ダンス教室でCDを流すのは「公衆」への演奏か――ダンス教授所事件(名古屋高裁平成16年3月4日判決)と著作権法の「公衆」概念

はじめに

社交ダンス教室のレッスンでは、音楽が欠かせません。教室がCDを再生して受講生にダンスを教えるとき、その再生は著作権法上の「演奏」として、JASRACの許諾(使用料の支払)が必要になるのでしょうか。「相手は契約した生徒だけなのだから、『公衆』に聞かせているわけではない」という反論は通るのでしょうか。
この問題を正面から扱ったのがダンス教授所事件です。名古屋地裁平成15年2月7日判決(平成14年(ワ)第2148号)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕と、これを維持した名古屋高裁平成16年3月4日判決(平成15年(ネ)第233号)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕は、ダンス教室でのCD再生を「公衆」に対する演奏と認め、フェア・ユースの主張も退けたうえ、実態調査に基づく推計で10年分以上の使用料相当額の支払を命じました。著作権法の「公衆」概念のリーディングケースとして、今日でも頻繁に参照される判決です。

前提知識の整理

  • 演奏権(著作権法22条):著作者は、著作物を「公衆に直接……聞かせることを目的として」演奏する権利を専有します。CD等の録音物の再生も演奏に含まれます(同法2条7項)。
  • 「公衆」(同法2条5項):著作権法の「公衆」には「特定かつ多数の者」が含まれます。裏返すと、公衆に当たらないのは「特定かつ少数」の場合だけです。不特定なら少数でも公衆になり得ます。
  • 旧附則14条:平成11年改正前の著作権法附則14条は、適法に録音されたレコード等の再生を、政令で定める場合(キャバレー・ナイトクラブ・ダンスホール等)を除き当分の間自由としていました(平成14年3月31日限りで廃止)。本件では、廃止前の期間について、ダンス教室が政令の「フロアにおいて客にダンスをさせる営業」に当たるかも争われました。
  • 非営利演奏(38条1項):営利を目的とせず、聴衆から料金を受けず、実演家に報酬を支払わない演奏は、許諾なく行えます。

判例の紹介と分析

事案の概要

当事者と請求の構造
JASRACが、名古屋市内等で社交ダンス教室を経営する7名(法人・個人)に対し、無許諾でCD等を再生して管理著作物を演奏しているとして、再生の差止めと、提訴から遡って約10年分の使用料相当額(主位的に不法行為に基づく損害賠償、予備的に不当利得返還)を求めた事案です。教室側は無許諾のCD再生自体は争わず、「公衆」への演奏ではない、非営利である、フェア・ユースだ、時効だ、と多方面から争いました。

争点

  1. ダンス教室でのCD再生は「公衆に直接聞かせることを目的」とする演奏か
  2. 非営利演奏(38条1項)に当たるか
  3. 著作物の「公正な利用」(フェア・ユース)を理由に請求を拒めるか
  4. 不法行為の消滅時効(3年)経過分について不当利得返還請求ができるか
  5. 過去10年分の損害・損失を、どうやって立証するか

裁判所の判断

「公衆」該当性――入会すれば誰でも受講できる

名古屋地裁は、次のように述べて「公衆」への演奏であることを認め、名古屋高裁もこの判断を引用して維持しました。

本件各施設におけるダンス教授所の経営主体である被告らは,ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的,物的条件が許容する限り,何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ,このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は,組織的,継続的に行われるものであるから,社会通念上,不特定かつ多数の者に対するもの,すなわち,公衆に対するものと評価するのが相当である。

(一審判決)
ポイントは、受講契約を結んだ生徒との関係を「特定少数」とみるのではなく、「誰でも入会できる」という営業の構造に着目して「不特定」と評価したことです。レッスンの一時点での対象人数が少なくても結論は変わりません。

非営利演奏の否定

教室側は「ダンス教育という公益目的であり、受講料は指導の対価であって音楽の対価ではない」と主張しましたが、裁判所は、受講生が増えるほど経営者の所得が増える関係にあること等から「被告らの経営するダンス教授所が営利の目的を有しないものであるとは到底認めることはできない」とし、音楽の演奏がダンス教授に必要不可欠である以上、受講料は演奏の対価としての「料金」にも当たるとしました。

フェア・ユースの一般法理の否定

本件のもう一つの重要判示が、フェア・ユース論の明確な排斥です。

実定法主義を採る我が国の法制度の下で,これが制限されるためには,その要件が具体的かつ明確に規定されていることが必要であると解するのが相当であって,かかる規定が存しない以上,一般的な「公正な利用の法理」を認めることはできないことはもちろん,明文の規定を離れて著作物の公正な利用となる場合があることを認めることはできないというべきである

