
【この記事の3行まとめ】
- 屋外に恒常的に設置された彫刻などの美術の著作物と、建築の著作物は、方法を問わず原則自由に利用できます(著作権法46条)。写真撮影・SNS投稿・出版物への掲載も基本OKです
- ただし4つの例外があります。特に「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的とする複製・販売」(4号)――絵はがきやグッズ化――はできません
- 「ラッピングバスの絵」のように動くものでも「恒常的に設置」にあたるとしたはたらくじどうしゃ事件(東京地判平成13年7月25日)が実務の重要な参考になります
はじめに――街の風景には著作物があふれている
駅前の銅像、公園のモニュメント、壁画、個性的なデザインのビル――街を歩けば、あちこちに「美術の著作物」「建築の著作物」があります。観光写真を撮ってSNSに上げる、雑誌やガイドブックに街の風景を載せる、YouTubeの動画に映り込む。こうした行為は、いちいち著作権者の許諾を取らなければ違法なのでしょうか。
そんなことになれば、誰も安心して街の写真一枚撮れません。そこで著作権法46条は、屋外に恒常的に設置された美術の著作物と建築の著作物は、一定の例外を除き自由に利用できると定めています。
この記事では、46条のしくみと4つの例外、そして「バスの車体に描かれた絵」という動く美術が問題になったはたらくじどうしゃ事件(東京地判平成13年7月25日・平成13年(ワ)第56号、判時1758号137頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)をわかりやすく解説します。
前提知識――46条のしくみ
条文の構造
著作権法46条は次のように定めています。
美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
対象は、①原作品が屋外の場所に恒常的に設置されている美術の著作物と、②建築の著作物です。「屋外の場所」とは、街路・公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所、または建造物の外壁など一般公衆の見やすい屋外の場所をいいます(45条2項)。
「いずれの方法によるかを問わず」なので、写真撮影・録画・放送・出版物への掲載・インターネット配信など、利用方法は原則自由です。
なぜ自由利用が認められるのか――45条2項とのバランス
このルールの背景には、設置の場面でのコントロールがあります。美術の原作品の所有者は、原則として著作権者の許諾なく作品を公に展示できますが(45条1項)、屋外の場所に恒常的に設置する場合には著作権者の許諾が必要です(45条2項)。屋外に恒常設置されると46条による広範な自由利用が始まり、著作権者の不利益が大きいため、その入口で著作権者に判断の機会を与えているのです(中山信弘『著作権法〔第4版〕』471〜473頁参照)。
つまり、「屋外に置くかどうかは著作権者がコントロールできる。置くことを認めた以上は、公衆の自由利用を受け入れる」という制度設計です。46条の対象が「原作品」に限定されているのも、複製物には展示権が及ばず設置をコントロールできないためです。
対象にならないもの
46条が挙げるのは美術の著作物と建築の著作物だけです。屋外にあっても、たとえば石碑に刻まれた俳句や詩(言語の著作物)などには46条は適用されません。
4つの例外――これをやってはいけない
46条各号は、著作権者の利益を大きく害する次の4つの利用を自由利用から除外しています。
- 彫刻の増製・その譲渡(1号):彫刻を彫刻として作り直して販売するような行為
- 建築の著作物を建築により複製・その譲渡(2号):同じ建物をもう一棟建てる行為
- 屋外に恒常設置するための複製(3号):別の場所に恒常設置する目的でのコピー
- 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的とした複製・販売(4号):絵はがき・ポスター・置物などのグッズ化
実務で最も問題になるのは4号です。街の彫刻を写真に撮ってSNSに載せるのは自由でも、その彫刻をメインにした絵はがきやカレンダー、フィギュアを作って売るのはアウト、という線引きです。ポイントは「専ら」の語で、複製物の販売を主目的とするかどうかが問われます。

はたらくじどうしゃ事件――「動くバスの絵」は恒常的設置か
事案の概要
画家である原告は、横浜市交通局の依頼で、市営バスの車体に絵を描きました。このバスは市内の循環路線を走行していました。被告の出版社は、働く自動車を紹介する幼児向け絵本「まちをはしる はたらくじどうしゃ」に、この絵が描かれたバスの写真を掲載して出版しました。原告が複製権侵害等を主張して損害賠償を求めたのが本件です。
争点――走り回るバスは「屋外に恒常的に設置」といえるのか
46条の自由利用が認められるには、原作品が「屋外の場所に恒常的に設置」されている必要があります。バスは市内を走り回り、夜は車庫に保管されます。「設置」といえるのかが最大の争点になりました。
裁判所の判断――46条の適用を肯定し、請求棄却
