リストや一覧表に著作権はある?松本清張映像化リスト事件(編集著作物)をわかりやすく解説

【この記事の3行まとめ】

  • 何年もかけて調べ上げたリストでも、「集める労力」自体は著作権では保護されません(「額に汗」理論の不採用)
  • 保護されるのは、素材の選択・配列に表れた個性(創作性)だけ。「漏れなく集めて年代順に並べる」網羅的リストは創作性が否定されやすいのです
  • データ集積ビジネスの保護は、著作権だけに頼らず、契約・不正競争防止法・独自コンテンツの付加など複層的な設計が必要です

はじめに――苦労して作ったリストは守られるのか

ある作家の作品が映画化・ドラマ化された履歴を年代順にまとめる。地域の全飲食店を一覧にする。業界の歴史的な出来事を時系列で整理する――こうした「リスト」や「一覧表」を作るには、膨大な調査の労力と時間がかかります。では、その成果物に著作権は発生するのでしょうか。

結論からいえば、日本の著作権法では「労力がかかったから保護される」という考え方は採用されていません。保護されるのは、素材の選択・配列に表れた創作性だけです。

この点を正面から判断したのが、本記事で取り上げる松本清張映像化リスト事件(東京地判平成11年2月25日・平成10年(ワ)第12109号、判時1677号130頁。文献では「松本清張映画化リスト事件」とも呼ばれます)です。松本清張作品の映像化の全貌をまとめたリストが、著作権法12条1項の「編集著作物」として保護されるのかが争われました。

リスト・名簿・データベースなど「情報を集めた成果物」の権利を考えるうえで、いまも実務で参照され続ける重要判例です。わかりやすく解説します。

前提知識――編集著作物とは

著作権法12条1項の定めるルール

著作権法12条1項は、「編集物(データベースに該当するものを除く。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する」と定めています。百科事典、雑誌、判例集、アンソロジー、各種リスト・名簿などが典型例です。

大切なのは、編集著作物として保護されるのは、収録された個々の素材そのものではなく、どの素材を選び(選択)、どう並べるか(配列)に表れた創作性だという点です。

創作性のハードルは高くない。ただし――

ここでの創作性は、高度な芸術性まで要求されるものではなく、編集者の個性が何らかの形で表れていれば足りるとされています。

しかし、選択・配列が機械的・客観的な基準で決まる場合や、ありふれた基準による場合には創作性は認められません。「該当するものを漏れなく集めて、年代順・五十音順に並べただけ」では、誰が作っても同じ結果になり、編集者の個性が入り込む余地がないからです。

「額に汗」理論は不採用

英米法には、収集・編纂の労力自体を保護する「sweat of the brow(額の汗)」という考え方がありました。しかし日本の著作権法はこれを採用していません。情報の網羅性や正確性はビジネス上重要な価値ですが、著作権の世界では「選択・配列の創作性」という関門を通らなければ保護されないのです。

編集著作物(12条)の要件(松本清張映像化リスト事件)
編集著作物(12条)の要件(松本清張映像化リスト事件)

事案の概要

当事者と問題のリスト

原告は、松本清張氏と生前親交が深く、作品の映像化に長年携わってきた人物です。原告は、松本清張作品の映画化・テレビドラマ化の履歴を自ら調査・整理した「映像化リスト」を作成し、書籍として公表していました。リストには、作品ごとに映像化作品名、放送・公開時期、放送局・製作会社、主要スタッフ・キャストなどが整理されていました。

被告は、松本清張に関する評論的な書籍を出版した出版社と著者です。被告書籍にも、松本清張原作の映像化作品を一覧化した資料が収録されていました。

原告の主張

原告は、自らのリストは編集著作物にあたり、被告書籍のリストはその複製・翻案だとして、出版差止めと損害賠償を求めました。主張の核心は、「膨大な映像化状況の調査・収集には長年の資料収集と確認作業が必要であり、リストには自分の創意工夫が反映されている」というものでした。

