ネット小説の盗作主張はなぜ退けられたのか――SBクリエイティブ刊行小説への依拠性を否定した知財高裁判決(令和8年6月29日・令和8年(ネ)第10024号)

この記事のポイント

  • 結論は請求棄却(控訴棄却)。 裁判所は、被告小説がネット公開された作品に依拠することなく創作されたと認定しており、SBクリエイティブ側に盗作があったと認定された事案ではありません
  • 著作権侵害には「依拠性」(元の作品を材料にしたこと)と「表現の同一性」の両方が必要で、どちらか一方でも欠ければ侵害にならない
  • 「新人賞の応募期間中に自分もネットで公開していた」という事情だけでは、相手が自作を見て書いたことの立証にはならず、ストーリー展開・情景描写・キャラクター設定は、複数を束ねても具体的表現にはならないとされた

はじめに

小説投稿サイトで作品を公開している方から、「後から出版された本が自分の作品によく似ている」というご相談を受けることがあります。ご本人にとって「似ている」という感覚は切実なものですが、裁判ではその感覚をそのまま主張しても通りません。何が似ているのかと、相手がそれを見て書いたといえるのかという、性質の違う二つの事柄を、それぞれ証拠で示す必要があるからです。
本記事で取り上げるのは、知的財産高等裁判所第2部 令和8年(2026年)6月29日判決・令和8年(ネ)第10024号 著作物無断使用禁止等請求控訴事件判決文PDF・裁判所ウェブサイト。以下「本判決」といいます)です。
自作の小説をインターネット上で公開していた個人(控訴人・原審原告。判決文では符号Aで表記されています)が、出版社であるSBクリエイティブ株式会社(被控訴人・原審被告。以下「SBクリエイティブ」といいます。本記事の図では判決文の表記に合わせ「被控訴人(原審被告)」「被告小説」と記載しています)の刊行した小説について、著作権(複製権・翻案権・譲渡権)と著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)を侵害すると主張し、名誉回復のための措置として謝罪広告の掲載を求めた事案です。
結論から申し上げると、この盗作の主張は一審・控訴審とも認められていません。 一審の東京地方裁判所は請求を棄却し、控訴審も控訴を棄却しました。控訴審は、SBクリエイティブが刊行した小説は控訴人の作品を含む他の作品に依拠することなく創作されたと認定しています。すなわち本件は、盗作の事実が認定された事案ではなく、盗作の主張が退けられた事案です。
以下では、①依拠性という要件が実際にどこでつまずくのか、②「ストーリー展開やキャラクター設定が似ている」という主張がなぜ通りにくいのかを、判決文の記載に沿って整理します。
図1 当事者と請求の関係
▲ 図1 当事者と請求の関係

1 前提知識の整理――著作権侵害は「二階建て」で考える

著作権法は、著作物を無断でコピーすること(複製。2条15号)と、元の作品の特徴を残しながら手を加えて別の作品を作ること(翻案。27条)を著作権者の権利として押さえています。本判決が適用条文として挙げているのも、この2条15号と27条です。

(1)第一の階――依拠性

依拠性とは、ごく平たくいえば「元の作品を材料として使ったこと」です。最高裁は、旧著作権法下の事件である最判昭和53年9月7日(いわゆるワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件。判決文PDF・裁判所ウェブサイト)で、次のように述べています。

ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はない

つまり、結果として似た作品ができても、独立に作られたのであれば侵害の問題は生じません。ここが「第一の階」です。依拠性は相手の頭の中の事情ですから直接の証拠は乏しく、実務では、元作品に触れる機会があったか(アクセス可能性)、偶然では説明しにくい一致があるか、といった間接事実を積み上げて推認していくことになります。

(2)第二の階――表現の同一性

依拠性が認められても、それだけでは侵害になりません。似ている部分が「表現」といえるものでなければならない、という関門があります。最判平成13年6月28日(江差追分事件。判決文PDF・裁判所ウェブサイト)は、翻案について次のように定義しました。

