「紋次郎いか」控訴審判決を読む――キャラクターの“デフォルメ”が翻案権侵害とされた理由と著作権法28条の射程(知財高判令和7年9月24日)

時代小説『木枯し紋次郎』の主人公をかたどった図柄を、半世紀にわたり駄菓子「紋次郎いか」の容器に使い続けてきた――。この図柄をめぐる著作権侵害訴訟で、知的財産高等裁判所は令和7年(2025年)9月24日、請求を棄却した一審判決を覆し、メーカーに約5,600万円の支払いと商品の製造販売の差止めを命じました。

「キャラクターそのものは著作権で保護されない」というのが最高裁判例の原則です。それにもかかわらず、なぜ控訴審は著作権侵害を認めたのか。本稿では、一審と控訴審の結論が正反対に分かれた“分岐点”を軸に、キャラクター保護の理論構造と、企業・クリエイターが押さえるべき実務上の留意点を解説します。

なお、本件は最高裁に上告受理申立てがされており、令和8年(2026年)6月時点で確定していません。第一審そのものの解説は、当事務所の別稿「キャラクターの著作物性はどこまで?「紋次郎いか」判決を読む!」もあわせてご覧ください。


前提――「キャラクター」と「二次的著作物」「翻案」

本件を理解するうえで、3つの基本概念を押さえておきます。

  • キャラクター:作品に登場する人物像。最高裁(ポパイ・ネクタイ事件・最判平成9年7月17日)は、登場人物の“キャラクター”は具体的表現から昇華した抽象的概念にすぎず、それ自体は著作物にあたらないとしました。著作権侵害を主張するには、どの具体的表現が侵害されたのかを特定する必要があります。
  • 二次的著作物:原作(小説)に新たな創作を加えてできた別作品。本件では、小説を映像化したテレビ作品が、小説の二次的著作物にあたります。
  • 翻案:原作の「表現上の本質的な特徴」を維持したまま、具体的表現を変えて新たに創作すること(江差追分事件・最判平成13年6月28日)。無断で行えば翻案権の侵害です。

この3点が、本判決を読み解く鍵になります。

事案の概要

当事者と権利関係を整理すると、次のとおりです(→図1:当事者の関係と権利の流れ)。

小説『木枯し紋次郎』の作者・笹沢左保氏の没後、著作権はその相続人が承継し、キャラクター商品化を手がける会社(原告会社)が独占的利用許諾を受けていました。一方、被告である駄菓子メーカーは、昭和47年(1972年)から「紋次郎いか」等の容器に、紋次郎を思わせる渡世人の図柄(被告図柄)を付して販売していました。

原告側は、この被告図柄が小説・テレビ作品等の翻案権・公衆送信権を侵害するとして、差止め・廃棄・損害賠償を求めました。

図1 当事者の関係と権利の流れ

▲ 図1 当事者の関係と権利の流れ

実際に問題となった商品・図柄と、原告が「元の表現」と位置づけたテレビ作品の紋次郎は、以下のとおりです(いずれも東京地裁令和5年12月7日判決の別紙より引用)。

被告商品「紋次郎いか」(東京地裁令和5年12月7日判決別紙より引用)

▲ 被告商品「紋次郎いか」(同判決別紙より引用)

被告図柄(東京地裁令和5年12月7日判決別紙より引用)

▲ 容器に付された被告図柄。三度笠・道中合羽・楊枝が大きく誇張されている(同判決別紙より引用)

本件テレビ作品の紋次郎(東京地裁令和5年12月7日判決別紙より引用)

▲ 原告が「元の表現」と主張した本件テレビ作品の紋次郎(同判決別紙より引用)

原告が紋次郎の特徴として挙げたのは、①通常より大きい三度笠、②通常より長い道中合羽(縦縞)、③細長い楊枝、④長脇差――の4点でした(→図3:紋次郎の4つの特徴)。
図3 争われた「紋次郎」の4つの特徴