争点

争点は、①原告リストは編集著作物(12条1項)として保護されるか(素材の選択・配列に創作性があるか)、②保護されるとして被告リストは複製・翻案にあたるか、の2点ですが、実質的な勝負どころは①でした。

裁判所の判断――編集著作物性を否定し、請求棄却

東京地裁は、原告リストの編集著作物性を否定し、請求を棄却しました。

(1)保護されるのは「選択・配列の創作性」だけ

裁判所はまず、12条1項が保護するのは素材の選択・配列における創作性であって、素材それ自体の価値収集に費やした労力は保護の対象ではないことを確認しました。

著作権法により編集物著作物として保護されるのは,編集物に具現された素材の選択・配列における創作性であり,素材それ自体の価値や素材の収集の労力は,著作権法によって保護されるものではないから,仮に原告が事実情報の収集に相当の労を費やし,その保有する情報に高い価値を認め得るとしても,そのことをもって原告リストの著作物性を認めることはできない。

原告が強調した「多大な調査の労苦」は、それだけでは著作権法上の保護根拠にならないのです。

(2)項目の選択・配列は従来の資料と同じ

裁判所は、映画の宣伝広告や新聞のテレビ番組表では原作者名・監督名・主な出演者名・脚本作成者名が記載されるのが一般であること、「映画年鑑」「ぴあシネマクラブ」「テレビドラマ全史」といった既存の資料でも同種の事項が個々の作品ごとに一覧の形式で収載されていることを認定しました。そのうえで、題名・封切年・製作会社名・監督名・脚本作成者名・主な出演者名等を項目として選択し、その順序に従って配列して事実を整理・編集することは「従来の事実情報資料においても採られていたもの」であって、原告リストに「何らかの独自性、新規性を有するとは認めることができ」ないと判断しています。個々の事実情報の選択・配列の点でも創作性は認められないとされました。

(3)年代順の配列は「ありふれた方法」

配列についても、映像化された年代順などの整理は、この種のリストで誰が編集しても通常採用するありふれた方法であり、独自の創意工夫は表れていないとされました。

学説上も本判決は、選択されたデータ項目(作品タイトル・放送年月日・監督名など)がこの種の一覧表に通常記載される当然のものであり、配列も映画化年代順にすぎないため、創作性が否定されるべき事案だったと位置づけられています(蘆立順美「編集著作物およびデータベースにおける創作性」著作権研究28号22〜23頁参照)。

対比――「一覧表」でも保護された例はある

一覧表なら常に保護されないわけではありません。たとえば城の定義事件(東京地判平成6年4月25日・判時1509号130頁)では、城の名前・その城を素材とした文学作品名・作者名を記載し、城の所在が北から南の順になるよう配列した一覧表について、誰が作っても同じにはならないとして創作性が肯定されています(蘆立・前掲21〜22頁)。「網羅性・機械的基準」か「独自の視点による選択・配列」か――ここが分水嶺です。

本判決の意義と実務への影響

網羅的リスト・データベースは著作権で守りにくい

本判決の最重要ポイントは、網羅性を志向するリストほど編集著作物性が認められにくいという逆説を明確にしたことです。「漏れなく集める」という方針は、選択の幅を自ら失わせるからです。この考え方は、電話帳・職業別名簿・商品カタログなど実用的なデータ集積物一般に当てはまります。

逆に、「編者が選んだ傑作100選」のように選択基準に独自の視点がある場合や、独自の分類・体系による配列がある場合には、編集著作物性が肯定される余地があります。

情報集積ビジネスの複層的な保護戦略

リスト・データベースを事業の核とする場合、著作権だけに依存するのは危険です。実務では次のような組み合わせを検討します。

  • データベースの著作物(12条の2):情報の選択・体系的構成に創作性があれば保護の余地
  • 不正競争防止法:営業秘密(2条6項)・限定提供データ(2条7項)としての保護
  • 契約:利用規約・ライセンス契約で複製・転用を制限する
  • 技術的措置:アクセス制限・スクレイピング対策
  • 独自コンテンツの付加:解説・注釈・評価を加えれば、その部分は言語の著作物として保護され得る

