
はじめに
ライブハウスで実際に楽器を弾き、歌っているのは出演者です。それでも、JASRACと利用許諾契約を結ばないまま営業を続ければ、店の経営者自身が著作権(演奏権)侵害の責任を負う――。それを正面から示したのが、ライブバー事件の知財高裁平成28年10月19日判決(平成28年(ネ)第10041号 著作権侵害差止等請求控訴事件)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕です。
この判決は、カラオケスナックについてのクラブキャッツアイ事件最高裁判決と、クラウド録画サービスについてのロクラクⅡ事件最高裁判決の枠組みを統合してライブハウスに適用し、さらに「ミュージシャンが自分で作った曲を自分の店で演奏しても侵害になる」「アドリブやアレンジを加えても侵害を免れない」という、音楽関係者に衝撃を与えた判断を含んでいます。損害額の算定手法も含め、ライブハウス・飲食店の音楽利用実務にとって必読の判決です。
前提知識の整理
- 演奏権(著作権法22条):公衆に直接聞かせることを目的とする演奏(歌唱を含む)は、著作権者の許諾が必要です。ライブハウスでの演奏は典型例です。
- 規範的利用主体論:物理的な演奏者でなくても、行為への関与の内容・程度等から、法的に「利用主体」と評価される場合があります。カラオケ店の客の歌唱について店を主体としたクラブキャッツアイ事件(最判昭和63年3月15日)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕、複製の実現における「枢要な行為」に着目したロクラクⅡ事件(最判平成23年1月20日)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕が二大先例です。
- 著作権の信託譲渡:JASRACの著作権信託契約では、委託者(作詞家・作曲家等)は契約期間中の全ての著作権を信託財産としてJASRACに移転します。管理を委ねた曲の著作権者は、法律上はJASRACになります。
判例の紹介と分析
事案の概要

被告らは、東京都内のライブハウス「Live Bar」を共同経営する2名で、うち1名はロックバンド「爆風スランプ」のドラマーとして知られるミュージシャンです。店はJASRACと利用許諾契約を締結しないまま平成21年の開店以来ライブを開催し続け、JASRACが、演奏の差止めと、開店日から約6年5か月分の使用料相当額(約560万円)の支払を求めて提訴しました。
一審の東京地裁平成28年3月25日判決(平成25年(ワ)第28704号)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕は差止めと約212万円+弁護士費用の支払を命じ、双方が控訴しました。
争点
- ライブハウスの経営者は、出演者による演奏の「主体」(侵害主体)に当たるか
- 経営者自身が作曲しJASRACに信託した「自作曲」の演奏は侵害になるか
- アドリブ・アレンジを加えた演奏でも侵害になるか
- 過去約6年5か月分の損害額をどのように算定するか
知財高裁の判断
演奏主体性――「枢要な行為」基準
知財高裁は、利用主体の判断枠組みを次のように定式化しました。
誰が著作物の利用主体に当たるかを判断するに当たっては,利用される著作物の対象,方法,著作物の利用への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,仮に著作物を直接演奏する者でなくても,ライブハウスを経営するに際して,単に第三者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,演奏の実現における枢要な行為をしているか否かによって判断するのが相当である
(判決文。クラブキャッツアイ事件最高裁判決・ロクラクⅡ事件最高裁判決を引用)
あてはめでは、①店がライブ開催を主目的とするライブハウスで、JASRAC管理著作物の演奏が日常的に行われていること、②出演者から会場使用料を取らず、ライブで集客して客から最低1000円の飲食代を得る営業構造であること、③2名とも資金提供・連帯保証・出演者集め等を通じて経営に深く関与していたことなどを認定し、次のとおり結論づけました。
1審被告らは,いずれも,本件店舗における1審原告管理著作物の演奏を管理・支配し,演奏の実現における枢要な行為を行い,それによって利益を得ていると認められるから,1審原告管理著作物の演奏主体(著作権侵害主体)に当たると認めるのが相当である。
(判決文)
「場所を貸しているだけ」ではなく、ライブを営業の中核に据えて収益を上げている以上、演奏者が誰であっても経営者が利用主体になる、という判断です。
自作曲でも侵害になる
被告の一人は自作曲(自身がJASRACに管理を委託した楽曲)の演奏は著作者自身が許諾していると主張しましたが、裁判所は退けました。
1審原告と著作権信託契約を締結した委託者は,その契約期間中,全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を,信託財産として1審原告に移転しているから,1審原告管理著作物の著作権者は,1審原告である。そうすると,利用者が誰であっても,1審原告の許諾を得ずに1審原告管理著作物を利用した場合には,当該利用行為は著作権侵害に当たるといわざるを得ない。
(判決文)
信託譲渡の法的構造からすれば当然の帰結ですが、「作った本人が自分の店で演奏しても、JASRACの許諾がなければ侵害」という結論は、音楽家の間で大きな議論を呼びました。
