自分のCDを自分の携帯で聴くだけのサービスが、なぜ著作権侵害なのか――MYUTA事件(東京地裁平成19年5月25日判決)とクラウドの著作権

はじめに

自分で買ったCDの曲を、サーバー経由で自分のスマートフォンに入れて聴く――今では当たり前の使い方です。ところが、スマートフォン普及前夜の平成19年、ユーザーが自分の音楽CDをサーバーにアップロードして自分の携帯電話にダウンロードできるようにするサービス「MYUTA(ミュータ)」について、東京地裁は、複製と送信の主体はユーザーではなくサービス提供業者であるとして、JASRACの許諾なしには適法に提供できないと判断しました。
東京地裁平成19年5月25日判決(平成18年(ワ)第10166号 著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕――いわゆるMYUTA事件です。クラウド型サービスと著作権の緊張関係をいち早く顕在化させたこの判決は、ロクラクⅡ事件最高裁判決の前史として、また現在のクラウドサービス設計の反面教師として、今も参照され続けています。

前提知識の整理

  • 複製権(著作権法21条)と私的複製(30条1項):著作物の複製には許諾が必要ですが、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」で使用する者自身が行う複製(私的複製)は適法です。ユーザーが自分のCDを自分のスマホに取り込む行為自体は、通常これに当たります。
  • 自動公衆送信権(23条・2条1項9号の4):サーバーから公衆の求めに応じて自動的に行われる送信には、著作権者の許諾が必要です。
  • 「公衆」(2条5項):不特定の者、または特定かつ多数の者。会員登録をすれば誰でも使えるサービスのユーザーは、業者から見て「不特定」と評価され得ます。
  • 利用主体の規範的判断:物理的に誰がボタンを押したかではなく、システムの設計・管理の実態から、法的に誰が複製・送信を行ったといえるかを判断する考え方(クラブキャッツアイ事件以来の判例の流れ)。本件の核心はここにあります。

判例の紹介と分析

事案の概要

MYUTAサービスの仕組み
原告イメージシティ株式会社が提供しようとした「MYUTA」は、次の仕組みのサービスです。

  1. ユーザーが手持ちのCD音源(MP3等)を、原告配布の専用ソフトでパソコンに取り込み、携帯電話で再生できるファイル形式に変換
  2. 変換されたファイルが原告の運営するサーバーのユーザー専用領域にアップロード・保存
  3. ユーザーが、あらかじめ登録した自分の携帯電話にダウンロードして再生

保存された楽曲にアクセスできるのは、アップロードした本人の登録携帯電話だけです。JASRACから「許諾を得てから提供するように」と申入れを受けた原告は、サービスを一旦停止したうえで、JASRACには差止請求権がないことの確認を求めて自ら提訴しました(債務不存在確認型の訴訟)。

争点

  1. サーバー上にユーザーの楽曲ファイルが保存(複製)される行為の主体は、ユーザーか、業者か
  2. サーバーから各ユーザーの携帯電話への送信の主体は誰か。それは「自動公衆送信」に当たるか

争点1で複製主体がユーザーであれば、私的複製(30条1項)として適法になる余地があります。主体が業者とされれば、業者の事業としての複製に許諾が必要になります。

裁判所の判断

複製の主体は業者である

東京地裁は、①サーバーへの楽曲の蔵置がサービスの重要なプロセスであること、②サーバーは原告が所有・管理していること、③サービスの利用に不可欠な専用ソフトを原告が設計・提供し、サーバーの認証なしには作動しないこと、④複製のプロセス全体が原告のシステム設計に基づくこと、⑤携帯電話でCD音源を利用することは個人には技術的に相当困難で、本件サービスによって初めて可能になること、⑥ユーザーの関与は操作の端緒にすぎないことを挙げ、次のように結論づけました。

本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は,原告というべきであり,ユーザということはできない。

(判決文)
複製の主体が業者である以上、「個人的に使用する者自身の複製」という私的複製の要件は満たされません。

「1対1」の送信でも自動公衆送信になる

原告は「各ユーザーは自分のファイルに自分の携帯からしかアクセスできない。1対1の送信であって公衆への送信ではない」と主張しましたが、裁判所は、送信の主体を業者と認定したうえで、次のように述べてこれを退けました。

