
はじめに
キャラクターや映像作品のライセンス契約には、期間を定めないまま結ばれ、何十年も生き続けているものがあります。署名した当人が亡くなり、承継した会社同士が海外で争うようになったとき、その契約はいつまで拘束力を持つのでしょうか。
本記事で取り上げるのは、東京地方裁判所民事第47部 令和8年(2026年)5月14日判決・令和6年(ワ)第70067号 利用権不存在確認請求事件(判決文PDF・裁判所ウェブサイト)です。昭和51年(1976年)に「日本を除く全世界」・期間の定めなしという条件で締結されたウルトラマン作品の独占的利用許諾契約が、締結から約38年後の解約通知によって終了したと判断されました。
原告は株式会社円谷プロダクション(以下「円谷プロダクション」といいます)、被告はユーエム株式会社(以下「ユーエム社」といいます)です。円谷プロダクションが、ユーエム社は本件各作品について日本以外の国における利用権を有しないことの確認を求めた事案であり、裁判所は円谷プロダクションの請求を認容しました。金銭の請求は含まれていません。
なお、本記事に掲げる判決文の引用および図中の「原告」は円谷プロダクションを、「被告」はユーエム社を指します。判決文が符号で表記している個人(故A・故B・故C)については、実名も死去の時期も判決文が明らかにしていないため、本記事でも符号のまま記載します。
以下では、①期間の定めのない継続的ライセンス契約はどのような場合に解約できるのか、②各国で判断が食い違う状況で日本の確認判決を求める利益はあるのか、③対価の代わりに権利を渡すという経緯で結ばれた契約はどう性質決定されるのか、の3点を判決文に即して整理します。

▲ 図1 当事者の関係と権利の流れ(図中の「原告」=円谷プロダクション、「被告」=ユーエム社)
前提知識の整理
- 利用許諾(ライセンス)/独占的利用許諾 … 著作権を移転させずに他人に著作物の利用を認めることをいい、著作権譲渡とは区別されます。許諾を受けた者だけが利用でき、著作権者が重ねて許諾しない旨の合意を伴うものが独占的利用許諾です。
- 継続的契約 … 一定期間にわたり関係が続くことを前提とする契約類型です。賃貸借や継続的売買が典型で、ライセンス契約も含まれます。期間の定めがない場合の終わらせ方がしばしば紛争になります。
- 確認の訴え/確認の利益 … 権利や法律関係の存否を判決で確定してもらう訴えです。判決だけでは強制執行に直結しないため、その確認が紛争解決に必要かつ適切といえるか(確認の利益)が入口で審査されます。なお確定判決の効力(既判力)は、原則として当事者間にしか及びません。
- 代物弁済 … 本来の給付(金銭の支払など)に代えて別のものを渡し、債務を消滅させる合意です。
事案の概要
円谷プロダクションは、映画の企画・制作・配給・販売等を目的とする株式会社で、本件各作品を含むウルトラマン作品の著作権を有します。ユーエム社は、舞台・映像関係の企画デザイン・製作・配給等を目的とする株式会社で、故Aの子が代表者を務めます。
昭和48年・49年(1973年・74年)に故Aの経営する2社と円谷プロダクションとの間で映画制作契約が締結された後、故Bが代理人として海外配給権等を第三者に許諾して対価を受領しながら、これを故Aの会社や故Aに交付しなかった、という経緯が認定されています。
昭和51年(1976年)3月2日、故Aが対価の支払を要求したところ、故Bは金銭に代えて海外におけるウルトラマンの権利を付与することを提案しました。同月4日に締結されたのが76年契約で、「LICENSE GRANTING AGREEMENT」と題する書面(76年書面)が作成されます。対象は本件各作品、地域は日本を除く全世界、期間は不特定期間(indefinite period)とされていました。
平成9年(1997年)7月以降、日本・タイ・中国・米国で76年契約の真正な成立や利用権の存否をめぐる訴訟が係属します。平成20年(2008年)12月24日、ユーエム社が故Aから本件利用権を譲り受けました。
そして平成26年(2014年)7月10日、円谷プロダクションはユーエム社に76年契約を解約する意思表示を送付し(解約通知書は、その根拠として平成29年改正前民法597条3項〔仮に対価性が認められる場合は同617条1項〕を挙げています)、同月15日までに到達しました。これが本件の2014年解約です。円谷プロダクションは、ユーエム社が本件各作品について日本以外の国における利用権を有しないことの確認を求めて本訴を提起し(金銭の請求はありません)、予備的に2024年解約(令和6年5月30日の第1回弁論準備手続期日における訴状陳述)も主張しました。

▲ 図2 76年契約の締結から本判決までの経過
各国での訴訟の経過(判決文が摘示する限度)
| 国 | 裁判所・時期 | 摘示されている結論 |