アドリブ・アレンジ演奏と損害額の推計

損害額について、裁判所は、侵害された楽曲を1曲ずつ特定しなくても損害賠償請求は可能であるとしたうえで、JASRACが調査員を客として派遣した実態調査の結果から1ライブあたりの平均演奏曲数を求め、これに0.7を乗じた曲数×使用料規程に基づく1曲あたりの使用料×ライブ開催回数という方法で全期間の損害を推計しました(ライブごとに管理著作物の利用割合が異なることを考慮した掛け目です)。アドリブ・アレンジ演奏についても、「オリジナルのとおりの演奏がされず,アドリブ若しくはアレンジ演奏が行われたとしても,一体のものとして1審原告管理著作物を利用したことに変わりはない」として、5分を超えるごとに1曲分を加算する使用料規程どおりの計算を認めています。
結論として、知財高裁は一審の認容額を増額し、使用料相当損害金(不当利得金)496万5101円と弁護士費用50万円の連帯支払(および差止め)を命じました。上告は棄却・不受理となり確定しています。
意義と射程
第1に、二つの最高裁判決を統合した判断枠組みです。クラブキャッツアイ事件の「管理+利益」と、ロクラクⅡ事件の「諸要素の考慮+枢要な行為」を併せて引用し、ライブハウスという生演奏の場に適用した点に特色があります。もっとも、規範の定立では「枢要な行為」を基準としながら、あてはめでは「利益を得ていること」も加えており、判断構造がやや分かりにくいとの指摘や、判断基準・あてはめに批判的な評釈も少なくありません(上野達弘・L&T77号23頁、安藤和宏・著作権判例百選〔第6版〕174頁等)。
第2に、実態調査による損害推計の確立です。少数回の実態調査から長期間の損害を推認する手法は、ダンス教授所事件(名古屋高判平成16年3月4日)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕等で採用されてきたもので、本判決もこの流れに位置づけられます。
第3に、音楽教室事件への橋渡しです。本判決の「諸要素の総合考慮」による主体判断は、その後のJASRAC音楽教室事件・最高裁令和4年10月24日判決〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕(生徒の演奏について教室の利用主体性を否定)と同じ土俵の議論です。演奏がなければ成り立たない営業(ライブハウス)と、演奏が技術習得の手段である教室との違いが、結論を分けています。
実務への影響・ポイント
- ライブハウス・音楽バーの経営者は、開業時にJASRAC等との利用許諾契約(包括契約)を検討すべきです。「演奏しているのは出演者」「場所貸しにすぎない」という抗弁は、ライブで集客し飲食代で収益を得る通常の営業形態では通用しません。
- 未契約のまま営業を続けると、過去分をまとめて請求されます。本件では開店以来約7年分・約550万円(弁護士費用込み)の支払が命じられました。楽曲を特定した証拠がなくても、実態調査と推計で認定されます。
- 自作曲中心のライブでも安心はできません。JASRACに管理委託した楽曲は、作った本人の演奏でも許諾が必要になります。自己使用が多いミュージシャンは、管理委託範囲の設計(どの支分権・利用形態を委託するか)を契約時に検討しておく必要があります。
- カバー演奏のアレンジ・アドリブは侵害の回避策になりません。原曲の本質的特徴が残る限り、利用は原曲の利用と扱われます。
まとめ
ライブバー事件は、生演奏の場であるライブハウスの経営者を演奏権侵害の主体と認め、実態調査に基づく損害推計と、自作曲・アレンジ演奏に関する厳格な判断を示した、ライブ営業の著作権実務における基本判例です。音楽を売りにする店舗を経営する方は、この判決を前提に、許諾契約の要否と管理委託の設計を早めに確認しておくことをお勧めします。
出典・参考判例
- 知財高判平成28年10月19日(平成28年(ネ)第10041号)〔ライブバー事件控訴審〕 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 東京地判平成28年3月25日判時2322号122頁(平成25年(ワ)第28704号)〔同第一審〕 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〔クラブキャッツアイ事件〕 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判平成23年1月20日民集65巻1号399頁〔ロクラクⅡ事件〕 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 名古屋高判平成16年3月4日判時1870号123頁〔ダンス教授所事件〕 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
- 最判令和4年10月24日民集76巻6号1348頁〔JASRAC音楽教室事件〕 判決文PDF・裁判所ウェブサイト
参考文献
- 田中豊編『判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講』(日本評論社、2019年)448〜456頁〔小川まゆみ〕
- 上野達弘「ライブハウスにおける演奏主体」L&T77号23頁
- 安藤和宏「侵害主体(6)――ライブハウス」著作権判例百選〔第6版〕174頁
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。
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