
はじめに
SNS上でイラストを無断転載される被害は、企業・クリエイターを問わず後を絶ちません。無断転載を見つけたとき、まず思い浮かぶ対応は「投稿者本人に削除を求める」「プラットフォームの通報フォームから削除申請をする」というものでしょう。しかし、それでも投稿が消えないとき、権利者には「プラットフォーム事業者そのものを被告として、裁判所に投稿の削除を命じてもらう」という手段があります。
本記事で紹介する東京地裁令和7年(2025年)10月30日判決(令和7年(ワ)第70419号 投稿記事削除請求事件、判決文PDF・裁判所ウェブサイト)は、VTuberグループ「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社が、所属VTuber「獅白ぼたん」のイラストの頭部を切り取った画像を含むX(旧Twitter)上の投稿について、Xを運営するX Corp.を被告として著作権法112条1項に基づく削除を求め、請求が全部認容された事案です。プラットフォーム事業者を名宛人とする削除認容判決が裁判所ウェブサイトで公開された例として、実務上の参照価値が高い判決です。
この記事では、VTuberのキャラクターイラストをめぐる著作権の基礎を整理したうえで、本判決の内容と射程、そして無断転載への対応実務を解説します。
前提知識:VTuberのイラストと著作権
本判決を理解するために必要な概念を整理します。
- 著作物性:著作権法の保護を受けるのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)です。キャラクターイラストは、表情・構図・彩色などに作者の個性が現れていれば、美術の著作物として保護されます。
- 職務著作(著作権法15条1項):①法人等の発意に基づき、②その業務に従事する者が職務上作成する著作物で、③法人等が自己の著作の名義の下に公表するものは、④契約や勤務規則に別段の定めがない限り、その法人等が著作者になります。従業員が作った著作物の権利を会社に帰属させる制度です。
- 二次的著作物(著作権法2条1項11号):既存の著作物を翻案するなどして新たに創作された著作物です。元のイラストに手を加えて新しいイラストを作った場合、新しいイラストは元イラストの二次的著作物となり得ます。
- 差止請求(著作権法112条1項):著作権者は、著作権を「侵害する者又は侵害するおそれがある者」に対し、侵害の停止または予防を請求できます。損害賠償請求(民法709条)と異なり、相手方の故意・過失は要件とされていません。インターネット上の侵害では、投稿の削除がこの侵害停止の措置として請求されます。
- 誰を被告にするか:無断転載の投稿者を訴えるには、発信者情報開示手続などで投稿者を特定する必要があり、時間と費用がかかります。これに対し、投稿を管理するプラットフォーム事業者を被告として削除だけを求める訴訟は、投稿者の特定を経ずに提起できる選択肢です。もっとも、プラットフォーム事業者が112条1項の「侵害する者」に当たるかどうかは、事案によっては争点となり得る問題です(後述のとおり、本判決はこの点を独自に論証していません)。
判例の紹介と分析
事案の概要

判決は、事案を次のとおり整理しています。
「本件は、原告が、X(インターネットを利用してポストと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワークをいう。)のウェブサイト上に投稿された別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)により、原告に帰属する別紙著作物目録1のイラストの著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されていると主張して、Xを管理運営する被告に対し、著作権法112条1項に基づき、本件投稿の削除を求める事案である。」
請求は投稿の削除のみで、損害賠償などの金銭請求は含まれていません。なお、公開された判決PDFでは別紙(投稿記事目録・著作物目録)が省略されているため、対象となった投稿やイラストの具体的な内容は判決文からは分かりません。
X Corp.の訴訟対応
本件で特徴的なのは、被告X Corp.の訴訟対応です。判決は次のとおり記載しています。
「これに対し、被告は、請求原因事実を全て認めることはできないものの、原告が著作権を有することのほか、著作物性、類似性、依拠性、侵害行為につき、いずれも争わず、抗弁も主張しなかった(第1回口頭弁論調書参照)。」
つまり、被告は侵害の成否に関わる主要な点をいずれも争いませんでした。判決に記載されているのはこの訴訟上の対応という結果のみであり、その理由は判決からは分かりません。この対応が本件限りのものか否かも、本判決からは読み取れない点に注意が必要です。
裁判所の判断
裁判所は、「証拠及び弁論の全趣旨によれば、請求原因事実はいずれも認められるところ、本件訴訟の経過等に鑑み、次のとおり、判断を示すこととする。」と述べたうえで、争いのない事案でありながら、著作物性・権利の帰属・侵害行為について順に判断を示しました。
(1)著作物性
裁判所は、本件イラストがカバー株式会社の運営するVTuber事務所に所属する「獅白ぼたん」として使用されているイラストであると認定したうえで、「その顔の表情、向き、髪色、服装、ポージング等に創意工夫がされ、著作者の個性が現れた創作的表現であると認められる」として、著作物性を肯定しました。
(2)著作権の帰属——業務委託と職務著作の二段構え