▲ 図3 争われた「紋次郎」の4つの特徴

一審と控訴審――結論を分けたもの

一審・東京地裁は、請求をすべて棄却しました。ポパイ事件を引用して抽象的キャラクターの著作物性を否定したうえで、原告が特定した①〜④は「江戸時代の渡世人としてありふれた特徴」にすぎず創作的表現とはいえないと判断。さらに、被告図柄は笠が「概ね背丈ほど」、楊枝が「顔の数倍」と極端で、もはや渡世人を直接感得できないとして、仮に著作物性を認めても非類似だと付言しました。

これに対し控訴審は、判断の土台を組み替えます。保護対象を抽象的キャラクターではなく、テレビ作品に映った紋次郎の具体的映像に置き直し、①〜④を「すべて兼ね備える」点に着目しました。放映前にこれらをすべて備えた人物像は存在せず、その組み合わせこそが創作的な「表現上の本質的特徴」だと認定したのです(→図2:地裁と高裁の判断の対比)。

ここで効いてくるのが、テレビ作品は小説の二次的著作物だという整理です。控訴審は、小説そのものではなく「映像化された紋次郎像」を基準に据えることで、保護に値する具体的表現を捉えました。
図2 地裁と高裁で、判断はこう分かれた

▲ 図2 地裁と高裁で、判断はこう分かれた

最大の分岐点――“デフォルメ”の評価が逆転した

一審と控訴審を分けた決定的要因は、被告図柄の誇張(デフォルメ)に対する評価が180度転換した点にあります。

  • 一審は、「背丈ほどの笠」「顔の数倍の楊枝」という極端さを、元の表現との相違ととらえ、「似ていない(非類似)」と結論づけました。
  • 控訴審は、まず元の映像の本質的特徴を「笠が大きい」「合羽が長い」ことだと確定し、被告図柄の誇張はその特徴を強調したものだと評価しました。「さらに大きい笠」「さらに長い合羽」は、本質的特徴を感得することを「妨げるどころか、むしろ容易にする」というのです。

同じ誇張表現を、一審は「非類似の根拠」に、控訴審は「翻案の根拠」に用いた――ここが本判決の核心です(→図4:翻案該当性の判断ステップ)。控訴審は、被告図柄が本質的特徴の同一性を維持しつつ新たな表現を加えたもので、接する者が元の映像の特徴を直接感得できるとして、翻案にあたると判断しました。

実務的に重要なのは、「デフォルメしているから別物だ」という抗弁が通りにくくなった点です。模倣の有無は、外観の細部の違いではなく、本質的特徴を感じ取れるかで判断される――その傾向が、より明確に示されました。
図4 控訴審の判断ステップ(なぜ「翻案」にあたるのか)

▲ 図4 控訴審の判断ステップ(なぜ「翻案」にあたるのか)

著作権法28条――原作者の権利はどこまで及ぶか

本件にはもう一つ、理論的に難しい論点がありました。被告側は「『大きい笠』『長い合羽』は原作小説になく、テレビ制作側が独自に加えた要素だから、原作者の権利は及ばない」と反論したのです。

権利は「小説(原作)→テレビ(二次的著作物)→被告図柄」という多層構造になっており、二次的著作物で新たに付加された要素にまで原作者の権利が及ぶかは、学説でも議論のある問題です。

控訴審は、これを巧みな事実認定で乗り越えました。決め手は、メーカー自身が公式サイトに掲げていた「紋次郎いかの由来」の記載です。そこには「テレビで流行っていた木枯らし紋次郎がくわえていた長い楊枝を串に見立てた」とあり、これを根拠に、メーカーがテレビ作品(二次的著作物)に依拠して図柄を作成したと認定。そのうえで、二次的著作物の利用について原作者も同一の権利をもつ(著作権法28条)という構成で、原作者側の翻案権侵害を肯定しました。