言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。

そのうえで、同判決は次のようにも述べています。

既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらない

これがアイデア・表現二分論と呼ばれる考え方です。着想・設定・題材のレベルで共通していても、それは「表現それ自体でない部分」の共通にすぎません。表現の形をとっていても、誰が書いてもそうなるありふれた表現であれば、「表現上の創作性がない部分」として同じく除かれます。
なお本件で求められたのは金銭ではなく謝罪広告の掲載でした。謝罪広告は一般に著作権法115条の名誉回復措置として請求されますが、前提として侵害の成立が必要ですから、侵害が否定されればこの請求も認められません。
図2 著作権侵害(複製・翻案)の一般的な判断枠組み
▲ 図2 著作権侵害(複製・翻案)の一般的な判断枠組み(本判決が新たに定立した規範ではなく、従来の判例が示してきた枠組みの図解)

2 事案の概要

判決文から読み取れる事実関係は、次のとおりです(作品名・レーベル名・作者名は、判決文にいっさい記載されていません)。

  • 平成27年(2015年)頃、控訴人は、自作の小説群(判決文にいう「原告各小説」)に類似する作品のうち一つを、出版社の公募に応募した
  • SBクリエイティブの刊行した小説(判決文にいう「被告小説」)の原型は、出版より前に、SBクリエイティブが主催する「GA新人賞」に応募された作品である
  • 控訴人は、この新人賞の応募期間内に、インターネット上で自作を公開し、完結させていた
  • 平成29年(2017年)2月、被告小説が出版された

控訴人は、謝罪広告を求めて東京地方裁判所に提訴しました(原審・東京地方裁判所令和7年(ワ)第70088号)。原審は請求を棄却し、控訴人が控訴しています。控訴の趣旨は、「原判決を取り消す。」および「被控訴人は、被控訴人のウェブサイト及び被控訴人のXアカウントにおいて、原判決別紙1記載の広告を1回掲載せよ。」というものです。
図3 判決文から読み取れる経過
▲ 図3 判決文から読み取れる経過

3 争点

本判決は独自の争点番号を立てず、原判決の争点整理を引用する形をとっています。控訴審で実質的に審理されたのは、次の2点です。

  1. 依拠性の有無――被告小説が控訴人の作品に依拠して作られたといえるか
  2. 複製・翻案該当性――被告小説と控訴人の作品とが、表現上の同一性を有し、その同一性のある部分に創作性が認められるか

控訴人の主張は、判決文上、次のように摘示されています。

被告小説は、「原告作品と特定の原告作品と作品内の特定のキャラクター」というような一塊の内容について原告作品と類似し、表現上の創作性がある部分について原告作品と同一性を有する。

これに対するSBクリエイティブの反論は、次のとおりです(引用中の「被告」がSBクリエイティブを指します)。

被告及び被告小説の作者が原告作品等を盗作した事実はない。被告小説が出版された平成29年2月時点で、被告主催のGA新人賞に原告各小説が応募されていた事実はなく、被告及び被告小説の作者が、インターネット上の小説投稿サイトにおいて、原告作品が掲載されているのを認識していた事実もない。

原告各小説の具体的表現と被告小説のそれとでは、その多くが類似していないし、類似している部分についても、ありふれた表現にとどまる。また、ストーリー展開や、情景描写、アイデア、キャラクター設定はいずれも具体的表現とはいえず、これらが複数合わさったとしても、具体的表現となるものではない。

4 裁判所の判断

知的財産高等裁判所は、控訴人の当審における補充主張を検討したうえで、次のように述べて控訴を棄却しました(引用中の「被告小説」はSBクリエイティブが刊行した小説、「原告」は控訴人を指します)。

しかしながら、① 被告小説が、原告各小説を含む他の作品に依拠することなく創作されたこと、② 被告各記述と原告各記述は、記述の同一性がないものか、表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎないものか、又は、表現上の創作性を認めることができない部分において同一性を有するにすぎないものであり、被告各記述を含む被告小説を発行し販売することが、著作権法2条15号所定の「複製」にも、同法27条所定の「翻案」にも当たらないことは、原判決の説示するとおりであって、原告の主張を採用することはできない。

