著作権に関連する裁判の判例である「江差追分事件(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決)」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。
本件は言語の著作物についてどのような場合に翻案の侵害にあたるのかが判事された事件です。
X(原告・被控訴人・被上告人)は、ノンフィクションである「北の波濤に唄う」(以下、「本件書籍」とする。)と題する書籍の著作者で、Yら(被告・控訴人・上告人)は、「ほっかいどうスペシャル・遙かなるユーラシアの歌声_江差追分のルーツを求めて_」と題するテレビ番組(以下「本件番組」という。)を製作し,平成2年10月18日,放送しました。XはYらの製作した本件番組が本件書籍の翻案権及び放送権、著作者人格権(氏名表示権)ならびに名誉を侵害したとして、Yらを訴え、損害賠償等を求めました。
最高裁判所は本判決の要旨の中で、言語の著作物の翻案(第27条)について以下のように述べています。
【要旨1】 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),
【要旨2】 既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である。
最高裁は、Yらの行為は、翻案権,放送権及び氏名表示権を侵害するものとはいえないとしてXの請求を棄却しました。