本件サービスは,……インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話……を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。

(判決文)
利用主体の判断構造
送信の主体を業者とみる以上、送信の相手方は「そのユーザー1人」ではなく「会員登録した不特定のユーザーたち」になります。主体を誰とみるかによって、「公衆」該当性の結論まで連動して変わる――この構造が本判決のポイントです。結論として原告の請求は棄却され、判決は確定しました。

意義と射程

第1に、クラウド型サービスの著作権リスクを最初に顕在化させた判決です。本判決の4年後、ロクラクⅡ事件最高裁判決(最判平成23年1月20日)〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕は、「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素」を考慮して複製の主体を判断する枠組みを示し、サービス提供者を主体とする規範的な判断手法を最高裁として確立しました。本判決は、その下級審における先行例の一つに位置づけられます(まねきTV事件最高裁判決〔判決文PDF・裁判所ウェブサイト〕が採用した「利用主体を確定したうえで、その主体との関係で公衆該当性を判断する」手法の先行例でもあります)。
第2に、学説上は賛否が分かれました。「ユーザー自身がPCで行えば適法な私的複製と実質が変わらず、権利者に損害を与えない行為を、規範的主体論で違法にするのは不当だ」とする批判(山神清和・判例評論591号39頁等)がある一方、一般ユーザーには技術的に困難な複製を大量に可能にするサービスの提供こそが問題であり、利用主体はもともと規範的な概念であるとして判決を支持する立場もあります(田中豊編『判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講』260〜261頁〔市村直也〕)。
第3に、射程には注意が必要です。本件は、音楽ファイル専用・専用ソフト必須・形式変換込みという、音楽利用に特化した設計のサービスでした。汎用のオンラインストレージ(ファイルの種類を問わず預かるサービス)にまで同じ結論が及ぶかは本判決からは直ちに導かれず、その後のクラウド・ロッカー型サービスをめぐる議論(文化審議会著作権分科会でのクラウドサービスと著作権の検討等)に持ち越されました。現在の音楽サブスクリプション・ロッカーサービスは、権利者側との包括的な許諾関係を前提に設計されています。

実務への影響・ポイント

  • 「ユーザーの私的利用を代行するだけ」という設計思想は危険です。サービス側がシステムを設計し、専用ソフト・サーバーを管理し、複製・送信のプロセスを支配していると、複製・送信の主体はサービス提供者と評価され、私的複製の抗弁が使えなくなります。
  • 「1ユーザー1アカウントの閉じた領域」でも公衆送信になり得ます。会員登録すれば誰でも使えるサービスである以上、ユーザー全体は業者から見て「不特定の者」です。アクセス制限は公衆性を否定する決め手になりません。
  • コンテンツを扱う新サービスは、設計段階での権利処理の検討が不可欠です。本件の原告は、サービスを停止したうえで裁判所の判断を仰ぐという慎重な対応をとりましたが、それでも敗訴しました。ユーザー起点に見えるサービスでも、複製・送信の主体認定リスクを踏まえ、必要な許諾の取得やビジネスモデルの再設計(権利者との提携等)を検討すべきです。

まとめ

MYUTA事件判決は、ユーザーのためのストレージサービスであっても、システムの設計・管理の実態によっては、複製・送信の主体がサービス提供者と評価され、著作権者の許諾が必要になることを示した判決です。規範的利用主体論と「公衆」概念が連動する判断構造は、ロクラクⅡ・まねきTV両最高裁判決に連なるものであり、クラウド時代のサービス設計における出発点として、現在も参照価値を失っていません。

出典・参考判例

参考文献

  • 田中豊編『判例でみる音楽著作権訴訟の論点80講』(日本評論社、2019年)250〜261頁〔市村直也〕
  • 中山信弘『著作権法〔第4版〕』(有斐閣、2023年)772頁(規範的利用主体論の裁判例として本判決を引用)
  • 山神清和「CD等の楽曲を自己の携帯電話で聞くことのできる『MYUTA』という名称のサービスの提供が、当該音楽著作権者の複製権及び自動公衆送信権を侵害するとされた事例」判例評論591号39頁

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。具体的な問題については弁護士にご相談ください。

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