そして、「よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。」として、控訴棄却の結論を導いています(主文は「本件控訴を棄却する。」「控訴費用は控訴人の負担とする。」)。
なお本判決は、原判決の前提事実のうち、控訴人の主張を摘示した一箇所について文言を改めていますが、これは主張の摘示部分の補正であり、結論を左右するものではないとされています。

判断されていない部分に注意

本判決の判断は、①依拠性がないこと、②複製・翻案に当たらないことに集約されています。控訴人が根拠として挙げていた譲渡権や著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)について、控訴審が独立に当てはめを示した記載は判決文にありません。「人格権侵害も個別に否定された」と読むことはできず、複製・翻案に当たらないという判断のもとで請求全体が理由なしとされた、と理解するのが正確です。なお、本判決が確定しているかどうかは判決文からは分からず、本稿執筆時点で確定の有無は確認していません。

5 意義と射程

(1)依拠性は「同時期に存在していた」では足りない

本件で控訴人が持ち出した中心的な間接事実は、新人賞の応募期間中に自分もネットで作品を公開し完結させていたという事情でした。これは「相手が読もうと思えば読める状態にあった」ことを示しますが、裏を返せばそこ止まりです。小説投稿サイトには膨大な数の作品が公開されており、「公開されていた」という一事から「相手がそれを読んだ」に橋を架けることはできません。
依拠性の推認に必要なのは、相手が現に自作に接したことを窺わせる具体的な手がかりです。相手方のアカウントからの閲覧・反応の痕跡、作品が特定の場で相手方に届いたことを示す事情、偶然では説明しにくい特徴的な一致(固有名詞の綴りの癖、誤記の取り込みなど)が典型でしょう。本件ではSBクリエイティブ側が、出版時点で控訴人の作品が新人賞に応募されていた事実も、投稿サイトでの掲載を認識していた事実もないと具体的に否認しており、これを覆す積み上げが示されなかったことになります。
もっとも、依拠性を否定した具体的な理由づけは原判決の説示に委ねられ、控訴審判決自体には詳細な認定過程が書かれていません。本判決の射程を読むうえで留意が必要です。

(2)「一塊の内容として似ている」という主張の限界

もう一つの芯がアイデア・表現二分論です。控訴人は、個々の文章ではなく、作品と作品と作中の特定のキャラクターという一塊の内容として類似する、という組み立てをとりました。似ていると感じる読者の実感に最も近い主張の仕方といえます。これに対しSBクリエイティブは、ストーリー展開・情景描写・アイデア・キャラクター設定はいずれも具体的表現ではなく、それらが複数合わさっても具体的表現にはならないと反論し、裁判所は原判決の説示を維持する形でこの枠組みを容れました。アイデアの要素はいくつ足し合わせても表現にはならない――このロジックは、江差追分事件が示した規範の素直な適用です。同様の発想は、ゲーム画面の類否が争われた知財高判平成24年8月8日(釣りゲータウン2事件。判決文PDF・裁判所ウェブサイト)にも見られ、共通点がアイデアないし極めてありふれたものにとどまるとして侵害が否定されています。
もっとも、小説の筋書きや構成がおよそ保護されないわけではありません。エピソードの選択・配列や叙述の流れが具体的な表現として結実していれば、創作性が認められる余地はあります。分かれ目は、主張が抽象的な設定の一致にとどまるか、具体的な文章として対比できる形になっているかです。