(一審判決)
権利制限は著作権法30条以下の個別規定によるほかなく、米国型の一般的フェア・ユースの法理は我が国では違法性阻却事由にならない――従前の裁判例・通説を確認した代表的判示です。

時効と不当利得、そして損害の推計

10年分の請求と時効の構造
不法行為に基づく損害賠償は消滅時効(当時3年)により提訴前3年分に限られましたが、名古屋高裁は、それ以前の7年分について不当利得返還請求を認めました。著作権侵害の不当利得返還請求権は商事時効(当時5年)ではなく民事の10年の時効に服するという前提です。
損害・損失額の立証については、JASRACが調査員を受講生として教室に派遣した実態調査(各施設1回)の報告書が用いられました。教室側は「調査目的を隠した潜入調査は違法収集証拠だ」「1回の調査で10年分を認定するのは乱暴だ」と争いましたが、裁判所は、著しく反社会的な手段による人格権侵害を伴う証拠収集に限って証拠能力が否定されるとの枠組みの下で証拠能力を肯定し、昭和52年の過去調査やダンス人口の推移等の間接事実を総合して、全期間について使用料相当額の利得を推認しました。実態調査に基づいて継続的侵害の全期間の損害を推計するこの手法は、後のライブハウス事案(ライブバー事件・知財高判平成28年10月19日)等でも踏襲され、判例上確立した認定方法となっています。

意義と射程

第1に、「公衆」概念の規範的な判断手法を示しました。「誰でも契約すれば利用できる」営業構造なら相手は不特定である、という判断は、その後、まねきTV事件最高裁判決(最判平成23年1月18日)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕が「利用主体を確定したうえで、その主体との関係で公衆該当性を判断する」枠組みを採る際の下級審の積み重ねの一つとなり、音楽ストレージサービスのMYUTA事件(東京地判平成19年5月25日)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕でも会員登録制のユーザーが「不特定の者」とされています。
第2に、JASRAC音楽教室事件との関係に注意が必要です。音楽教室のレッスンにおける「生徒の演奏」については、最高裁令和4年10月24日判決〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕が教室事業者の利用主体性を否定しました。しかし、ダンス教室のCD再生は事業者自身が再生(演奏)の主体であり、利用主体論で争う余地がそもそもありません。事業者自身の演奏・再生が受講生(公衆)に向けられている場面では、本判決の枠組みが現在も妥当します。教師の演奏について音楽教室事業者を利用主体とした判断が上級審でも維持されたこととも整合的です。
第3に、フェア・ユース論争の里程標です。本判決後、平成21年改正以降の著作権法は30条の2以下や47条の4・47条の5など柔軟な権利制限規定を段階的に整備してきましたが、一般条項としてのフェア・ユースは現在も導入されていません。個別規定に当たらない利用を「公正だから適法」と主張することは、今日でも困難です。

実務への影響・ポイント

  • 「会員制・契約制だから公衆ではない」という反論はほぼ通りません。ダンス教室に限らず、フィットネス、カルチャースクール、エステ等、入会すれば誰でも利用できる営業でのBGM・レッスン音楽の利用は「公衆」向けの利用と評価されます。市販CDやストリーミングを店舗・教室で流すには原則として許諾が必要です。
  • 放置するほど賠償額は膨らみます。不法行為の時効にかかった期間も不当利得構成で最大10年遡って請求され得ます(現行民法下では原則10年・権利行使可能を知ってから5年)。本件でも各被告に約190万〜360万円の支払が命じられました。
  • 「調査されていないから証明できないはず」という期待は禁物です。1回の実態調査と間接事実の積み上げで全期間の損害が推認された本件の手法は、その後の裁判例で定着しています。

まとめ

ダンス教授所事件は、①「誰でも入会できる」構造に着目した「公衆」概念の判断、②非営利演奏の抗弁の限界、③フェア・ユース一般法理の否定、④実態調査による長期間の損害推計という、音楽利用ビジネスに関わる論点を一挙に扱った重要判例です。教室・スクール型ビジネスで音楽を使う事業者は、本判決を前提に、JASRAC等との利用許諾契約の要否を必ず確認しておくべきでしょう。

出典・参考判例

参考文献

  • 田中豊編『判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講』(日本評論社、2019年)138〜144頁・298〜313頁・339〜346頁・456〜461頁
  • 中山信弘『著作権法〔第4版〕』(有斐閣、2023年)309〜310頁(「公衆」概念。310頁注7に本件一審判決の引用)

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

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