訴訟での主張立証のポイント

リストの作成者側は、「労力をかけた」「網羅性に価値がある」ではなく、選択・配列のどこにどのような創意工夫が表れているかを具体的に主張立証する必要があります。利用者側(被告側)は、選択基準の網羅性・客観性、配列のありふれた性格を具体的に指摘して、編集著作物性自体を争うのが定石です。

情報集積ビジネスの複層的保護戦略
情報集積ビジネスの複層的保護戦略

よくある質問(FAQ)

Q1. 何年もかけて調査したリストなのに、保護されないのは不公平ではありませんか?

A. 心情的にはそのとおりですが、著作権法は「労力」ではなく「創作的な表現」を保護する制度です(額に汗理論の不採用)。労力の成果を守りたい場合は、契約・不正競争防止法・技術的措置など著作権以外の手段を組み合わせる設計が必要です。

Q2. どんなリストなら著作権で保護されますか?

A. 選択や配列に編集者の個性が表れているものです。たとえば「編者の視点で選び抜いたベスト100」や、独自の分類体系で整理したアンソロジーなどは保護されやすくなります。「該当するものを全部集めて年代順」は保護されにくい典型です。

Q3. 他人のサイトのデータを集めて一覧にする「スクレイピング」は自由ですか?

A. 元データが編集著作物・データベース著作物にあたる場合は著作権侵害になり得ますし、利用規約違反(契約違反)や、限定提供データの不正取得(不正競争防止法)が問題になることもあります。著作権が及ばない場合でも適法とは限らない点に注意してください。

Q4. 会社の顧客名簿やデータベースはどう守ればよいですか?

A. 著作権による保護は不確実なので、①秘密管理を徹底して営業秘密として保護する、②利用規約・契約で複製転用を禁止する、③アクセス制御などの技術的措置を講じる、の組み合わせが実務の基本です。

Q5. 判決文や法令を集めたデータベースにも著作権はありますか?

A. 判決文・法令そのものは著作権の目的となりません(著作権法13条)。ただし、収録判例の選択や体系的な構成に創作性があれば、データベースの著作物(12条の2)として保護される余地があります。

まとめ

松本清張映像化リスト事件(東京地判平成11年2月25日)のポイントを整理します。

  • 編集著作物(12条1項)で保護されるのは素材の選択・配列の創作性のみ。収集の労力・素材の価値は保護されない
  • 網羅的に集めて年代順に並べるタイプのリストは、選択・配列とも創作性が否定されやすい
  • 一覧表でも、独自の視点による選択・配列があれば保護された例はある(城の定義事件の一覧表)
  • 情報集積ビジネスは、著作権に加えて契約・不競法・技術的措置・独自解説の付加による複層的な保護設計が不可欠

「調べて集める苦労」と「著作権による保護」は別物です。この距離感を正確につかんでおくことが、コンテンツ・データビジネスのリスク管理の第一歩になります。リストやデータベースの利用・保護でお悩みの場合は、弁護士にご相談ください。

出典・参考文献

  • 東京地判平成11年2月25日・平成10年(ワ)第12109号(判時1677号130頁)〔松本清張映像化リスト事件〕※裁判所ウェブサイト未登載のため判決文リンクはありません
  • 東京地判平成6年4月25日・判時1509号130頁〔城の定義事件〕
  • 蘆立順美「編集著作物およびデータベースにおける創作性」著作権研究28号20頁以下
  • 著作権法12条1項、12条の2、13条

免責事項

本記事は、公刊されている判決情報および一般的な法律情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の対応にあたっては、必ず弁護士にご相談ください。

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