|---|---|---|
| 日本 | 東京地裁 平成15年2月28日(東京高裁 平成15年12月10日確定)、東京地裁 平成22年9月30日(知財高裁 平成23年7月27日確定) | 76年契約は独占的利用権の許諾であり著作権譲渡ではないとされた |
| タイ | 最高裁判所知的財産・国際取引事件部 平成20年2月5日 | 76年書面を偽造と認定 |
| 中国 | 広州市中級人民法院 平成21年9月16日/広東省高級人民法院 平成22年10月25日/最高人民法院 平成25年9月29日 | 第一審は真正な成立を否定したが、上訴審が覆して真正かつ有効と認め、その判断が維持され確定 |
| 米国 | カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所 平成29年〜平成30年 | 真正性を否定する陪審評決に従った判断がされた |
これらは本判決が前提事実として摘示する範囲の結論です。本判決は76年書面の成立の真正それ自体について独立の判断を示していません。日本の裁判所が76年書面を本物と認めた、あるいは偽物と認めた、という読み方はできない点に注意が必要です。
争点
判決は、「本件の主たる争点は、(1)訴えの利益の有無(争点1)及び(2)76年契約の解約の成否(争点2)である。」と整理しました。以下では、争点2の前提となる契約の性質決定を独立に取り出し、3つに分けて読みます。

▲ 図3 争点と裁判所の判断の構造
裁判所の判断
1 確認の利益(争点1)
「確認の訴えにおける確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。このような法律関係の存否の確定は、上記目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要する(最高裁昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁参照)。」
この規範のもと、判決は本件の状況を次のように評価します。
「原告と被告との間の紛争は相当長期にわたり複雑かつ激しいものとなっており、今後も、原告及び被告がそれぞれ本件各作品に係る利用許諾を第三者に与える行為を続けることが予想される。しかるに、各国の裁判所において、76年契約の成否等に関し相反する判断がされている。・・・76年契約をめぐる原告と被告との紛争の最終的な解決の見通しを立てることは困難な状態にあるというほかない。」
さらに、ユーエム社から利用許諾を受けた業者の日本国外における行為について、円谷プロダクションが日本の裁判所にユーエム社をも当事者に含めて差止請求訴訟や損害賠償請求訴訟を提起することもあり得ると述べ、結論として次のように判示しました。
「被告が現時点において本件利用権を有しないことを確認することは、原告の法的地位の安定に資するというべきである。このことは、上記確認の判決の既判力が被告の(サブ)ライセンシーをはじめとする被告以外の第三者に及ばないことを考慮しても異ならない。」
確認判決の効力がサブライセンシーに及ばなくても、当事者間で権利の所在を確定しておくことに意味がある、という判断です。
2 契約の性質決定——独占的利用許諾か、代物弁済か
「故Aに対する債務の弁済に代えることは、故Bと故Aとの間において76年契約を締結した動機ではあっても、代物弁済の趣旨を示すものとまでは考えられない。」
「以上より、76年契約は、原告が故Aに対し、期間の定めなく、本件各作品の独占的利用を許諾する趣旨の、独占的利用許諾契約であると解するのが相当である。」
金銭の支払に代えて権利を渡すという動機があったことは認めつつ、書面に代物弁済である旨が示されていない以上、その動機は契約の性質を変えるものではない、という整理です。
3 期間の定めのない継続的契約の解約(争点2)
本判決の核心です。判決は、期間の定めのない継続的契約について次の規範を示しました。
「このような継続的契約にあっては、一定期間契約関係を継続することが当事者間において前提とされているものの、当事者は、契約関係を継続することを期待し難い重大な事由があるときは、その契約を将来に向かって解除(解約)できるものと解するのが相当である。」
あてはめでは、双方が各国で契約の効力を争いながら、判決の効力が及ばない国でそれぞれ第三者にライセンスを与え続けてきた状況が重視されました。
「このような双方の行為は、76年契約の法的安定性を害するものであり、76年契約の締結から約38年が経過した平成26年(2014年)時点においては、既に契約締結当初の故Aと故Bとの間の個人的な関係も失われ、76年契約の基礎となるべき相互の信頼関係は欠如するに至っていたとみるほかない。」
とりわけ注目されるのが次の一節です。
