著作権に関連する裁判の判例である「三島由紀夫手紙公表事件(東京高裁平成12年5月23日判決)」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。
この事件は、「潮騒」や「金閣寺」で有名な日本の小説家である三島由紀夫の死後に起こった事件で、被告Y1は「三島由紀夫‐剣と寒紅」(以下本件書籍とする。)の出版社、被告Y2は本件書籍の出版社の第一出版局長であり、被告Y3は本件書籍の執筆者にあたります。原告・被控訴人であるXらは三島由紀夫の相続人です。
被告Y3は三島由紀夫がY3宛に書いた未公表の手紙15通を本件書籍に掲載しました。
Xらはこれに対して1.Xらが相続した複製権の侵害である旨、2.三島由紀夫が生存していたのであれば公表権侵害にあたる行為であることを主張して本件書籍等の出版等の差止め、損害賠償請求、謝罪広告等をもとめた事件です。Yらは本件各手紙は著作物とは言えない、また本件各手紙の公表は三島由紀夫氏の意を害するものではないと主張しました。
第1審では、著作物性を肯定し、複製権侵害、三島由紀夫氏が生存しているとしたならばその公表権の侵害となるべき行為であるとして損害賠償及びに名誉回復措置の請求を認容しました。Y1らはこれを不服として控訴しました。
本判決では、手紙の著作物性について、「本件各手紙(本件書籍(甲第一二号証)中の掲載頁は、原判決七、八頁に記載されたとおりである。)を読めば、これが、単なる時候のあいさつ等の日常の通信文の範囲にとどまるものではなく、三島由紀夫の思想又は感情を創作的に表現した文章であることを認識することは、通常人にとって容易であることが明らかである。また、控訴人らが本件各手紙を読むことができたことも明らかである。
そうである以上、控訴人らは、本件各手紙の著作物性を認識することが容易にできたものというべきである。」として著作物性を肯定しました。
また、本件各手紙の公表が、三島由紀夫氏が生存しているとしたならばその公表権の侵害となるべき行為であるか否かについては「本件各手紙が、もともと私信であって公表を予期しないで書かれたものであることに照らせば(例えば、本件手紙⑮には、『貴兄が小生から、かういふ警告を受けたといふことは極秘にして下さい。』との記載がある。
右のような記載は、少なくとも書かれた当時は公表を予期しない私信であるからこそ書かれたことが明らかである。)、控訴人ら主張に係るその余の事情を考慮しても、本件各手紙の公表が三島由紀夫の意を害しないものと認めることはできない。」として被告の主張を退けました。