譲渡権とは?中古販売が適法になる「消尽」までわかりやすく解説【具体例つき】

【この記事の3行まとめ】

  • 譲渡権(著作権法26条の2)=著作物の原作品・複製物を公衆に「譲渡」する行為をコントロールする権利(映画の著作物を除く)
  • 一度適法に譲渡された複製物には権利が及ばない(消尽)――中古本・中古CDの売買が適法な理由。最高裁は中古ゲームソフト事件で頒布権にも消尽の理を適用しました
  • 海賊版など違法複製物の販売には消尽が働かず、譲渡権侵害が成立します(善意無過失の転売者には113条の2の特例あり)

はじめに――古本屋もフリマアプリも「なぜ適法」なのか

古本屋、中古CDショップ、そしてメルカリなどのフリマアプリ。私たちは日常的に、他人の著作物(本・CD・ゲームなど)の「中古品」を売り買いしています。しかし著作権法には、著作物の複製物を公衆に譲渡する権利=譲渡権が定められています。権利者の許諾なく中古品を販売することは、譲渡権の侵害にならないのでしょうか。

答えのカギは「消尽(しょうじん)」という考え方にあります。この記事では、譲渡権の内容、消尽の仕組みと根拠、そしてゲームソフトの中古販売を適法と判断した中古ゲームソフト事件(最判平成14年4月25日・平成13年(受)第952号、民集56巻4号808頁・判決文PDF・裁判所ウェブサイト)までをわかりやすく解説します。

前提知識――譲渡権と頒布権の役割分担

著作権は、複製権・上演権・公衆送信権など、利用態様ごとの権利(支分権)の束です。「物を公衆に提供する」場面をカバーする支分権は、対象によって次のように分かれています。

  • 譲渡権(26条の2)――映画以外の著作物について、原作品・複製物の譲渡により公衆に提供する権利。平成11年(1999年)改正で導入
  • 頒布権(26条)――映画の著作物について、複製物の譲渡・貸与により公衆に提供する権利。劇場用映画フィルムの配給制度を前提に設けられた強力な権利
  • 貸与権(26条の3)――映画以外の著作物について、複製物の貸与により公衆に提供する権利(貸与権の解説記事参照)

「公衆」への提供が要件ですから、友人1人に本を売る・譲るといった特定少数への譲渡はそもそも譲渡権の問題になりません。

譲渡権とは――26条の2第1項

条文は次のとおりです。

第二十六条の二 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。

音楽CD、書籍、イラストの原画、プログラムのパッケージなど、著作物の原作品・複製物を「販売」することは譲渡による公衆への提供にあたり、原則として譲渡権者の許諾が必要です。出版社やレコード会社が作品を販売できるのは、著作権者から譲渡権を含む利用の許諾(または権利の譲渡)を受けているからです。

消尽――中古販売が適法になる理由

1 仕組み:最初の適法な譲渡で権利は「使い切り」になる

26条の2第2項は、譲渡権が及ばない場合を列挙しています。中心となるのが1号です。

一 前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物

つまり、権利者(またはその許諾を得た者)がいったん適法に市場に置いた複製物については、その後の再譲渡に譲渡権は及びません。これを「消尽」(用い尽くされること)といいます。新品として正規に販売された本やCDを、買った人が古本屋に売り、古本屋が別の客に売る――この連鎖のどこにも著作権者の許諾は不要です。

2 なぜ消尽するのか――2つの根拠

消尽が認められる理由は、大きく2つあります。

  • 取引の安全・商品の自由な流通――転売のたびに権利者の許諾が必要だとすれば、市場での商品の流通が著しく阻害されます
  • 二重の利得の防止――権利者は最初の譲渡の際に対価を回収する機会を保障されており、流通のたびに二重三重の利得を認める必要はありません

3 国際消尽――正規の輸入盤にも権利は及ばない

2項5号は、国外で適法に譲渡された複製物を輸入して国内で販売する場合にも譲渡権が及ばないことを定めています(国際消尽)。海外で正規に販売されたCDの並行輸入が原則として適法なのはこのためです。ただし、音楽レコードには還流防止措置(113条10項)という別の規制があるほか、海賊版の輸入は113条1項1号のみなし侵害となるため、「国外で適法に譲渡されたもの」であることが前提です。

消尽の仕組み――中古販売が適法になる理由
消尽の仕組み――中古販売が適法になる理由

中古ゲームソフト事件――頒布権と消尽をめぐる最高裁判決

事案の概要

家庭用テレビゲームソフトの中古販売をめぐり、ゲームメーカー側が「ゲームソフトは映画の著作物であり、頒布権(26条)により中古販売をコントロールできる」と主張して、中古販売業者に販売の差止め等を求めた事件です。映画の頒布権には26条の2第2項のような消尽の明文規定がなかったため、①ゲームソフトは「映画の著作物」か、②映画の著作物だとして頒布権は最初の適法な譲渡で消尽するか、が争われました。

最高裁の判断

最高裁は、まず本件ゲームソフトが「映画の著作物」にあたり著作権者が頒布権を専有することを認めた上で、特許製品の並行輸入に関する判例(BBS事件・最判平成9年7月1日)を引用しつつ、消尽の理が著作物の譲渡にも原則として妥当するとしました。その理由として、①著作権者の権利保護は社会公共の利益との調和の下で実現されるべきこと、②商品の譲渡では譲渡人の権利が譲受人に移転し、市場での自由な流通が予定されていること、③譲渡のたびに許諾を要するとすれば市場での商品の自由な流通が阻害されること、④権利者は最初の譲渡で対価を回収する機会を保障されており「二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない」ことを挙げています。