6 実務へのポイント――「似ている」と感じたときに準備すべきもの

創作者側の立場から、争う前に整えておくべきものは次の4点です。
(1)具体的表現の対比表を作る。 「全体の雰囲気が似ている」ではなく、自作のこの一文と相手方作品のこの一文、という形で左右に並べます。この作業をすると、共通しているのは設定や筋書きだけで文章としては重ならない、というケースが少なくありません。
(2)公開時期の客観的記録を残す。 投稿日時、更新履歴、アーカイブサービスの保存記録など。ただし本件が示すとおり、これは「先に存在していた」ことの証明にはなっても、依拠性の証明そのものにはなりません。
(3)接触を窺わせる具体的事情を探す。 相手方が自作に触れたといえる痕跡(閲覧・反応の記録、同一の企画への参加、関係者を介した伝達経路など)を時系列で整理します。依拠性の主張は、この部分の厚みで決まります。
(4)公然と「盗作だ」と発信する前に検討する。 確たる裏付けのないままSNS等で特定の作品や作者を名指しして盗作と発信すれば、逆に名誉毀損・信用毀損の責任を問われるおそれがあります。
出版社・作家の側では、創作過程の記録が防御の中心になります。プロットや初稿の作成日時、改稿履歴、応募原稿の受付日など、独立して創作したことを裏づける資料の保管が、依拠性を否定する具体的な反論を可能にします。

7 まとめ

本判決は、ネット上で小説を公開していた個人が、SBクリエイティブの刊行した小説について述べた盗作の主張が、一審・控訴審とも退けられた事案です(繰り返しになりますが、盗作の事実が認定された事案ではありません)。読み取るべき点は二つあります。第一に、依拠性は「同じ頃にネット上に存在していた」だけでは立ちません。相手が現に自作に接したことを窺わせる具体的な事情が要ります。第二に、ストーリー展開・情景描写・キャラクター設定といった要素は、それ自体が具体的表現ではなく、複数を束ねても具体的表現にはならないという枠組みが、ここでも維持されました。「似ている」と感じたときにまずすべきなのは、感覚を言葉にすることではなく、具体的な文章のレベルまで降りて対比すること――本判決は、そのことを改めて示しています。

出典・参考判例

  • 知的財産高等裁判所第2部 令和8年6月29日判決・令和8年(ネ)第10024号 著作物無断使用禁止等請求控訴事件(控訴人A/被控訴人SBクリエイティブ株式会社。控訴棄却。原審・東京地方裁判所令和7年(ワ)第70088号・請求棄却)/判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 最高裁判所第一小法廷 昭和53年9月7日判決(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件)判時906号38頁/判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 最高裁判所第一小法廷 平成13年6月28日判決(江差追分事件)民集55巻4号837頁/判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 知的財産高等裁判所 平成24年8月8日判決・平成24年(ネ)第10027号(釣りゲータウン2事件)/判決文PDF・裁判所ウェブサイト

参考文献

  • 中山信弘『著作権法〔第4版〕』(有斐閣・2024)184〜185頁、224〜228頁、735〜739頁、744〜747頁

ご自身の作品と似た作品が公表された、あるいは逆に盗作であるとの指摘を受けたという場面では、まず「どこがどう似ているのか」を具体的な表現のレベルで整理し、あわせて依拠性を基礎づける(または否定する)事情を洗い出すことが出発点になります。当事務所は著作権をはじめとする知的財産の紛争を取り扱っており、投稿サイト上の作品をめぐるご相談にも対応しています。判断に迷われた段階で、資料をお持ちのうえご相談ください。
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の紛争の見通しは事案ごとの事実関係と証拠により異なります。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

お問い合わせはこちらから|虎ノ門法律特許事務所

著作権・知的財産のトラブルでお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
初回のご相談では、事案の概要をお伺いし、今後の見通しと対応方針をご説明いたします。

お問い合わせ・ご相談はこちら

TEL: 03-6205-7455(平日対応)

お問い合わせはこちらから|虎ノ門法律特許事務所

大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
著作権、肖像権、パブリシティ権、プライバシー権について、トラブル解決のお手伝いを承っております。音楽・映画・動画・書籍・プログラムなど、様々な版権・著作物に精通した弁護士が担当しておりますのでお気軽にお問合せください。

LINEでのお問合せ

LINEでのご相談も承っております。(無料相談は行っておりません) LINEでのお問い合せ

お電話でのお問合せ

電話対応時間 平日 午前9時~午後9時、土日祝 午前9時〜午後6時 虎ノ門法律特許事務所 電話

メールでのお問合せ

メールでのお問い合せ

費用

相談料

法律相談料は、1時間11,000円(税込)、のち30分ごとに5,500円(税込)です。  

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

おすすめの記事