射程と実務示唆
6.1 「被写体の創作」と「写真の創作」の峻別
本判決の最大のインパクトは、被写体を魅力的にスタイリングする行為と、写真という著作物を創作する行為とを、著作権法上明確に区別した点にあります。ヘアメイク、スタイリスト、装花、料理人、建築家──どれほど被写体の完成度に寄与したとしても、それは被写体の著作物性(成立するとして)の問題であり、写真の著作者たる地位を直ちに基礎づけるものではありません。
実務的には、広告写真・商品撮影・ファッションエディトリアル等において、スタイリスト等が写真の共同著作者性を主張する余地は極めて限定的であることが確認されました。裁判例の蓄積に照らせば、スタイリスト側が「写真の著作権」に関与を主張するためには、撮影そのものに対する指示・指揮・選択権限を具体的に行使した等、撮影行為への創作的関与を立証する必要があります。
6.2 コンテスト応募規約設計の指針
コンテスト主催者にとっての実務上の教訓は明確です。応募者から写真の利用許諾を得るだけでは足りず、写真の著作権者(カメラマンあるいはその譲渡先)から直接の許諾を取得する必要があります。
応募規約を起草する際の実務的な工夫としては、
- 応募作品がプロのカメラマンにより撮影されたものである場合、応募者(例:ヘアドレッサー)に対し、撮影者からの利用許諾取得を応募条件とします。
- 応募者に「自らが撮影者から適法に利用権限を取得していること」の表明保証を求めます。
- 主催者が独自に撮影を手配する仕組みとし、撮影者と主催者との間で直接の著作権譲渡契約または利用許諾契約を締結します。
といった選択肢があります。特に、コンテストの結果を主催者・共催者・スポンサー媒体等が広く掲載することを予定するなら、撮影者からの許諾取得が必須であり、応募者経由のワンストップ処理で済ませるリスクは高いです。
6.3 フリーランスカメラマンの権利保全
カメラマン側から見れば、本件は単独著作者性が争いなく認められる強い立場を確認した判例です。出版社・クライアント等から撮影の発注を受ける際、契約書で「著作権の帰属」「著作者人格権の取扱い」「利用範囲」を明記しておけば、後日のトラブルを回避できます。逆に、出版社側は職務著作が成立しない以上、著作権譲渡契約を明示的に締結しなければ著作権を取得できない点に留意が必要です。
6.4 ファッション・美容業界における著作権管理
美容、ファッション、ネイル、ブライダル等の業界では、複数のクリエイターが一つのビジュアルを共同で作り上げるプロジェクト型の制作が日常的です。本判決は、そうした制作物のうち「写真」というアウトプットについて、著作者は撮影者であるという原則を確認しました。逆に言えば、ヘアスタイル・メイク・衣装といった非写真的要素それ自体の著作物性や、これらに係る権利処理は、本判決ではあえて正面から判断されていません。実務では、各クリエイターの寄与について個別に権利処理条項を整備することが、紛争予防の観点から重要です。
6.5 SNS・ウェブメディアでの無断転載への示唆
近年、雑誌記事のスクリーンショットやノミネート作品画像がSNS上で無断転載される事例は後を絶ちません。本判決の射程は紙媒体に限られず、ウェブメディア・SNS上での複製・公衆送信にも当然に及ぶ(著作権法21条、23条)。掲載側は、写真ごとに真の著作権者を特定し、直接の許諾を得るという基本を徹底する必要があります。
7. まとめ
ヘアスタイルコンテスト写真事件は、一見「ありふれた」業界内紛争のように見えて、写真の著作物性、著作者の認定、応募規約の権利処理範囲という三つの基本論点に明快な回答を与えた重要判例です。
- 写真の創作性は、被写体そのものの魅力ではなく、撮影における選択と工夫に宿ります。
- 被写体のスタイリストは、原則として写真の共同著作者にはなりません。
- コンテスト応募規約は、応募者が有する権利を超えて第三者の権利に影響を及ぼしません。
これらの命題は、クリエイティブ産業の契約実務・紛争予防に今も生き続けています。写真を扱うあらゆる業種にとって、押さえておくべき基本判例です。
8. 出典
- 東京地判平成27年12月9日 平成27年(ワ)第14747号 著作権侵害差止等請求事件
- 著作権法2条1項1号・12号、10条1項8号、15条、21条、23条、114条3項
- 著作権判例百選〔第6版〕所収
- 関連判例:東京高判平成13年6月21日(西瓜写真事件)、東京地判平成10年11月30日(版画写真事件)、東京地判平成25年7月19日(ファッションショー事件)等
免責事項
本記事は、公開されている判決情報および一般的な著作権法の知識に基づき、著者が独自に執筆した解説記事です。個別具体的な事案の法的判断を目的とするものではなく、法律意見・法的助言を提供するものではありません。実際の紛争対応・契約実務においては、必ず弁護士その他の専門家にご相談ください。また、本記事の内容の正確性・完全性については最大限留意しておりますが、裁判例の解釈や法令の改正等により、記載内容と現状が一致しない場合があります。本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、著者は責任を負いかねます。
掲載:chosakukenhou.jp
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