結論として、公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲームソフトについては、いったん適法に譲渡された複製物を公衆に再譲渡する行為に頒布権(のうち譲渡する権利)は及ばないとされ、中古ゲームソフトの販売は適法と確定しました。

本判決の意義

本判決は、明文の消尽規定がない頒布権についても解釈により消尽を認めたもので、消尽が「取引の安全と二重利得の防止」という制度趣旨に根ざした一般的な法理であることを示しました。譲渡権(26条の2)の明文の消尽規定と併せて、「適法に市場に置かれた複製物の転売は自由」という原則が、著作物の種類を問わず妥当することになります。

消尽しない場合――海賊版と善意者の特例

違法複製物には消尽が働かない

消尽するのは「適法に」譲渡された複製物だけです。海賊版・違法コピー品は、そもそも権利者による適法な最初の譲渡がないため、消尽しません。海賊版を公衆に販売する行為は譲渡権侵害の典型例であり、フリマアプリやネットオークションでの海賊版販売も同様です。海賊版と知りながら頒布目的で所持する行為も、みなし侵害(113条1項2号)にあたります。

知らずに転売した人の保護――113条の2

では、海賊版と知らずに購入した人が、それを転売してしまったら侵害になるのでしょうか。著作権法113条の2は、複製物の譲渡を受けた時に違法複製物であることを知らず、かつ知らないことについて過失がない者による公衆への譲渡は、譲渡権を侵害する行為でないものとみなす特例を置いています。取引の安全のための規定ですが、「無過失」の立証が必要であり、極端に安い価格や出所の怪しさなど、海賊版を疑うべき事情があった場合には保護されない可能性があります。

消尽しない場合――海賊版とデジタルコンテンツ
消尽しない場合――海賊版とデジタルコンテンツ

どんな場面で問題になるか――具体例

  • 中古書店・中古CD店・フリマでの中古品売買――正規に販売された複製物は権利が消尽しているため、転売は適法
  • ゲームソフト・DVDの中古販売――映画の著作物として頒布権の問題になるが、中古ゲームソフト事件により、適法に譲渡された複製物の再譲渡には及ばない
  • 海賊版・違法コピー品の販売――消尽の適用がなく、譲渡権侵害の典型例。フリマアプリでの海賊版販売も同様
  • 電子書籍・ダウンロード購入した音楽の「転売」――消尽は有体物(原作品・複製物)の譲渡についての制度です。データの送信は譲渡権ではなく複製権・公衆送信権の問題となるため、「中古デジタルコンテンツ」の販売は消尽では正当化できません
  • 限定販売品の転売――譲渡権の問題は生じない(消尽)が、契約(会員規約等)違反や転売禁止条項の問題は別途あり得る

よくある質問(FAQ)

Q1. 譲渡権とはどんな権利ですか?

A. 著作物の原作品や複製物を、公衆への譲渡(販売など)により提供することについて、著作権者が許諾するかどうかを決められる権利です(著作権法26条の2)。映画の著作物は頒布権(26条)でカバーされるため対象外です。

Q2. 中古の本やCDを売るのは譲渡権侵害になりませんか?

A. なりません。一度適法に譲渡された複製物については譲渡権が「消尽」するため、その後の転売に権利は及びません。中古書店やフリマアプリでの売買が適法なのはこのためです。ゲームソフトについても、最高裁が中古販売を適法と判断しています(中古ゲームソフト事件)。

Q3. 海賊版と知らずに転売した場合はどうなりますか?

A. 違法複製物には消尽が働かないため譲渡権侵害が問題になりますが、譲渡を受けた時に違法複製物であることを知らず、かつ知らないことについて過失がない人による公衆への譲渡は、譲渡権を侵害する行為でないものとみなす特例があります(著作権法113条の2)。無過失といえるかは取引の状況によりますので、弁護士にご相談ください。

Q4. 電子書籍やダウンロード販売の音楽も「中古」として売れますか?

A. 消尽は、有体物としての原作品・複製物の譲渡について認められる制度です。ダウンロード型のコンテンツを他人に送信・提供する行為は複製権・公衆送信権の問題となり、消尽による適法化はされません。利用規約でもアカウント譲渡等が禁止されているのが通常です。

まとめ

  • 譲渡権(26条の2)は、著作物の原作品・複製物の公衆への譲渡をコントロールする権利
  • 権利者が適法に市場に置いた複製物には譲渡権が及ばない(消尽)。根拠は取引の安全(商品の自由な流通)と二重利得の防止にあり、最高裁は中古ゲームソフト事件で頒布権にも同じ理を適用した
  • 海賊版には消尽が働かない。販売は譲渡権侵害となり、善意無過失の転売者のみ113条の2で保護される

「転売してよいものかどうか」の判断は、複製物の出所の適法性や販売態様によって変わります。海賊版の販売への対応(警告・損害賠償・刑事告訴)を検討する権利者の方も、転売の適法性に不安のある事業者の方も、著作権に詳しい弁護士にご相談ください。

出典・参考判例/参考文献

  • 最判平成14年4月25日・平成13年(受)第952号(民集56巻4号808頁)〔中古ゲームソフト事件〕・判決文PDF・裁判所ウェブサイト
  • 最判平成9年7月1日(民集51巻6号2299頁)〔BBS並行輸入事件〕(中古ゲームソフト事件判決の引用による)
  • 著作権法26条、26条の2、26条の3、113条1項・10項、113条の2(条文はe-Gov法令検索の現行法で照合)
  • 中山信弘『著作権法〔第4版〕』(有斐閣、2024年)333〜344頁(頒布権の限界・譲渡権と消尽)

免責事項

本記事は、裁判所ウェブサイトで公開されている判決情報および一般的な法律情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。実際の対応にあたっては、必ず弁護士にご相談ください。

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