東京地裁は、「恒常的に設置する」とは、社会通念上、ある程度の長期にわたり継続して、不特定多数の者の観覧に供する状態に置くことを指すと解釈しました。そのうえで、路線バスは昼間は市内を走行して不特定多数の人の目に触れ続けることから、車庫保管の時間があっても恒常的設置にあたるとして、46条の適用を認めました(中山・前掲472頁参照)。
また、幼児向け絵本への写真掲載が4号の「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合」にあたるかについても、本件絵本は様々な自動車を紹介する書籍であり、絵画の複製物の販売を専らの目的とするものではないとして、4号該当性を否定。結論として原告の請求は棄却されました(中山・前掲476頁参照)。
この判決からわかること
- 「設置」は固定されている必要はなく、継続的に公衆の目に触れる状態であれば足りる(ラッピングバス・ラッピング電車にも射程が及び得ます)
- 4号の「専ら」は限定的に解釈され、書籍・雑誌・映像作品の一部として掲載する行為は広く自由利用に含まれる
実務への影響――やってよいこと・注意すべきこと
原則OKの例
- 街の彫刻・壁画・建築物の写真撮影、SNS・ブログへの投稿
- 観光ガイド・雑誌・書籍・テレビ番組・動画への風景としての掲載
- 屋外彫刻が写り込んだ商品広告写真(メインが商品である場合)
注意が必要な例
- 彫刻・壁画をメインにしたポストカード・カレンダー・グッズの販売(4号に該当し得る)
- 屋外作品を別の場所に恒常設置する目的での再製(3号)
- 建築デザインの模倣建築(2号)
- 屋内に展示されている美術品の撮影・利用(46条の対象外。美術館の撮影ルールや所有者の施設管理権にも注意)
- 石碑の詩・俳句など言語の著作物の転載(46条の対象外)
なお、写真や動画に他人の著作物が付随的に写り込む場合には、写り込みに関する権利制限規定(30条の2)が別途用意されており、46条の対象外の著作物でも軽微な写り込みであれば適法となる場合があります。

よくある質問(FAQ)
Q1. 有名な建築物を撮影してSNSやYouTubeに載せてもよいですか?
A. 建築の著作物は46条により方法を問わず利用できるのが原則で、撮影・投稿は自由です。例外は「建築により複製する」(そっくりな建物を建てる)場合などに限られます。ただし、敷地内での撮影ルールなど施設管理権に基づく制限には別途従う必要があります。
Q2. 公園の彫刻の写真を絵はがきにして売りたいのですが。
A. 彫刻をメインの被写体とした絵はがきの販売は、46条4号の「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合」に該当する可能性が高く、著作権者の許諾が必要と考えるべきです。
Q3. ラッピング電車・ラッピングバスのデザインは撮影して使えますか?
A. はたらくじどうしゃ事件は、路線バスの車体絵画について「恒常的に設置」にあたるとして46条の適用を認めました。継続的に公衆の目に触れる交通機関のラッピングは同様に考えられる可能性が高いですが、グッズ化(4号)は別問題です。
Q4. 屋外の石碑に刻まれた詩を自分のサイトに掲載してもよいですか?
A. 詩は言語の著作物であり、46条の対象(美術・建築)ではありません。保護期間内であれば、引用(32条)の要件を満たす場合を除き、著作権者の許諾が必要です。
Q5. 個人の家の外観が特徴的なので、写真集に載せたいのですが。
A. 通常の住宅は「建築の著作物」にあたらないことが多く、著作権の問題は生じにくいですが、仮に著作物性のある建築でも46条により掲載自体は原則自由です。むしろプライバシーや住居の特定によるトラブルへの配慮が実務上は重要です。
まとめ
- 著作権法46条により、屋外に恒常設置された美術の著作物と建築の著作物は原則自由に利用できる
- 例外は4つ。実務上重要なのは「専ら複製物の販売を目的とする複製・販売」(4号)=グッズ化の禁止
- はたらくじどうしゃ事件は、走行するバスの車体絵画も「恒常的に設置」にあたるとし、書籍への写真掲載を適法とした
- 45条2項(屋外恒常設置には著作権者の許諾が必要)とセットで、「入口で著作権者がコントロールし、設置後は公衆が自由利用」という制度設計を理解しておくと判断を誤りません
街の風景の利用は原則自由――ただしグッズ化と対象外の著作物(詩・屋内美術品)には要注意、が実務の勘所です。判断に迷う企画がある場合は、事前に弁護士にご相談ください。
出典・参考文献
- 東京地判平成13年7月25日・平成13年(ワ)第56号(判時1758号137頁)〔はたらくじどうしゃ事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 中山信弘『著作権法〔第4版〕』(有斐閣、2024年)470〜476頁
- 著作権法25条、30条の2、32条、45条、46条(条文はe-Gov法令検索の現行法で照合)
免責事項
本記事は、裁判所ウェブサイトで公開されている判決情報および一般的な法律情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の対応にあたっては、必ず弁護士にご相談ください。
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