二次的著作物に付加された創作的要素を含む利用にまで原作者の権利を及ぼした例として、28条の射程を広く捉えた判断といえます。

「半世紀の黙認」は権利行使を妨げるか

メーカー側は、「50年以上販売してきたのに、いまさら権利行使するのは黙示の許諾に反し、権利の濫用だ」とも主張しました。

しかし控訴審は、これを認めませんでした。理由は明快で、権利者が侵害の事実を認識していなかったからです。認識がない以上、黙示の許諾も権利失効も成立せず、単に長期間行使しなかったという事実だけでは権利は消えない、と判断しました。

企業側から見れば、これは見過ごせないリスクです。長年問題視されてこなかった表示でも、権利者の事情変化を契機に、突然権利行使を受ける可能性があることを、本判決は示しています。

損害論――侵害と賠償額は別問題(料率1%)

侵害が認められた一方で、賠償額は原告の請求から大きく減額されました。原告が主張したライセンス料率7%に対し、控訴審が認めたのは卸売額の1%。認容額は合計でおよそ5,600万円です。

料率が低く抑えられた理由は、①テレビ放映から30年以上が経過し、キャラクターの集客力(販売への寄与度)が低下していたこと、②図柄が容器に占める割合が小さかったこと、にあります。

ここから読み取れるのは、「侵害の成否」と「賠償額」は別次元だということです。侵害が認められても、その表現が売上に寄与した程度が小さければ、賠償額(料率)は大きく圧縮されうる――この点は、依頼者への見通し説明においても重要です。

企業・クリエイターへの実務上のポイント

本判決から、実務上は次の4点を押さえておくべきです。

  1. 侵害を主張する側は、抽象的なキャラクターではなく、どの作品の・どの具体的表現(とくに映像などの二次的著作物)が侵害されたのかを特定し、本質的特徴を抽出して立証する必要があります。
  2. 模倣を疑われる側は、「デフォルメしたから別物」という説明では足りません。元の表現の本質的特徴を感得させていないか、客観的に検討する必要があります。
  3. 二次的著作物の権利処理は契約で明確に。映像化等で新たに生じたデザイン・衣装等について、原作者・制作会社・商品化事業者の権利関係を、著作権法28条を踏まえて事前に整理しておくことが、紛争予防になります。
  4. 保護は重層的に。著作権だけでなく、商標登録等を組み合わせた多層的な管理が望まれます(本件では、不正競争防止法による主張は、商品等表示としての特定性・周知性を欠くとして認められませんでした)。

長く使ってきた図柄やネーミングが、ある日突然「著作権侵害」と指摘される――そうしたリスクは、どの企業にも起こり得ます。自社の商品・サービスの表示について不安がある場合や、逆に自社のキャラクター・デザインを模倣された場合は、早い段階で専門家にご相談ください。

まとめ

紋次郎いか事件は、「キャラクターは抽象的に捉えれば保護されないが、具体的表現として特定できれば保護され得る」という著作権法の基本構造を、改めて明確にした事案です。そのうえで控訴審は、誇張表現を「本質的特徴の強調」と評価して翻案を認め、さらに著作権法28条を通じて、二次的著作物に付加された要素にも原作者の権利が及ぶことを示しました。

保護範囲を実質的に広げる方向の判断であり、最高裁の判断が注目されます。今後の動向も、引き続き本サイトで取り上げていきます。

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出典・参考判例

※ 本文中の商品・図柄・映像の画像は、いずれも東京地裁令和5年12月7日判決の別紙から、判例解説の目的で引用したものです。

筆者の判例解説

  • 大熊裕司「紋次郎いか事件にみるキャラクター保護と二次的著作物の射程」コピライト Vol.65 No.777(公益社団法人著作権情報センター〔CRIC〕)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士までお問い合わせください。

弁護士 大熊裕司(虎ノ門法律特許事務所|著作権法・誹謗中傷対策)

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