裁判所は、①訴外イラストレーターが作成して納入した「本件元イラスト」の著作権が業務委託契約に基づきカバー株式会社に帰属すること、②本件イラストは、本件元イラストに基づき同社の従業員がポーズを作成しレタッチを行って作成したものであることを認定しました。そのうえで、本件イラストは本件元イラストの二次的著作物に当たり、かつ同社の発意に基づき業務従事者が職務上作成した著作物で同社名義で公表するものであるとして、「本件イラストの著作権は、著作権法15条1項により、原告に帰属するものと認められる。」と結論づけました。
イラストレーターへの外注イラストを社内で加工して運用するVTuber事務所の制作実態を、契約による譲渡と職務著作の組合せで整理した認定であり、キャラクタービジネスの権利処理の参考になります。
(3)複製権・公衆送信権の侵害
裁判所は、「本件投稿中の画像(以下「本件画像」という。)は、本件イラストの頭部部分を切り取ったものであり、本件イラストに依拠したものであることは明らかである。」としたうえで、投稿はサーバーへのアップロードを必然的に伴い、サーバー上に本件画像が有形的に再製されるから複製権(著作権法21条)を侵害し、また、サーバーへのアップロードは送信可能化(同法2条1項9号の5イ)に該当するから公衆送信権(同法23条)を侵害すると判断しました。頭部の切り取りという一部利用であっても侵害が成立するとされた点は、切り抜き・トリミングが横行するSNS実務において意味を持ちます。
結論として裁判所は請求を全部認容し、主文で「被告は、別紙投稿記事目録記載の投稿を削除せよ。」と命じました(仮執行宣言は付されていません)。
本判決の意義と射程の限界
本判決の価値は、第一に、プラットフォーム事業者を被告とする著作権法112条1項に基づく投稿削除請求の認容判決が、裁判所ウェブサイトで公開された例であるという点にあります。この類型の訴訟が現実に機能することを、当事者名・手続とともに確認できる公開判決は貴重です。第二に、VTuberのキャラクターイラストについて、著作物性と職務著作による法人帰属を正面から認定した点も、同種ビジネスの実務に有益です。
他方で、射程には明確な限界があります。被告が著作物性・類似性・依拠性・侵害行為をいずれも争わず抗弁も提出しなかったため、判決の理由づけは簡潔であり、とりわけ「プラットフォーム事業者がなぜ112条1項の差止請求(削除請求)の名宛人となるのか」という理論上の重要問題について、本判決は独自の論証を展開していません。被告がこの点を争った場合にどのような判断がされるかは、本判決からは読み取れません。本判決は、争いのない事案における一つの実例として位置づけるのが正確です。
なお、SNS上の著作物利用が問題となった最高裁判例としては、リツイートに伴う画像のトリミング表示について氏名表示権の侵害が認められたリツイート事件判決(最判令和2年7月21日・平成30年(受)第1412号、判決文PDF・裁判所ウェブサイト)があり、SNS上の画像利用が権利侵害となり得ることは最高裁レベルでも確認されています。
実務への影響——無断転載されたときの3つの選択肢

イラストやキャラクターを無断転載された企業・クリエイターの選択肢は、おおむね次の3つに整理できます。
- プラットフォームへの任意の削除申請:各プラットフォームが設ける著作権侵害の報告フォーム等を利用する方法です。費用がかからず迅速ですが、削除するか否かは事業者側の判断に委ねられます。
- 発信者情報開示請求:投稿者を特定し、投稿者本人に対する損害賠償請求や再発防止の要求につなげる方法です。金銭的な責任追及まで見据える場合はこのルートが必要ですが、相応の時間と費用がかかります。
- プラットフォーム事業者に対する削除訴訟:本判決の類型です。投稿者を特定しなくても提起でき、判決を得れば削除の強制につながります。他方、得られるのは削除であって、投稿者への損害賠償請求はできません。
実務では、まず①の任意申請を試み、解決しない場合に、目的(とにかく消したいのか、投稿者の責任を追及したいのか)に応じて②③を選択・併用するのが基本的な使い分けです。本件のように削除のみを目的とする場合、③は投稿者特定の手続を省略できる直截な手段であり、本判決はその実例を公開判決の形で示したものといえます。
まとめ
- 東京地判令和7年10月30日は、カバー株式会社がX Corp.を被告として、VTuber「獅白ぼたん」のイラストの頭部を切り取った画像を含む投稿の削除を著作権法112条1項に基づき求め、全部認容された事案です。
- 裁判所は、イラストの著作物性を認め、業務委託契約による元イラストの権利帰属と職務著作(15条1項)の組合せでカバー株式会社への著作権帰属を認定し、複製権・公衆送信権の侵害を肯定しました。
- 被告は侵害の成否を争わず、判決はプラットフォーム事業者が112条1項の名宛人となる理由を独自に論証していないため、先例的射程には限界がありますが、プラットフォーム事業者相手の削除判決が公開された実例として実務上の参照価値があります。
- 無断転載への対応は、任意の削除申請・発信者情報開示・プラットフォームへの削除訴訟を目的に応じて使い分けることが重要です。
出典・参考判例
- 東京地判令和7年10月30日(令和7年(ワ)第70419号 投稿記事削除請求事件) 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判令和2年7月21日(平成30年(受)第1412号)リツイート事件 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 笹本哲朗『最高裁判所判例解説民事篇令和2年度』〔18〕431〜465頁(リツイート事件)
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。
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