「故A及び被告が76年契約を誠実に遵守していたにもかかわらず原告がこれを毀損する行為をしたと評価することは相当ではなく、むしろ双方の行為が累積した結果として、76年契約の継続を期待し難い重大な事由が生じたとみるのが適当である。」
一方の背信行為を理由とするのではなく、双方の行為が累積した結果として重大事由を認めた点が特徴的です。結論として判決は、「以上より、原告と被告との間の本件各作品に係る独占的利用許諾契約は既に解約により終了しており、被告は、現時点において、同契約に基づく本件利用権を有しない。」と判示し、円谷プロダクションの請求を認容しました。主文は、ユーエム社が別紙著作物目録記載の各著作物について日本以外の国における利用権を有しないことを確認するというものです。
なお、円谷プロダクションが予備的に主張した2024年解約について、判決は判断を示していません。また、本稿執筆時点で本判決の確定の有無は確認していません。
意義・射程
第1に、期間の定めのない独占的ライセンスが「永久ライセンス」ではないことを正面から確認した点です。他方で、期間の定めがないというだけで直ちに解約できるわけでもなく、重大事由の有無という実質判断を経ます。
第2に、重大事由の判断が「一方の帰責性」ではなく「関係の破綻」に置かれた点です。継続的契約の解消は「相手方に背信行為があったか」という枠組みで論じられがちですが、本判決は双方の行為の累積によって信頼関係が失われたと認定しました。長期紛争型のライセンス関係では、自社側の行為もまた重大事由を基礎づける事情として評価され得ます。
第3に、確認の訴えの機能を示した点です。既判力がサブライセンシーに及ばなくても、当事者間の法的地位を安定させる意義があるとされました。第4に、契約の性質決定における書面の重みです。交渉の経緯は動機にとどまり、契約書の文言に落とし込まれて初めて法的な意味を持ちます。
もっとも本判決は、約38年にわたり複数国での訴訟と相互のライセンス供与が続いた事実関係のもとでの判断です。ここで示された重大事由の水準を、より短期間・軽微な紛争のライセンス関係にそのまま持ち込めるかは慎重な検討を要します。
実務への影響・ポイント
- 期間と終了事由を必ず契約書に書く。 存続期間、更新の要否、中途解約権の有無と予告期間、解除事由を明示しておけば、数十年後に重大事由の有無という不確実な評価に委ねずに済みます。
- 対価の設計を書面に明記する。 金銭に代えて権利を与える、債務の弁済に充てるという経済的実質があるなら、その旨を書き込む必要があります。書かれていない経緯は動機として扱われるにとどまる可能性があります。
- 属人的な関係に依存した契約を放置しない。 当事者の死去や事業承継で前提が失われます。承継の時点で覚書等により条件を確認しておくべきです。
- 争いの最中の自社の対応も評価される。 権利の帰属を争いながら効力の及ばない国で第三者にライセンスを与える対応は、重大事由の判断材料になり得ます。
- サブライセンス契約に上位契約終了時の処理条項を置く。 上位契約が終了した場合の下位の許諾の帰趨は別問題として残ります。在庫販売の可否や通知義務を定めておくことが有用です。
まとめ
本判決の骨格は、①期間の定めのない継続的契約でも、契約関係の継続を期待し難い重大な事由があれば将来に向かって解約できること、②その重大事由は双方の行為の累積によっても認められること、③各国で判断が分かれ既判力が第三者に及ばないとしても当事者間の確認判決には利益があること、④対価に代えて権利を与えるという動機は、書面に代物弁済の趣旨が示されない限り契約の性質を変えないこと、の4点に整理できます。
契約書に期間を書かない選択は、当時は柔軟に見えても、数十年後には双方を予測困難な評価にさらします。長期のライセンス関係は、終わり方まで含めて書面化しておくことが、結局は双方の利益になります。
出典・参考判例
- 東京地方裁判所民事第47部 令和8年(2026年)5月14日判決・令和6年(ワ)第70067号 利用権不存在確認請求事件(判決文PDF・裁判所ウェブサイト)
- 最高裁判所昭和47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁(本判決が確認の利益の規範として参照。裁判所ウェブサイトでの掲載を確認できていないため、リンクは付していません)
※各国の訴訟については、本判決文に摘示された結論のみを紹介しています。また、主文にいう「別紙著作物目録」は判決文PDFに添付されておらず、対象作品の個別の名称は判決文から特定できないため、本記事でも「ウルトラマン作品」「本件各作品」という判決文の表現にとどめています。
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